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  • 『惡の華』の押見修造 最新作!幼なじみ3人の揺れる“性”と“青春”を描く『おかえりアリス』

    2020年12月04日
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    花森リド:講談社コミックプラス
    Pocket

    おかえりアリス Vol.1
    著者:押見修造
    発売日:2020年10月
    発行所:講談社
    価格:495円(税込)
    ISBNコード:9784065205938

     

    表紙から目が離せない

    ゴングが鳴る前に「負けましたー!」と言ってしまいそうになる。そう、『おかえりアリス』は読む前からすでに惑うマンガなのだ。ふらふらと吸い込まれそう。

    髪、目、口、鼻、指先、肌の色。紙の書籍に巻かれた帯の少し薄い質感もいい。ためしにこの帯を上にずらして表紙の目元や口元を隠してみた。たいへんよかった。

    では、この表紙の美しい子は何者なのか? 1巻を最後まで読んでも私は明確な答えを持っていない。

    全身をグラグラ揺さぶられる。でも見たいものを見たいタイミングで口に運んでくれるマンガだ。めまいがする。

     

    幼なじみの3人

    『おかえりアリス』は3人の少年少女の物語。幼稚園の頃から一緒だった3人がおなじ中学校に入り、みんなで揃ってテニス部に入っている。まず“亀川洋平”。メガネの男の子。そして“三谷結衣”。ポニーテールがかわいい女の子。

    ボールに手を伸ばす結衣の愛らしい表情と、こちらにずいっと差し出された手に唾を呑みそうになる。洋平の「ああ……」みたいな声が聞こえてきそう。つまり洋平は結衣のことが好きなのだ。

    そして幼なじみ3人組の最後の1人は……。

    “室田慧”。とにかくスマートな男の子だ。

    3人は幼なじみだから呼び名も「洋ちゃん」「慧ちゃん」と親しげで、女の子の結衣だけは今は「三谷」と呼ばれている。結衣は2人のことを変わらず「洋ちゃん」「慧ちゃん」と呼んでいるのに。この感じが生々しい。

    呼び方も少し距離があるし、部活も近いようで男女に分かれてしまう。そんな思春期と第2次性徴のまっただ中で、3人の関係は変質していく。

     

    好きな人っている? オナニーは?

    学校からの帰り道、慧は洋平に「好きな人いる?」と質問する。ここから押見節が唸りはじめる。急に「あれ?」と心細くなるのだ。どこに私たちを連れて行くの? と。

    結衣のことを思い出して赤面する洋平と、あどけないのに涼しい顔で洋平を見つめる慧。

    ずんずんと洋平の「性」へと分け入っていく慧。慧は洋平に「もっといいやり方」を教える。「みんなやってるやり方」だよ、と。洋平は慧に教わったやり方でオナニーを試して……。

    大絶賛。

    慧はやっぱり洋平にずんずん踏み込んでくる。すでに私までむずむずしているのだが、ここでもう1人の幼なじみにも変化が訪れてしまう。そう、結衣だ。

    結衣は慧のことが好きで、ラブレターを慧に送っていたのだ。ラブレター! 正攻法で行ってる。そんな結衣に対して慧は……?

    ああもう。毎晩オナニーで夢想していた女の子が目の前で幼なじみとキスをしてる様子をみっちりと見てしまう洋平。地獄。そしてこの時の慧の目を見てほしい。天国なんてどこにもない。

    ……で、洋平が見ていることに、慧は気がついてしまうわけですよ。さあドロドロかと思いきや、さらに居心地のよくないものを本作は見せてくれる。この時の慧の表情を私は引用できない。「なにその顔―!」と心が戸惑う。なので、ぜひ読んで言葉をなくしてほしい。

    この「事件」のあと、洋平は慧とも結衣とも口をきかなくなり、そうこうしているうちに慧は姿を消してしまう。

     

    「僕は男を降りた」

    3年後、洋平と結衣は同じ高校に入学する。3年間ずっと声をかけられなかった結衣に勇気を出して「三谷さん」と呼びかける洋平。苗字どころか「さん付け」だ。

    でもちゃんと変わらず「洋ちゃん」と呼んでくれる結衣。よっしゃー! 浮かれる洋平は、凄まじい美少女がこっちを見ていることに気がつく。

    怪しげで、美しく、ずっと見ていたい。この美少女は洋平が結衣を想像しながらオナニーをしていることを知っている。そう、彼女は慧なのだ。

    入学式当日の自己紹介もこの通り。女になりたいわけでもない、でも男からは降りる。この日から、慧のいう「男を降りる」を軸に、洋平と結衣と慧の「性」がグチャグチャに揺れ始める。

     

    「そうしなければ一生ダメな気がする」

    本作では「そうしないとダメな気がする」というセリフが洋平と慧の口からそれぞれ別のタイミングで発せられる。洋平の場合は「三谷と付き合う!そうしないと一生ダメな気がする!」だし、慧は別のアプローチを選んでいる。そして2人に共通しているのは「変わらないと」という焦燥だ。

    このがむしゃらな荒々しさを思春期に感じた人は多いはずだ。そしてその化け物の名前をきちんと明らかに呼べる人はどのくらいいるのだろう。まだ引きずっていないだろうか?

    あっけらかんと「男を降りた」と舞い戻ってきた慧は、洋平や結衣の身体にためらいなく触れ、絶句させ、3人が抱える鬱屈と性をひたすら掻きまわそうとする。私は彼に嫌悪感を抱けないし、その理由をずっと考えている。

    「変わらなきゃ」と「変わってよ」と「変わらないで」がない交ぜになった3人はこれからどんな高校生活を送るのだろう。

    私はこの心乱れるホームパーティーから逃げ出したくてしょうがなかった。でも最後まで見てしまう。そうしなきゃダメな気がする。引力が強すぎるのだ。

    試し読みはこちら

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2020年11月7日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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