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  • 「いつまでも、待ちます」読者の声が支えに。復刊を果たした「天然生活」編集長エッセイ

    2020年11月13日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    ナチュラル・スローライフをテーマに、ていねいな暮らしを楽しむ生活情報誌として根強いファンを持つ「天然生活」。出版社の倒産で一度は休刊になりながらも、その半年後に扶桑社から復刊を果たし、大きな話題となりました。

    その過程では、数多くの読者から編集部に熱い声が寄せられたそうです。その声に作り手はどのような思いを抱いたのか、復刊までの道のりとともに、八幡眞梨子編集長に綴っていただきました。

    天然生活 2021年 01月号
    著者:
    発売日:2020年11月20日
    発行所:扶桑社
    価格:900円(税込)
    JANコード:4910163850113

     

    倒産、復刊を経て強まった、読者とのつながり

    2019年2月、出版社「地球丸」が倒産しました。長らく財務状況がよくないことはわかっていましたが、突然のことでした。

    折しも「天然生活」5月号の校了日10日前のこと。これから迷惑をかける関係者のこと、出たばかりの本のこと、進行中の本のこと。問題が山積みで、足が震える思いでしたが、編集部員全員で、できることを精一杯やりました。

    そのうち、倒産の事実が世間にも徐々に伝わりはじめたころ、予想外の出来事が起こり始めました。読者から、電話や手紙が届き始めたのです。

    電話には出られない決まりでしたが、破産管財人立ち会いのもとで、留守番電話を聞くことができました。そこには、「いままでありがとう」「紙や写真の質を落としてよいので続けてほしい」「心の支えだから年に3回でいいから出してほしい」などの読者からの声が入っていました。手紙も毎日、同様の内容のものが届き始めました。

    幸いにも倒産後、すぐに譲渡先として何社かが手を挙げてくださいました。そのころ、4000人ほどいた定期購読者に、出版元は変わるけれど継続する予定である旨、連絡をしたところ、「いつまでも、待ちます」とおっしゃる方が多く、先の予定が決まっていないにもかかわらず、解約する方がほとんどいなかったのです。

    お恥ずかしながら、私はそれまで読者がどんな方なのか、どんな思いで本を買ってくださっているのか、わかった気になっていただけで、ほとんどわかっていませんでした。「これほど愛され、必要とされていた雑誌だったのか」と衝撃を受けました。

    倒産から約1か月たち、縁があって扶桑社への移籍が決まりました。編集部全員受け入れるという、理想的な形でした。創刊編集長であった小林孝延氏がいることも、心強いことでした。

    復刊1号目を出すにあたり、プレッシャーはありましたが、伝えたい内容に、あまり迷いはありませんでした。テーマはこの雑誌の基本である「日々の家仕事」に決め、まっさきに、93歳の料理家、桧山タミさんに取材の打診をしました。ふだんはメディアには出ない先生ですが、「良い本だから、応援したいわね」とおっしゃってくださり、ご登場くださいました。

    巻頭のお菓子は、信念をもってお菓子をつくる、なかしましほさんに「いつものお菓子」というテーマで取材依頼をしました。「ふだんの暮らしが一番大切」というシンプルなメッセージを、ご登場いただいた皆様を通じて伝えたかったのです。

    復刊1号目の撮影は、スタッフのみなさんから、温かいお言葉をいただいたり、小さな花束をいただいたり、復刊をともに喜んでくださり、感無量でした。また、復刊号の別冊付録では、校了直前で出せなかった、幻の2019年5月号の特集「朝ごはん」をつけることができたのも、うれしいことでした。

    結果的には、「天然生活」復刊号は、発売前に重版がかかり、さらに5刷りが決まりました。なにより、読者の反応が熱かった。「本屋さんで見つけたときは涙が出ました」「書店員の方と、思わず手をとって喜び合いました」。気づけば届いた便りは2,000通を超えていました。

    出版不況がささやかれる中で「天然生活」が復活できたのは、雑誌の世界観が確立し、読者に受け入れられてきたからではないかと思います。私自身、倒産、復刊を経たいま、読者がとても身近な存在になり、どんな方がどんな思いで手に取ってくださっているのか、少しだけわかるようになったと思います。

    同時に読者にも変化を感じます。積極的に関わりたい、支えたいという気持ちを強く感じます。復刊後、最初にいただいた電話は、「本当によかったわね。これからもがんばってね!」というおばさまの明るいお言葉でした。

    振り返れば、辛いこともたくさんありました。それでもいまは、すべての方に感謝の思いでいっぱいです。読者を信じて今日も雑誌を作っていきたいと思います。


    扶桑社「天然生活」編集長
    八幡眞梨子 YAWATA Mariko
    愛知県出身。料理の雑誌及び書籍の編集者を経て、2008年より「天然生活」の編集に携わる。2016年より副編集長、2018年より編集長。


    (「日販通信」2020年11月号「編集長雑記」より転載)




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