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新型コロナウイルスの流行で、〈日常〉が大きく揺らいだ2020年。不安な日々のなか、物語のもつ力をあらためて実感した人も多かったのではないでしょうか。また、そんな1年間にも、新たな物語が紡がれ、物語を生み出す新たな才能も誕生してきました。
今回は「編集者が注目!2021はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
辻堂ゆめ(つじどう ゆめ)
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』など多数。『あの日の交換日記』は「王様のブランチ」で特集が組まれ、大きな話題に。
辻堂ゆめさんとの出会いは、当時住んでいた家の近くの啓文堂書店さんで、たくさん平積みされていた文庫『いなくなった私へ』(宝島社)でした。印象的な装丁のこの本は、「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞した、辻堂ゆめさんのデビュー作です。
真相が知りたくてページを繰る手が止まらない。この1冊を読んだだけで、著者が書く文体や、登場人物たちの温かさと人間味の虜になりました。その後、『コーイチは、高く飛んだ』『あなたのいない記憶』(ともに宝島社)と次々読み進め、そしてすぐに執筆依頼のご連絡をしました。
初めてお会いしたときの印象は、「ま、まぶしい…!」。年下の作家さんを担当するのは初めてでしたし、持っていらっしゃる経歴も隅から隅まで輝かしい。(1992年生まれの辻堂さんは東京大学ご出身、アメリカからの帰国子女。さらに体操をされていて、バク転が得意とのこと(!)。TBSの番組「有吉哲平の夢なら醒めないで」にご登場された際の番組タイトルは、「美人作家のホンネSP!」……!)
ドキドキしながら、でも真剣に、辻堂さんに長編作品の執筆をお願いしました。あれから約3年。ついに2020年11月、単行本として刊行されたのが『十(とお)の輪をくぐる』です。
『十の輪をくぐる』は、1964年の東京五輪の時代と、現代パートを交互に進んでいきます。当時17歳だった万津子は、現代パートでは80歳も間近となり、認知症を患っています。2020年東京五輪の特集を報道するテレビを見て、万津子が口にしたうわ言は、「私は……東洋の魔女」「泰介には……秘密」。
同居する58歳の息子・泰介はそれを聞き、いまさら、母の過去を何も知らないことに気づきます。「秘密」ってなんだろうか。その答えを探す旅が、泰介の人生を変えることになります。
編集部でゲラを読みながら、ラストシーンに向けて、胸に温かいものが広がり、何度も嗚咽が漏れそうになりました。あの感動を、読者のみなさまにもぜひ体験してほしい!
12月5日にはTBS系「王様のブランチ」でも特集が組まれた話題作です。前作の『あの日の交換日記』(中央公論新社)も秀逸。幅広いジャンルで筆を自在に操れる。編集部一同将来を楽しみに感じている作家です。
まだ読んだことがない方は、まずはぜひ、著者渾身の感動作『十の輪をくぐる』をお手に取ってみてください。「読んでよかった」と思える読書体験をお約束します。
(小学館 出版局 室越美央)