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  • ハンバーグの匂いを嗅ぐと本屋さんに行きたくなる!武田綾乃さんの幸せな記憶

    2021年03月07日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃さん。2月には、累計160万部突破の大ヒット作「響け!ユーフォニアム」シリーズのスピンオフ『飛び立つ君の背を見上げる』が発売され、話題となっています。

    青春時代のヒリヒリとした痛みと成長を描き、多くの共感を集める武田さんが本好きに育ったきっかけは、ある“幸せな匂い”にあるそうです。今回はその温かいエピソードについて、エッセイを寄せていただきました。

    武田綾乃
    たけだ・あやの。1992年京都府生まれ。第8回日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた『今日、きみと息をする。』が2013年に出版されデビュー。『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』がテレビアニメ化され話題に。同シリーズは映画化、コミカライズされ人気を博している。2021年、『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。その他の著作に『その日、朱音は空を飛んだ』などがある。

     

    幸せの匂い

    ハンバーグの匂いを嗅ぐと、本屋さんに行きたいなぁと思う。街中を歩いていて、ダクトから漂うデミグラスソースの香りに出くわすともうダメだ。スマートフォンの地図アプリを開き、最寄りの本屋さんを検索してしまう。

    その原因を記憶から探ると、明確な心当たりがある。私の家は母親、弟の3人家族で、月に数回外食に行っていた。その中でもお気に入りだった店が郊外にあるハンバーグレストランだった。広い駐車場に大勢の家族連れ。店内は混雑しており、整理券を受け取って時間を潰すのが常だった。車の中で過ごす家族も多く見受けられたが、私達はいつもレストランの隣にある本屋さんで買い物をしながら順番を待っていた。というよりむしろ、本を買いたいがために、私も弟もそのハンバーグレストランに行きたがっていた節がある。

    その本屋さんはとにかく広かった。平べったくて、コンテナをいくつもくっつけたような形をしていた。「ライトノベルならウチにお任せください!」という手書きのPOPの言葉通り、とにかく品ぞろえが凄かったことを覚えている。

    ところで、私の家には本屋チャンスという謎の恒例行事があった。1か月に1度、母親が本屋に私と弟を連れて行き、5,000円くらいまでなら何でも買っていいよと言ってくれた。漫画も本も図鑑もOKだが、予算上限を絶対に超えてはならないという条件だった。

    大人にとっての1か月はあっと言う間に過ぎるものだけれど、子供にとっての1か月は長い。母親が忘れていることも多かったので、私と弟は本屋チャンスの時期が近付くと、「そろそろレストランのハンバーグが食べたいなぁ!」などとそれとなく言うようにしていた。

    今思うと母親的には痛い出費だったと思うのだけれど、私も弟も本好きに育ったのは読む本を大人が指定しないという母親の教育方針のおかげだろう。私にとって、本屋さんはずっと楽しみだけを与えてくれる素敵な場所だ。

    平積みされた棚を見るのも勿論好きだったけれど、私は背表紙がずらりと並ぶ棚を見るのも好きだった。背表紙は表紙に比べて余計な情報がそぎ落とされている分、そこから滲む作品ごとの個性が感じられるのが良い。

    私が小・中学生の頃はライトノベルの興隆期だった。棚差しされた本のカラフルな背表紙を今でもよく覚えている。当時のスニーカー文庫は色合いがパッキリとしていて、背表紙がほぼ1色。電撃文庫はカミナリのロゴが特徴的で、色のある部分が真ん中で区切られていた。ガガガ文庫なんかは濃い青色で統一されていたから分かりやすかった。

    ライトノベルは紙質がツルツルしているものが多かったから、色が鮮やかで目を惹いた。好きな作者の本を買い続けていると同じ色の背表紙の本がたくさん増えていき、それを自室の本棚に並べるのが好きだった。

    弟と協力して、シリーズ物の本を一気に買うあの快感は忘れがたい。所謂大人買いというやつは、子供の頃には滅多に出来ない贅沢な経験だった。

    レストランの待ち時間で本を買う時は、いつも一度車に戻って本を置くようにしていた。本に匂いがつくからだ。早く本が読みたいなぁ、あの続きはどうなったのかなぁ、と弟と2人でやいやいと喋り、そうこうしているうちに自分達がレストランに入る順番がやってくる。本を買って興奮したまま、美味しそうなメニュー写真を見る流れになるため、ハンバーグと本の記憶が密接に結びついてしまっている。

    大人になった今でもハンバーグの匂いで本屋さんに行きたくなるのだから、染み付いた習慣というのは恐ろしい。大人買いをしてずっしりと重くなった紙袋を片手に提げ、私は本屋さんを後にする。早く読みたいというソワソワした気持ちは子供の頃から何一つ変わらない。昔も今も、私にとっての幸せとはおなじような匂いをしている。

    (「日販通信」2021年3月号「書店との出合い」より転載)

     

    著者の最新刊

    飛び立つ君の背を見上げる
    著者:武田綾乃
    発売日:2021年02月
    発行所:宝島社
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784299013514

    傘木希美、鎧塚みぞれ、そして吉川優子。
    四人で過ごした、最高にいとおしくて、最高に誇らしかったあの日々――。
    北宇治高校三年、中川夏紀。
    私は今日、吹奏楽部を引退した――。
    『響け! ユーフォニアム』シリーズの人気キャラ・中川夏紀の視点で、傘木希美、鎧塚みぞれ、そして吉川優子をみた物語。
    エモさ全開の青春エンターテインメント。

    〈宝島社 公式サイト『飛び立つ君の背を見上げる』より〉

     

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