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  • 波乱に満ちた天才作家の人生――娘が語る「トルーマン・カポーティ」の素顔とは:『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』インタビュー

    2020年11月06日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    『ティファニーで朝食を』(1958)、『冷血』(1966)など多くの傑作を残した“アメリカ文学の寵児”であるとともに、戦後アメリカにおけるセレブリティのアイコン的存在でもあったトルーマン・カポーティ。

    彼についての資料や知人・関係者らへのインタビューから、彼の未完の遺作となった『叶えられた祈り』執筆の裏側に迫るドキュメンタリー映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』が、11月6日(金)に公開されました。

    若くして成功し、各界のセレブリティと華やかな交友関係を持ちながら、『叶えられた祈り』のスキャンダラスな内容が論争を呼んだことで一転、孤独とうつ状態に苦しみ、アルコールとドラッグに溺れていったトルーマン。59歳でこの世を去った後、彼の著作はいまも世界中で読みつがれていますが、彼がなぜ、自らの友人たちを傷つけるような“暴露本”――『叶えられた祈り』を書いたのかは、小説の全容も含め、はっきりとわからないままです。

    今回お話を伺ったのは、トルーマンの養女であるケイト・ハリントンさん。アメリカ東海岸北部のロングアイランドに生まれた彼女は、13歳の時、トルーマンに招かれてマンハッタンへ飛び出し、彼のもとで娘として暮らし始めます。

    その理由は、銀行員だった実父フランクリンが家庭を捨てたこと。アルコール中毒者で、実は同性愛者でもあったフランクリンは、ある時トルーマンと一線を越え、夫や父親ではなく、彼の愛人であることを選びます。その後2人は破局しましたが、フランクリンが家族のもとへ戻ることはありませんでした。

    大黒柱を失ったハリントン家。ケイトさんが「夏休みのアルバイトを紹介してほしい」とトルーマンに連絡したことから“親子”としての関係が始まります。トルーマンは自身の人脈や教養を彼女に注ぎ、ケイトさんは彼の援助を受けて、ファッションモデルを経て、映画の衣装デザイナーとなりました。

    インタビューでは、おそらく誰よりもトルーマンを近くで見てきた彼女に、トルーマンと過ごした日々のこと、本作についての思いを聞きました。

    ―― トルーマン・カポーティについて描かれた伝記や評伝は、これまでも映画や書籍など数多くありますが、そのなかで今作に対して、率直にどんな感想を持ちましたか。

    この映画を最初に観たのは、トロント国際映画祭の上映会でした。「どんな映画になったんだろう」とドキドキしていたのを覚えています。イーブス・バーノー監督のことは、お会いした時から直感的に信用できる方だと思ってはいましたが、正直なところ「ネガティブな面ばかりが取り上げられてしまうのではないか」という心配もありました。

    確かにトルーマンは、アルコール中毒者でしたし、『叶えられた祈り』という“問題作”を執筆したことで社交界からも追放されました。女優ベイブ・ペイリーをはじめ、「スワン」と呼んで敬愛していた女性たちからも拒絶され、たくさんの友人を失っています。

    けれど、彼はやはり素晴らしい作家であり、ユーモアと教養あふれる、本当に楽しい人だったんです。だから映画では、彼の素敵なところもきちんと伝えてほしかった。……そんな思いがあってドキドキしながら観ましたが、トルーマン・カポーティという人物を、非常にいいバランスで描いてくださったと思います。

    本編に、毛布を被って踊るトルーマンを映したシーンがあるでしょう。ああいう子どもみたいな無邪気さが、まさに彼なんです。そういうところも盛り込んであったので、気に入っています。

    ―― ケイトさんにとって、父親というより、きょうだいのような人だったんでしょうか。

    いえいえ、ものすごく「父親」でしたよ。プライベートなことなので、私自身があまり彼とのことを話してこなかっただけなんです。でも私は、自分の娘に「トルーマン」という名前をつけるくらい、本当に彼のことを大切に思っています。

