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  • 吉本ユータヌキ×佐渡島庸平『おさんぽ恵比寿』インタビュー:STREET&BOOKSで挑戦した、漫画家としての新たな試み

    2020年12月01日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    11月18日より恵比寿スカイウォークにて、吉本ユータヌキさんによる14日間の連続デジタルサイネージ漫画『おさんぽ恵比寿』が連載されています。

    これは、〈街角に、物語を。〉のコンセプトのもと生まれた「STREET&BOOKS」プロジェクトの第2弾。なにげないけれどかけがえない日常のひとコマを、親子それぞれの視点で同時に切り取った作品です。

    ユータヌキさんが「漫画家としても新しい挑戦だった」と語る本作。ユータヌキさんと編集者・佐渡島庸平さんのお二人に、創作時のエピソードを伺いました。

    《 インタビュー前編から読む

    吉本ユータヌキ(よしもと・ゆーたぬき)
    1986年生まれ。大阪出身・滋賀在住の漫画家であり、3児の父。18歳から8年間活動していたバンドが解散し、サラリーマンとして安定に歩み直した矢先に子どもが誕生。成長を残す意味で描き始めた漫画『おもち日和』で、集英社より出版デビューすることに。2019年に会社員を辞め、2020年コルクに所属……と転がるような人生を送っている。無理しすぎない頑張りすぎないをモットーに、読む人の肩の力が抜けるようなエッセイ漫画を描く。

    佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
    株式会社コルク代表取締役社長、編集者。1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年に講談社を退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行なう。従来の出版流通の形の先にある「インターネット時代のエンターテイメント」のモデル構築を目指している。

    ―― ユータヌキさんには3人のお子さんがいらっしゃいますが(5歳の女の子、3歳の男の子、0歳の男の子)、ユータヌキさんご自身はどんな子どもだったんですか?

    吉本: 僕は外に出るのがあんまり好きじゃない子どもでした。それは今も変わらなくて、「ここへ行きたい」「あれを見に行きたい」という外への好奇心は薄いほうですね。でも父親になって、「子どもたちにこういうものを見せたい」「こういう体験をさせてあげたい」という意味で興味を持つことはすごく増えました。子どもの目線ではどんなふうに見えるんだろうと、建物を見上げることも増えましたね。

    ――「吉本ユータヌキ」というペンネームを使い始めたのは、7年前くらいからなんですね。

    吉本: もともとは本名でブログを書いていたんですが、ペンネームに憧れがあって、特に山崎ナオコーラさんみたいな本名をもじったペンネームがかっこいいなあと思っていたので「ユウタ」に「タヌキ」を付けて「ユータヌキ」にして、自分のキャラクターもタヌキにしました。ペンネームを付けても結局かっこよくはなってないんですけど(笑)、タヌキのキャラにしたことで男女を意識させないといういい効果もあったので、結果的によかったなと思っています。

    ―― 第1弾のインタビューで、「何を描くか」「どう描くか」どちらについても新たな挑戦をされたとおっしゃっていました。これまで4コマ漫画や1ページ漫画を多く描かれてきたなか、今回はさらに少ないコマ数で表現するという、デジタルサイネージ連載ならではの制約がありましたね。

    吉本: そこが初めての試みで、難しかったです。パッと見て一瞬で理解できて、なおかつ次も読みたいと思ってもらえるものでなければいけない。コマ数が少ないぶんを文字で補うこともできないので、普段の漫画とは描いていて全然違いました。

    佐渡島: ポスター1枚使ってもなかなかメッセージを伝えきれないなかで、たった2~3コマの漫画で人の目を惹いて、読んでもらわなきゃいけないっていうハードルがあったよね。でもそれって、ユータヌキさんが漫画家として今直面している課題でもあったんですよ。たとえばユータヌキさんは今Twitterのフォロワーが10万人いて、その10万人に楽しんでもらうことはできている。でも漫画家としてさらに活躍するには、瞬間的に世間の人の心を惹きつける絵柄やカットが必要なんです。そういう意味で、「街角で漫画を連載する」というお題はうってつけだなと思いました。

    吉本: それから、僕はこれまで「こういうことがありました」「その時子どもがこんな言動をしました」っていう出来事だけを描いて、それに対して何を思うかは、読んだ方にすべて委ねてきました。でも今回の『おさんぽ恵比寿』では、シチュエーションと子どもの言動に、自分の思いを加えて描くことにも挑戦しています。

    佐渡島: まだコルクに所属する前、ユータヌキさんが「漫画を見てください」と連絡をくれたくらいの頃から「何があったかだけじゃなく、それに対してユータヌキさんがどう思ったのか、子どもに何をしてあげたいと思ったかを描くともっと面白くなるよ」と伝えていたんです。

    吉本: それがここ約4か月の、漫画創作におけるテーマでした。すでに僕の作品を知ってくれている方は、僕のこともある程度知っているから、漫画を読んで共感してくれるんですけど、今回はたまたまそこを通りかかった人たちが見て、その人たちにも「自分もこんなことがあったな」「自分の子どもだったらどうかな」と思ってもらいたい。だからコマ数が少ないだけじゃなくて、テーマ自体も今までよりかなり広くもつように意識しました。漫画の作り方が根本から違いましたね。

    ―― そういえばユータヌキさんは、普段どんなふうに漫画のネタを集めているんですか?

