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新型コロナウイルスの流行で、〈日常〉が大きく揺らいだ2020年。不安な日々のなか、物語のもつ力をあらためて実感した人も多かったのではないでしょうか。また、そんな1年間にも、新たな物語が紡がれ、物語を生み出す新たな才能も誕生してきました。
今回は「編集者が注目!2021はこの作家を読んでほしい!」と題して、各出版社の文芸編集者の皆さんから【いま注目の作家】をご紹介いただきます。
夏木志朋(なつき・しほ)
1989年、大阪府生まれ。大阪市立第二工芸高校卒。2019年、第9回ポプラ社小説新人賞受賞作『ニキ』にてデビュー。
予感などなかった。藪から棒に打ちのめされた。
これが新人賞のために書いたはじめての長編だって? 選考にあたったメンバーの一人は、「この人、前世もぜったい作家でしたね」と笑った。
そんなわけで、とんでもない小説をひっさげて彼女、夏木志朋は登場した。受賞作は『ニキ』というタイトルで出版、書店さんや読者から様々な反響、感想が寄せられている。
だが、もっとも印象深かったのは身近な同僚編集者の反応だった。
「読んでみて」と渡したのに、いつまで待っても感想がかえってこない。珍しい。しびれを切らし、「読んでくれた?」と訊くと、「もちろん」と強い目で向きなおられた。
「あのさ、無理だよ。わたしには無理だった」。鮮烈な口調にたじろいだ。
『ニキ』という作品は、なんであれ読者から強い反応を引き出すのだ。怒涛のエンタテインメントでありながら抜き差しならぬ問いを孕んでおり、「ああ、面白かった」で終われない。この作品の主役である高校生と教師は、両者ともに社会との軋轢を生む強烈な個性の持ち主で、それは努力や成長によって変わるものではない。
そんな性(さが)をもつ人間は、どう生きたらいいのか。いや、自分はどうなのか。
物語に揺さぶられてしまえば、自分が黙殺してきた「何か」を感じてしまう。地続きの問いがこちらにむかってくるのだ。読んでいるあいだは面白くてならないし、感情が忙しく動き回る。喜怒哀楽の消費量が測れたならとんでもない数値になりそうだ。
だが波が去ったあとに残るのは、ある種の希望だった。過ぎ去った頁に埋め込まれた言葉が思い出され、わたしは励まされる。夏木志朋という作家はこれからどこに向かうのだろう。次の作品が待ち遠しい。
(ポプラ社 編集者 野村浩介)
Vol.2に続く 》