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  • 【Vol.8:松下隆一】編集者が注目!2021はこの作家を読んでほしい!

    2020年12月31日
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    ほんのひきだし編集部
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    新型コロナウイルスの流行で、〈日常〉が大きく揺らいだ2020年。不安な日々のなか、物語のもつ力をあらためて実感した人も多かったのではないでしょうか。また、そんな1年間にも、新たな物語が紡がれ、物語を生み出す新たな才能も誕生してきました。

    今回は「編集者が注目!2021はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。

     

    新潮社編集者 田中範央さんの注目作家は「松下隆一」

    松下隆一(まつした りゅういち)
    1964年、兵庫県生まれ。京都の松竹撮影所内にあった伝説の「KYOTO映画塾」を卒業後、脚本家になる。『二人ノ世界』が第10回日本シナリオ大賞佳作入選、2020年7月、林海象プロデュース、永瀬正敏主演で映画化、公開された。脚本作品に映画『獄に咲く花』、ドラマ『天才脚本家 梶原金八』、NHKドラマ『雲霧仁左衛門』、著書に『二人ノ世界』『異端児』などがある。2020年3月、『もう森へは行かない』(刊行に際して『羅城門に啼く』と改題)で第1回京都文学賞最優秀賞を受賞。京都市太秦在住。

     

    女優・吉岡里帆さんも推薦!! 「第1回京都文学賞」受賞作

    「この競争入札にエントリーし、出版権を獲得せよ」。出版部長の中瀬ゆかりから、こんなミッション(業務命令)が下ったのは2020年2月のことでした。

    京都市が中心となって創設された「京都文学賞」は、刊行を希望する出版社が受賞作の改稿点などをまとめ、その「競争入札」によって出版先が決まります。いち早く受賞作を読んだ中瀬が魅了され、私も一読して驚嘆、そして感嘆でした。

    平安朝の羅城門周辺を舞台とする『羅城門に啼く』は、芥川龍之介と黒澤明のともに名作『羅生門』の「生きるとは?」「罪と罰とは?」といった問いかけとテーマを受け継ぐ重厚な長篇小説で(「羅生門」と「羅城門」は一字違いながら、同じ門です)、必死になって改稿点などをまとめ、なんとか出版権を射止めました。

    主人公の若者・イチは盗みや悪を屁とも思っていなかったものの、空也上人に絶命の窮地から助け出されてから、人が変わり始め、疫病に斃れた死者の弔いを手伝い、人の命をすくうよう上人に命じられます。

    そんななか、イチが出くわしたのは、かつて物取りに入った豪商の娘で、両親を失い、すっかり落ちぶれた身重のキクでした。キクはイチが物取りの一味だったとは知らずに世話になり、臨月が近づき、ふたりが心を通いあわせるようになりかかったとき、イチの過去を知る悪党仲間が目の前に現れる……。

    息詰まる展開が随処にありますが、それもそのはず、著者はNHKドラマ『雲霧仁左衛門』などを手がけたベテラン脚本家の松下隆一さん。往年の京都の「活動屋」から作劇などを叩き込まれたそうで、満を持しての小説執筆でした。

    本の装画は2020年に「京都市芸術新人賞」を受賞したばかりの俊英・服部しほりさんの日本画、帯に推薦文を寄せてくれたのは女優・吉岡里帆さんです。

    過密スケジュールの合間に届いたのは「嗄(しわが)れた心音が聞こえた。一滴(ひとしずく)の愛を欲し、誰かを想って生きている。切なくて、哀しくて……そんな想いを抱きながら読みました」と深く読み込み、感じ入った吉岡里帆さんならではの一文でした。

    早くも「古典」の風格を漂わせ、世界初の長篇小説『源氏物語』が書かれた京都の地に誕生した文学賞の名にふさわしい長篇を、是非ご一読ください。

    (新潮社 出版部 田中範央)

    羅城門に啼く
    著者:松下隆一
    発売日:2020年11月
    発行所:新潮社
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784103537519

    Vol.9に続く

    ※1月1日 正午公開※




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