    吉本: 基本的にはスマホアプリのメモを使っています。日々のなかで何かあったらすぐにメモするようにしていて、エピソードが箇条書きでたくさん入ってます。

    ――『おさんぽ恵比寿』を描くにあたり、滋賀在住、さらにコロナ禍下ということもあって、実際にお子さんと恵比寿へ出かけるのは難しかったですよね。

    吉本: そうですね。それは、漫画を描くにあたって一番最初に考えたことでした。でも以前、佐渡島さんに「創作漫画はエッセイ漫画の延長にある。だから自分が体験したことをもとにストーリーを作るのが、一番リアルで説得力があるんだ」とアドバイスをもらっていたんです。だから、これまでの子どもとのやりとりを思い出しつつ、「こういうシチュエーションなら、きっと子どもはこんなことを言うだろうな」「自分だったらその時どう答えるかな」と想像しながら描きました。読んでくれた方は、ぜひ恵比寿に行ってみて、どうだったか確認してほしいです。

    ―― 自分の経験をもとにしつつ「実際にこういうことがあったら……」と考えるのは、読者と同じ視点でもありますね。ちなみに『おさんぽ恵比寿』には、たとえば第4話「いまの時代」のように、「どうするのがいいんだろう」と結論が出ないまま終わるお話もあります。子育てにおいて、大切にしていることは何かありますか?

    吉本: まずは、親としての考えを押し付けないことです。僕自身が「人に迷惑をかけることでなければ、何を選んでも応援するよ」というふうに育てられてきたので、自分の子どもにも、自由にいろんなことを経験してほしいなと思います。そんななかで最近考えているのが、息子(長男)が女の子の服を着たがること。結婚式に出席した時に「スーツじゃなくてお姉ちゃんの着てるドレスがいい」って駄々をこねたり、普段も、髪を伸ばしたがったり、ピンク色の服が好きだったり、かっこいいより「かわいい」って言われるほうが嬉しそうだったりするんですよね。お姉ちゃんの影響もあるのかもしれませんし、保育園に入れなくて、同世代の男の子と遊ぶ機会がほとんどなかったのも理由の一つかもしれません。そもそもまだ自他の性別をはっきり認識する年齢じゃないしなあと思いつつも、年齢にかかわらず息子の好きなほうを選んでほしい、でも、そのことが理由でつらい思いをしないだろうかと、ちょっとだけ悩んでいます。強制もしたくないから、今のところ、やんわりと男の子らしいものを買い与えたりして、どっちも選べる状況だけは作ろうと思っているんですけど。

    佐渡島: 昨日まで嫌がってたものを、ある日突然「これが好き!」って言い出すこともあるしね。それは、ある程度大きくなってからもけっこうあるよ。

    吉本: 佐渡島さんもお子さんがいらっしゃって、noteの「好きのおすそわけ」などで息子さんの不登校のことを書いていらっしゃるんです。僕も「もし将来、子どもから『学校に行きたくない』と言われたら、自分は何て言えるだろう」とどこか頭の片隅で考えていたので、佐渡島さんの考え方には、子どもときちんと向き合うことを教えてもらいました。さっき「漫画に描いた出来事に対してどう思うかは、読者の皆さんに委ねてきた」と話しましたけど、僕は「自分はどうしたいか」っていう能動的な感情を、これまでどこか抑えてきたところがありました。考え方は人それぞれだし、その人の「こうしたい」という気持ちは自由だから、自分がどう思ったかは口に出さなくていいやと思っていたので。でも、子どもと向き合っているうちに「子どもがどう感じてるのかもっと聞きたいな」と思うようになったし、「もっと子どものことを知りたい」っていうのも、能動的な感情なんだなと気づいたんです。だから今は、子どもが話していること、興味を持っていることに、自分と同じ目線で興味を持つことを意識するようになりました。これまで大切にしてきた「誰が読んでも楽しめて、誰も傷つけないものを作ろう」という気持ちはそのままに、それを漫画に描いていくことが、これからの僕のテーマです。

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