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書店店頭で日々読者の熱量を肌で感じ、自身もコミックを愛する“目利きのプロ”である書店員の皆さん。「全国書店員が選んだおすすめコミック」が、今年ももうすぐ発表されます。
今回で16年目を迎える「全国書店員が選んだおすすめコミック」は、その名のとおり、全国のコミック売り場で働く書店員さんの投票によって、今最も注目のコミックを決める漫画賞。投票時点で既刊5巻以内の作品を対象に、上位15作が“入賞作”となり、ランキング形式で発表されます。
2006年にスタートし、第5回(2010年)よりランキング形式を導入。第5回の第1位は、青桐ナツさんの『flat』でした。以降、『進撃の巨人』『暗殺教室』『坂本ですが?』『魔法使いの嫁』などが第1位に輝き、その後多くが2~3年のうちにアニメ化され、さらに読者を拡大しています。
2020年は『鬼滅の刃』が大ヒットしましたが、同作は2017年時点で5巻を超えており、今回の投票対象にはなりません。しかし“鬼滅フィーバー”でコミック読者自体が増えた今、「面白いコミック」を求める人はこれまで以上に増えているはず!!
そこで今回は、異なる店舗で働く3人の書店員さんにご協力いただき、「2021年の第1位は?」を中心に、今のコミックの現場について座談会を行ないました。ぜひあなたも、第1位作品を予想しながらご覧ください。
リブロプラス 商品部BOOKグループ 池本美和さん
SHIBUYA TSUTAYA 実松由夏さん
三省堂書店海老名店 近西良昌さん
―― それでは、さっそく始めていきましょう! まずはお三方、自己紹介をお願いします。
池本: リブロプラスの池本です。今は商品部に所属して、チェーン本部としての仕入を担当していますが、昨年までは店舗のコミック売り場で働いていて、第1回の「全国書店員が選んだおすすめコミック」受賞作から店頭で売っていました。商品部ではコミックのほかに、雑誌と芸術書の仕入も担当しています。オールタイム・ベストは『ワールドトリガー』や『寄生獣』『AKIRA』……なんですが、新しい作品で注目しているのは『チ。―地球の運動について―』。ダークな雰囲気のある骨太な歴史漫画で、かなり期待作です。
実松: SHIBUYA TSUTAYAの実松です。店舗がオープンした1999年にアルバイトとして働き始めて、当時からコミックを担当しています。私はとにかく『名探偵コナン』が昔からずっと大好きで、特に新一が好きです。最近注目しているのは『シャングリラ・フロンティア』ですね。読みたいなと思っていたら入荷分をあっという間に売りきってしまったので(笑)、次に入荷されたときに買う予定です。個人的には『煙と蜜』も好きです。
近西: 三省堂書店海老名店の近西です。18歳で書店員になって、ずっと海老名店で働いています。コミックの担当は、もう20年になりました。今はコミックのほかに、学習参考書や語学辞書、雑誌の売り場も担当しています。好きなコミックは、オールタイム・ベストでいえば森山大輔先生の『クロノクルセイド』。最近注目しているのは『メダリスト』です。
―― フィギュアスケートの漫画ですね。
近西: スポーツ漫画が好きで、フィギュアスケートを題材にした作品もほぼほぼ読んでいるんですが、そのなかでも『メダリスト』は今一番アツいです。スポーツの中でもフィギュアスケートの技って、すごく絵で表現しにくいと思うんですよ。それをすごく魅力的に描いていらっしゃるし、展開を超人技にたよることなく、キャラクターがまだ子どものうちから、内面にまでしっかり踏み込んで描かれている。こんな読み応えは久しぶりで、力を入れて売りたいなと思っています。ちょっとセリフが多めですが、そのセリフも重要なので、漫画好きの方には特におすすめです。……でも僕、感覚がちょっとズレてるのか、自分がおすすめするものってなかなか「全国書店員が選んだおすすめコミック」の上位に入らないんですよね……。1位、予想できるかな(笑)。
―― 皆さん、「全国書店員が選んだおすすめコミック」歴代のランキングをあらためて振り返って、どう思われましたか?
