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子どもならきっと誰でもしたことのある「ねたふり」。そんな微笑ましい姿とそこに込められた愛らしい心の動きをテーマにした絵本『ねたふりゆうちゃん』が、3月3日(水)に発売されました。
描いたのは、気鋭のイラストレーターであり、本書が2作目の絵本となる阿部結さん。編集を手掛けたのは、かがくいひろしさんの「だるまさん」シリーズや、ヨシタケシンスケさんの『りんごかもしれない』をはじめとする発想えほんシリーズで知られる沖本敦子さんです。
今回は、編集者であり母である沖本さんの視点から、本作の魅力について綴っていただきました。
わたしもねたふり好きな子どもでしたが、7歳の息子も、やっぱりねたふりが大好き。飽きずにしょっちゅうやっています。ねたふりしているまあるい顔を眺めていると、ほっぺがむずむず動き出し、こらえきれずにクックと笑い出す。なーんて、かわいいのかしらね。この光景はきっと、世界中あちらこちらで、日々繰り返されているはず。
にもかかわらず、「ねたふり」の絵本って、そういえばなかったような。阿部結さんにゆうちゃんのラフを見せていただいたとき、「これは絶対に世に出したい」と動悸が早くなりました。
晴れて刊行となった『ねたふりゆうちゃん』は、そこにあるだけで、空気がふわりとゆるむような絵本。ページのあちこちでねたふりするゆうちゃんに、やわらかな光が降り注ぎます。
世界が目まぐるしく変化し、情報が溢れる今の時代、わたしたちは常に緊張してアンテナを張っています。子どもの将来を考え、あれこれと躍起になり、なんだか疲れ果ててしまう。そんなとき、わたしたちがすることは、新たな情報を取り込むことでも、子どもの脳に知的刺激を与えることでもなく、子どもと一緒に、たわいのないのんきな日々を過ごすこと。過ぎてしまえば一瞬のちびさんとの時間を、気持ちに余白をもって味わうことなのかもしれません。
『ねたふりゆうちゃん』の全編に漂う、力の抜けた幸福なのんびり感は、心のこわばりを解いてくれます。最後のページの、ゆうちゃんとおかあさんのお昼寝姿も必見。一気に気持ちがゆるみますよ。
最後にひとつ、エピソードを。阿部結さんによると、『ねたふりゆうちゃん』は、お母さんにかまってほしいという気持ちや、満たされなさが創作の源になっているそう。阿部さんは、3人姉妹の真ん中、お母さんは学校の先生として忙しい日々を送られていました。
親は子どもを満たそうと頑張りますが、子どもに限らず、ひとりの人間を完璧に満たしてあげることはできません。子どもは、親の目が行き届かない場所でも、自分で心をしっかりと育んでいく。ある程度のさみしさや孤独、誰にも構われないひとりの時間は、子どもの心を豊かにすると、わたしは常々思っているので、当時の気持ちを見事昇華し、作品に結実させた阿部さんのおはなしは、とても印象的でした。
阿部さんのお母さんは、『ねたふりゆうちゃん』をすごく気に入ってくれたそう。娘の心がいかに豊かに育ったか。お母さんにとって、阿部さんの絵本を読むことは、長い育児の果てに用意されていた最高の贈り物ではないかしらと、現在育児マラソンをひた走るわたしなどは、大変にうらやましく思うのでした。
沖本敦子(子どもの本の編集者)
・ヨシタケシンスケの絵本で考える「自分」や「自分らしさ」:わが店のイチオシ本(vol.36 Hama House)