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5代目を決めるのは誘拐勝負。浅井家の跡目争いが、予想外の方向に捻れていく。
新堂冬樹の新刊は、ユニーク極まりないドメスティック・クライムだ。
双葉社Web文芸マガジン「カラフル」で好評連載された、新堂冬樹の『誘拐ファミリー』が刊行された。すでにネット上で読んだという人なら納得してくれるだろうが、ユニーク極まりないドメスティック・クライムである。
世田谷にある浅井家は、ペットホテルを営んでいる。――というのは表の顔。真の稼業は営利誘拐だ。戦前から一家で誘拐をビジネスにしている。今も家族6人で、映画監督を誘拐し、見事に身代金を手に入れた。だが長男の太陽は、冷酷な行動をする次男の吹雪が気に食わない。打ち上げの席で、次男と揉めてしまう。そんなことがあったからだろうか。父親でリーダーである大地から、太陽と吹雪のどちらを5代目にするか、誘拐勝負で決めるように命じられる。
対象は、宗教団体『天鳳教』教祖の長男の一馬と、長女の明寿香。太陽は、妹の星と、祖父の大樹とチームを組み、明寿香を誘拐することになる。しかし一馬を誘拐するはずの吹雪のチームをチェックしていた太陽は、彼らがルール違反をしようとしていると確信。妨害行動に出た。この騒動が切っかけになり、誘拐勝負は、思いもかけない方向に捻れていくのだった。
特異な設定から生まれる、先の読めない展開。本書の面白さを簡単に述べれば、こうなるだろう。特異な設定は、いうまでもなく浅井家である。戦前から営利誘拐を、ファミリー・ビジネスとしている一家。誘拐する相手は悪人限定。さらに、窃盗、レイプ、薬物、殺人はしないという、代々のルールがある。そんな家族の長男と次男が、5代目の座を賭けて、誘拐勝負に挑む。この設定だけで本書の成功は約束されたといっていい。
しかも誘拐勝負が始まってからの展開が、予断を許さない。子供の頃に愛犬を轢き殺されてから、冷酷な性格になった吹雪を心配する太陽。だが彼も、激しい性格に蓋をして生きてきた。複雑な感情を抱いて争う兄弟の行動に、『天鳳教』の一馬と明寿香の思惑まで絡まり、事態は二転三転どころか四転五転。読者を翻弄しまくる作者の手腕が、素晴らしい。
さらに、誘拐勝負を言い出した大地の狙い。吹雪の心底にある思い。内通者の存在など、幾つものフックを作って、ストーリーへの興味を高めている。その果てに迎えたラストで、本書がクライム・ノベルであると同時に、家族小説であることが分かった。ふたつのジャンルを、鮮やかに融合した一冊なのである。
「小説推理」(双葉社)2021年1月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載