実松: その時々の、書店店頭のリアルな売れ行きがあらわれているなと思いました。「今すでに売れ始めていて、これからもっと売れるぞ」という。ノミネート形式じゃないのがいいのかもしれないですね。候補を絞るとどうしても視野が狭くなってしまいがちですけど、自由投票にすることで、書店員の皆さんそれぞれの現場の肌感覚が出ている気がします。
近西: その時代に合ったものがちゃんとランクインしている印象ですね。上位作品はしっかり売れているものばかりです。面白いのは、今爆発的に売れている『鬼滅の刃』が2017年時点では第14位だということですね(同年の第1位は『からかい上手の高木さん』)。
池本: 投票時点ではまだ、第3巻までしか発売されてなかったんだよね。懐かしいなあ、私と近西さん、これくらいの頃にお互いの店舗で『鬼滅の刃』合同フェアやったよね(※)。集英社さんに企画を持ち込んで、吾峠先生にペーパーを描いてもらって……。あれは当時だからできたことだなあ。
※このペーパーの企画及び配布は終了しています
実松: あの時はまさか、ここまで爆発的なヒットになるなんて誰も予想してなかったですよね。“爆発前”であることが、第14位という順位にも表れているように思います。
池本: 連載初期からファンはついていたし、読者の熱量が高い作品ではあったんだけど、「誰もが知る作品」ではなかったですよね。まだ裾野が広がっていなかった。この頃はまだ、書店員の間でも“一部の人だけが気づいている”という状態でした。
実松: そう考えると『SPY×FAMILY』や『呪術廻戦』は、まだ1~2巻しか出ていないなかでこれだけ注目されていたってことですよね。あらためてすごい。
―― ランキングが発表される前と後で、書店でのお客様の動きにはどんな変化がありますか?
池本: コミック売り場って「ほしいものが決まっている人」が多いので、たいていのお客様が、来店するとまっすぐ目的の棚に向かって、まっすぐレジにいらっしゃるんですよね。それが「全国書店員が選んだおすすめコミック」のランキングが発表されて、フェアのコーナーができると、まだ特にほしい本が決まっていない、来店してから何を買うか売り場を見ているお客様が立ち止まってくださいます。それは、以前からずっと変わらない動きです。具体的には、家族連れや学生の方のコミックのお買い上げが増えますね。
近西: そうでありつつ、近年は、事前にWebでランキング内容をチェックして、何を買うかある程度決めてから来店するお客様も増えてきました。常連さんではない方から、「Twitterで見て、この作品が第1位だそうなんですが……」という感じでお問い合わせいただくことも多いです。
池本: そんななかでやっぱり今回は、どんな作品がランキング入りするのか特に注目すべきタイミングだと思うんですよ。
池本: コミックを買いに来るお客様って、事前にご自分でタイトルや発売日を調べてから来店されることが多いんです。売り場に慣れているから、どのあたりを見れば自分のほしいコミックがあるのかもだいたい把握していらっしゃる。だから先ほど話したように、まっすぐ売り場へ向かって、レジにいらっしゃるわけです。それが『鬼滅の刃』がヒットしてからは、“まだ特に買うものを決めていないお客様”が増えました。コミック売り場のお客様の数自体も増えましたしね。それまで漫画をあまり読んでいなかった方が『鬼滅の刃』を読んで、「面白かったからほかの漫画も読んでみたいな」と書店へ足を運んでくださっているんです。郊外のショッピングモールにある書店さんは、特にそういう傾向があるんじゃないですかね。