    実は今、トルーマンとの人生について本を書いているところなんですよ。初めての著書です。彼と出会ったことで、私がいかに特別でエキサイティングな経験を得てきたか、トルーマンとの日々がいかに豊かで楽しいものだったか。記憶の中にダイブして、あれこれ書き出しています。私の子どもたちにも皆さんにも、私の思いを伝えたくて。

    ―― 今作は、『叶えられた祈り』をめぐるミステリーとしての側面も持っています。『叶えられた祈り』は、1975年に章の一部が「エスクァイア」誌で発表されただけで、現在も原稿がほんの一部しか見つかっていません。ケイトさんは劇中のインタビューで、トルーマンはこの小説を「書き上げていたはずだ」とおっしゃっていますよね。約10年間も執筆が進まなかったのは、なぜだと思いますか?

    トルーマンは『叶えられた祈り』について、ほとんど書き終えていると言っていいくらい、かなりの量を執筆していました。実際に、彼が書いているのをそばで見ていたので、完成にかなり近かったことは知っています。

    でもきっと作家というのは、ある瞬間に「もう全部だめだ」と、それまで書いていたものをすべて捨ててしまいたくなる心境に陥る時があるんでしょう。もともとは社交界の華やかさを描ききるつもりで、自ら「『叶えられた祈り』は最高傑作になる」と言い切ってもいました。だからこそ10年もの歳月をかけたのだと思います。

    でもいざ発表した時、世間の反応は彼の想像していたものと大きく違っていた。そしてショックを受けた彼は、アルコールとドラッグに溺れていきました。「『叶えられた祈り』のことは忘れてしまいたい」と思ったとしても、不思議ではありません。

    ―― 『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』は、トルーマンが世間に“見せていた姿”だけでなく、彼の繊細さや温かさも伝わってくる内容となっています。奇しくもコロナ禍で、私たち一人ひとりが〈孤独〉をより強く感じる状況になりました。トルーマンの才能や、波乱万丈の人生に触れるのも刺激的な体験ですが、彼のそういった一人の人間としての姿に、自分の抱える寂しさや虚しさを重ねる人も多いのではないでしょうか。

    そういうふうに考えてくださってうれしいです。私も、そのとおりだと思います。

    ―― 最後にあらためて伺いますが、ケイトさんにとって、トルーマンはどんな存在でしたか。

    私はアメリカ東海岸のロングアイランドに生まれ、実に保守的な環境で育ちました。素朴な少女だった私にとって、13歳でマンハッタンへ行き、トルーマンと暮らし始めたことは、目隠しが突然パッと取り払われたような感じ。アート、文学、音楽、ダンス、ファッション……。田舎からいきなり文化的な豊かさの中にぽんと身を置かれ、ハイソサエティに取り込まれていったわけです。

    トルーマンには本当に、とんでもなく栄養を与えてもらいました。私も私で、たとえば有名人と日常的に会うようになっても、浮かれてはしゃぐようなたちではなかったですしね。

    そうやってトルーマンは、いろんな意味で私の“基礎”を作ってくれました。大人になってこうやって世の中へ出て、世界中を飛び回ってスタイリングや編集の仕事ができているのは、間違いなく彼のおかげです。私の人生において、本当に素晴らしい出会いでした。

    『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』(原題:The Capote Tapes)

    監督・製作:イーブス・バーノー
    出演:トルーマン・カポーティ、ケイト・ハリントン、ノーマン・メイラー、ジェイ・マキナニー、アンドレ・レオン・タリー

    2019年/アメリカ=イギリス/英語/98分/カラー・モノクロ/ビスタ/5.1ch

    字幕:大西公子 字幕監修:川本三郎
    後援:ブリティッシュ・カウンシル
    配給:ミモザフィルムズ

    11月6日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

    © 2019, Hatch House Media Ltd.

    叶えられた祈り
    著者:トルーマン・カポーティ 川本三郎
    発売日:2006年08月
    発行所:新潮社
    価格:693円(税込)
    ISBNコード:9784102095072
    ここから世界が始まる
    著者:トルーマン・カポーティ 小川高義
    発売日:2019年02月
    発行所:新潮社
    価格:2,090円(税込)
    ISBNコード:9784105014087




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