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  • 【Vol.11:藤原無雨】編集者が注目!2021はこの作家を読んでほしい!

    2021年01月03日
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    ほんのひきだし編集部
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    新型コロナウイルスの流行で、〈日常〉が大きく揺らいだ2020年。不安な日々のなか、物語のもつ力をあらためて実感した人も多かったのではないでしょうか。また、そんな1年間にも、新たな物語が紡がれ、物語を生み出す新たな才能も誕生してきました。

    今回は「編集者が注目!2021はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。

     

    河出書房新社編集者 竹花進さんの注目作家は「藤原無雨」

    藤原無雨(ふじわら むう)
    1987年、兵庫県姫路市生まれ。埼玉県在住。2020年、『水と礫』で第57回文藝賞を受賞。マライヤ・ムー名義の共著『裏切られた盗賊、怪盗魔王になって世界を掌握する』がある。

     

    この過酷な時代だからこそ生まれた大型新人

    全て投げ出して、しがらみのない土地で新生活を築きたい。そんな願いを、誰しも一度は抱いたことがあるはずだ。もしあなたの日常が過酷なものであればなおさらだろう。

    『水と礫』は、公募の新人賞である、第57回文藝賞を受賞した作品だ。選考委員の磯﨑憲一郎氏、穂村弘氏、村田沙耶香氏らの絶賛により過去最多応募数から選ばれた1篇であり、作品が発表されるや「この10年ほどの純文学新人賞受賞作の中でも屈指」(栗原裕一郎氏、「週刊新潮」2020年11月19日号)という評価を受けた。

    著者の藤原さんは、ガルシア=マルケスやブッツァーティ、ペレーヴィン、保坂和志などとにかくいろんなものを読んできたという。そしてライトノベルですでに活躍していて、本作は、純文学でありながらもRPGゲームをプレイするようなワクワク感をもたらす。

    本書の主人公クザーノは、東京でのドブさらいの仕事中の事故をきっかけに生まれ故郷へと戻ったが、やがてラクダのカサンドラを従え、灼熱の砂漠へと旅に出る。砂漠のむこうに何があるのかは誰も知らないし、砂漠がどこまで広がっているのかもわからない、命を賭けた無謀な旅に。

    旅の計画は周到だった。綿密に準備し、誰にも告げることなく、住み慣れた土地を去ったのだ。過去のすべてを投げ出すには多大なエネルギーがいるし、その先には苦難が待っている。砂漠の熱に体を灼かれるほどの。命からがらの苦難の後、やがてクザーノは、見知らぬ街へたどり着く。そして、新しい生活を始める。

    ちなみにそんな砂漠は日本に存在しない。しかしこれは現代日本の物語であり、まぎれもなく、この時代の日本だからこそ生まれた小説だ。プリキュアも出てくる。

    そして本作の一番の特徴は、「1」「2」「3」「1」「2」「3」……と、章番号が何度もループすることだ。ループする度に、クザーノは東京で事故に遭い、灼熱の砂漠を越え、新生活を始める。そしてループを重ねるほどに、まるで小説自体が生き物となって自ら成長するように、物語は拡大してゆく。

    「ひとりの男の挫折と逃避の物語」は、クザーノの父、祖父、子、孫らの「壮大な一族の物語」へと、どこまでも広がってゆく。

    もしあなたが、一度でもこの現実から逃れたいと思ったことがあるのなら、ぜひ本書を読んでほしい。この作品には、新しい世界へと踏み出す希望と絶望のすべてが詰まっている。

    (河出書房新社 文藝編集部 竹花進)

    水と礫
    著者:藤原無雨
    発売日:2020年11月
    発行所:河出書房新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784309029306




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