近西: 確かにそうだね。コミック売り場に小学生のお客様がいるなんて、それまではあまり見ない風景だったけど。さっき挙がった『SPY×FAMILY』も、最近は家族連れのお客様にもよく購入されているし、『呪術廻戦』読者の平均年齢も、アニメ化以降どんどん下がってきている気がする。
実松: SHIBUYA TSUTAYAはもともと大人のお客様が多いんですが、それでも確かに若いお客様がぐっと増えましたね。高校生のお客様もそこまでお見かけしないほどなのに、今は午前中にお客様が親子で来店されたりします。
池本: ですよね。そういうお客様に“今売れているもの”を実店舗の店頭でレコメンドするって、すごく重要だと思うんですよ。だから「全国書店員が選んだおすすめコミック2021」のランキングが発表されて、それにお客様がどんなふうに反応するのか、いち書店員として非常に気になっています。
近西:「◯◯っていうコミックが面白いんだけど知ってる? もう読んだ?」っていう流れが復活してきた感があるよね。学生のお客様が友達同士で連れ合って買いにくる動きが、また生まれてきた気がする。
池本: そういう意味で、小中学生にヒットするコミックがもっともっと増えるといいよね。
―― ではそろそろ、本題の1位予想に入りましょうか。候補を挙げて「どれが第1位になるか」を考えるというよりは、「ランキング15作品に入ると思うコミック」を出し合っていくのがよさそうです。
近西:『葬送のフリーレン』は入ると思いますね。
池本・実松: それは絶対入ってますね!
池本: 5位以内には入ってそうですよね。あと『僕の心のヤバイやつ』も入ってると思う。前回第13位だったんだけど、今回は順位が上がっているはず。
実松: 私は『カッコウの許嫁』かなあ。
近西: それから、和山やま先生の『女の園の星』。和山先生のことは『夢中さ、きみに。』の時点で、書店員は全員チェックしているはず。和山先生の作品は、書店員みんなが好きだと言っても過言ではない(笑)。
実松: すごいインパクトでしたよね。『夢中さ、きみに。』は単巻ものでしたけど、強烈に記憶に残っています。
池本: ジャンプコミックスではどうだろう? 『アンデッドアンラック』とか。『怪獣8号』は絵もよくて最高なんだけど、投票期間にまだ単行本が発売されていなかったから、今回は対象じゃないんだよね。
近西:『マッシュル-MASHLE-』が上位をとる気がしますね。あとは…………、あっ! ジャンプコミックス以外ですが『わたしの幸せな結婚』は絶対上位にくると思います。今、ものすごく売上が伸びてるので。
実松: ああ~!
近西: 少女漫画だと『はやくしたいふたり』とか『消えた初恋』も売れてほしいなあ。こういうタイミングで、少女漫画の読者がどかんと増えるとうれしい。
池本:『ちはやふる』みたいな、男性読者も多い作品に育てたいよね。私、もう一つ「これだ!」と思ってたのがあるんだよなあ……。……『【推しの子】』だ!! 私はこれでファイナルアンサー(笑)。
―― ここで取次仕入担当の意見も聞いてみましょう。石黒さん、どうですか?
