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時代小説の中でも近年注目を集めている文庫書き下ろしから、特にいま読んでおきたい作家8人のシリーズを担当編集者が紹介する「時代小説文庫、いま読むならこの作家!」。最後にご紹介するのは野口卓さんの「ご隠居さん」シリーズです。
「鏡磨ぎ。カガミ・トギー・ピッカピカに磨ぎます磨きます。いくら自慢のお顔でも、鏡が曇れば映りません」
こんな掛け声とともに梟助(きょうすけ)じいさんが町を流すと、待ってましたとばかりにあちこちから「ねえ、聞いて聞いて」と声がかかります。落語や書物の圧倒的な教養があり、話し上手の聞き上手。梟助さんは様々な階級の家に入り込んでは、鏡を磨きながら面白い話を次から次へと披露し、ときには鮮やかに謎を解くのです。
5歳で死んだ子供が別の夫婦の子として生れ変わり、飼い犬が思わぬ証言をした!?という噂から、犬が人に、人が人に生まれ変わったらと思わぬ方向へ話は広がり……(第三巻「犬の証言」)。お客に誘われた百物語の催しで、鏡絡みの怖い話を披露することに。その縁で自分の血縁を知り、もう知ることはできないと諦めていた両親の名が明らかに……(同「百物語」)。
著者の野口卓さんは、2011年に『軍鶏侍』で時代小説デビュー。同作が歴史時代作家クラブ新人賞を受賞し、圧倒的な評価を得たのは周知の通り。他には「北町奉行所朽木組」シリーズ等がありますが、小説家デビューする前は、劇作家として活躍しながら、落語の本を何冊も上梓した、筋金入りの“落語通”なのです。
いろいろな噺家が出入りする寄席で、どんな話が飛び出すか、わくわくしながら待っている気分になる「ご隠居さん」シリーズ。梟助さんの魔法の話術に、ぜひハマってみてください。
(文藝春秋 文春文庫部 北村恭子)
野口卓(のぐち・たく)
1944年、徳島生まれ。1993年、一人芝居「風の民」で第3回菊池寛ドラマ賞を受賞。2011年『軍鶏侍』(祥伝社文庫)で時代小説デビュー。書き下ろしの同作は、歴史時代作家クラブ新人賞を受賞。ほかのシリーズに「北町奉行所朽木組」(新潮文庫) がある。
(「新刊展望」2016年4月号より転載)