石黒(日販 コミック仕入課係長): 巻数がまだ少ないものでは、先ほど挙がった『わたしの幸せな結婚』と『【推しの子】』は、仕入部数を見ても要注目といえそうです。
―― ではいったん、挙がったものをまとめておきますね。
※タイトル五十音順
・『アンデッドアンラック』(戸塚慶文/集英社)
・『【推しの子】』(原作:赤坂アカ、作画:横槍メンゴ/集英社)
・『女の園の星』(和山やま/祥伝社)
・『カッコウの許嫁』(吉河美希/講談社)
・『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人、作画:アベツカサ/小学館)
・『僕の心のヤバイやつ』(桜井のりお/秋田書店)
・『マッシュル-MASHLE-』(甲本一/集英社)
・『わたしの幸せな結婚』(原作:顎木あくみ、漫画:高坂りと、キャラクター原案:月岡月穂/スクウェア・エニックス)
―― 毎日相当な数の新刊が発売されるなかで、書店員の皆さんは日々、どんなふうに作品をチェックしているんでしょう。
近西: 僕は、連載誌はほぼすべて読んでいます。それから、最近はWebで試し読みが公開されているものも多いので、出版社公式サイトや漫画アプリ、pixivはチェックしていますね。TwitterなどSNSで、ユーザーの皆さんが「これ面白かった」とつぶやいているものも必ずチェックしています。
池本: 私も連載は読んでますけど、一番情報収集をするのは発注締切のタイミング(発売の約1か月前)ですね。1巻目が発売されるものは特に、詳細を調べたり、試し読みを読んでおくようにしています。絵を見ただけで「おおっ」と思うものもあれば、今までにない設定の面白さに惹かれることもあるし、1話目から展開が衝撃的で「これは続きが気になるぞ……!」とチェックしておくものもあるし、やっぱり、作品によっていろいろではありますね。最近は、出版社さんが1話目のゲラを判断材料として提供してくれることも増えました。
実松: 表紙も大事ですよね。棚差しになると背表紙をたよりに見つけることになるので、平台に並んでいるときに“面”としてどれくらいインパクトがあるかは重要です。
池本: 表紙はめちゃくちゃ大事。特に「店頭で売れるか」に関しては、一巻一巻の表紙がかっこいいだけじゃ足りないんですよ。第5巻まで出ているとしたら、第1巻から第5巻まで並べたときの印象まで込みでデザインされているものは、やっぱり伸びます。作家さんの画力の高さがいかされていて、タイトルロゴが際立っていると、それを手に取るお客様にも強く印象付けられるんですよね。例を挙げると『ブルーピリオド』の書影はすごくいいです。並べたときに統一感があって、それでいてはっきりと目立つ存在感があります。
近西:『五等分の花嫁』もいいですよね。次の巻でどのキャラクターが表紙を飾るのか、楽しみにしているお客様も多かったです。
―― 品揃えや売り場づくりで意識していることはなんでしょう。これからもっとコミックが盛り上がっていくために、書店員として大切にされていることを教えてください。
近西: 自分がよいと思ったものをおすすめする。それから、日々売り場を見ているとだんだんお客様のニーズがつかめてくるので、そのニーズにきちんと焦点をあわせて売り場展開をするというのがまず基本です。それを土台にしつつ、これから考えなくちゃならないのは、新しい作品をすすめるとき、流行のスピードがとても速いことを考慮することです。ニーズに敏感でいること、そのニーズにこれまで以上に寄り添って展開することが、ますます重要になってくると思います。
実松:『鬼滅の刃』ブームで、「それを求めて来店されたお客様にきちんと応えたい」とあらためて感じましたね。“商品を確保する”ことが大前提にあるなと思いました。
池本: 私は「わかりやすい売り場を作ること」「半歩先を見て品揃えすること」ですね。先ほどの〈鬼滅以前、鬼滅以後〉の話題にも通じるんですが、“ライトな漫画好き”が増えた今、売り場のレイアウトや分類を複雑にせず、「売れているものが見つけやすいところにドンと並んでいる」ことはすごく重要です。その一方で、ずっと前から来てくださっている漫画読みのお客様にもきちんと満足してもらえる店でありたい。「この本屋ならあるだろう」という期待をもって買いに来てくださっているわけですから。なので、プラスアルファとして「半歩先」を意識しています。
――「1歩先」ではないんですね。
池本: その塩梅が大事ですね。1歩先、2歩先をいくとそれは“コアな書店”になるんです。そこを目指しているのでないなら、半歩先のタイトルをきちんと揃えて、納得して買っていただけるように試し読みの小冊子をつけておく。それが「この本屋ならあるだろう」という信頼につながると思っています。
「全国書店員が選んだおすすめコミック2021」は1月29日(金)発表!
さて、見事第1位に輝くのはどの作品なのか……? 発表をお楽しみに!!
・今一番面白い漫画はこれ!「全国書店員が選んだおすすめコミック 2020」ランキング発表