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  • “全裸監督”に脱がされる心地よい悔しさを感じた 「ホテルローヤル」原作者×監督インタビュー

    2020年11月11日
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    ほんのひきだし編集部 猪越
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    桜木紫乃さんの直木賞受賞作を、映画『百円の恋』やNetflixの人気オリジナルドラマ「全裸監督」などを手がけた武正晴監督が映画化した『ホテルローヤル』。桜木さん自身を投影した主人公を波瑠さんが演じ、11月13日(金)より公開となります。

    映画は原作者がインタビュー中、何度か「やられた」とつぶやくほど、作家“桜木紫乃”を読み解いて作られたそうです。そんな映画を見て桜木さんはどのように感じたのか、また武監督はどのように『ホテルローヤル』と向き合ったのか、お話を伺いました。

    桜木紫乃
    1965年北海道釧路市出身。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。2007年、同作を収録した『氷平線』で単行本デビュー。2013年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞を受賞。受賞の際の服装(ゴールデンボンバーの鬼龍院翔が愛用しているタミヤロゴ入りTシャツを着用)や、質疑応答で一躍注目を集める。2020年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。著作に『裸の華』『砂上』『ふたりぐらし』『光まで5分』『緋の河』など多数。現在も北海道在住。

    武 正晴
    1967年愛知県出身。短編映画『夏美のなつ いちばんきれいな夕日』(06)の後、『ボーイ・ミーツ・プサン』(07)で長編映画デビュー。『百円の恋』(14)が、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など数々の映画賞を総なめにし話題を呼び、第88回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としてもエントリーされた。近作には、『リングサイド・ストーリー』(17)、『嘘八百』(18)、『銃』(18)、『きばいやんせ!私』(19)、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)、『銃2020』(20)など。公開待機作に『アンダードッグ』がある。Netflixで配信中の話題作「全裸監督」では総監督をつとめている。

    story
    北海道、釧路湿原を望む高台のラブホテル。雅代は美大受験に失敗し、居心地の悪さを感じながら、家業であるホテルを手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業、宮川への恋心を秘めつつ黙々と仕事をこなす日々。甲斐性のない父、大吉に代わり半ば諦めるように継いだホテルには、「非日常」を求めて様々な人が訪れる。投稿ヌード写真の撮影をするカップル、子育てと親の介護に追われる夫婦、行き場を失った女子高生と妻に裏切られた高校教師。そんな中、一室で心中事件が起こり、ホテルはマスコミの標的に。さらに大吉が病に倒れ、雅代はホテルと、そして「自分の人生」に初めて向き合っていく……。

     

    「書き手の顔が見えてくる作品」を作りたい

    ――『ホテルローヤル』が武監督で映画化されると聞いて、まずどう思われましたか?

    桜木 『百円の恋』で一世を風靡した監督なので、これはすごいことになるなと。「本当にいいのですか?」と聞きました。

    ――武監督は原作を読んでどのように感じられましたか?

     僕は普段あまり小説を読まないのですが、非常に映画的で巧みな小説だと思いました。原作ものはどちらかというと苦手なのですが、やるときにはその作家の作品は全部読みます。

    特に、桜木さんの小説はすごくオリジナリティがある。しかも北海道が舞台なので、この際だから北海道のことも学ぼうと思って読み込みました。原作ものは他人のふんどしで勝負しなくてはいけないところもあるのですが、どこまで追いつけるだろうかと思いながらも、おもしろかったしためになりました。

    ――原作以外もすべて目を通されるのですね。

     映画はそこまで追い込んでいかないと、原作からだけでは導き出せません。僕はどちらかというと書かれている内容よりも、書いている人に興味があって、「書き手の顔が見えてくる作品」を作りたいということもあります。

    桜木 映画を拝見したときに、この作品は『ホテルローヤル』だけでは作られていないと感じていたので、納得しました。私はこの本をフィクションで書いて成立させたと思っていたので、「どう料理してくださっても構いません」とお渡ししています。

    でも、たぶんほかの作品も読んでいないと、あのホテルの事務室はできなかったと思います。エッセイに書いたようなことも入っていて、「美術さん、よく全部集めたな」と感心しました。私のことだけではなく、ホテルローヤルをつくった父のこともよくご存知なのだなと驚きました。

     たまたま釧路の宿の近くに図書館があって、桜木さんのコーナーに普段読めないような文章までが置いてありまして。

    桜木 だからですね。私の本の中にはその図書館にしかないものもあって、映画の中にはそれを見ていないと用意しないだろうなという小道具までが置いてある。

    『ホテルローヤル』には大吉が釣りをするなんてどこにも書いていないのに、ルアーとかトロフィーがあって、「何でこれがここに?」と。ああいうものを事務所に飾る人間のメンタリティなど、全部わかって作っていらっしゃるのだなと感じました。

    自分は虚構をつくって出したつもりなのに、“私”をつくって返されたような、心地よい悔しさにまみれています。武監督は『ホテルローヤル』ではなく、私を読んでいらしたのだと、「全裸監督」に脱がされた感でいっぱいです。まさに「やられた」の一言ですね。

    ▼美術セットの内装絵コンテ。美術セットは、桜木さんが描き起こした見取り図を元に再現されている

     

    経験が書かせる、経験なき一行を書いている

    ――原作は、桜木さんの実家だったラブホテルを舞台にした小説です。自伝的作品が、このように映像化されたことについて、感想をお聞かせください。

    桜木 “自伝”の捉え方だとは思うのですが、この作品では自分のことを書いたつもりはなくて、あの時、あの場所にいたかもしれない人たちを書きました。パートさんもみんな物語を背負っているような人ばかりでしたし、とにかくいろいろな方にお会いできる場所で、その中にこの物語に登場するような人がいたかもしれない。

    ローヤルの社長の造形は父によく似ていますが、母は本妻で今も一緒にいるので、そこはちょっと違います。

     僕も自分で作った映画を見ると、気が付かないうちに自分のことが入ってしまっていて、いつも恥ずかしい気持ちになります。キャラクターを、人にはあまり話せないような自分自身に似せてしまったり、自分のすごく嫌いな人や好きな人を出したり、過去にあったことを入れてみたり。

    それはこのローヤルも含めどの映画もそうなのですが、自分の身の回りにあったことがどうしても出てしまう。ひょっとすると、クリエイトしているうちに自分の中の“何か”が出てしまうのが本来の創作じゃないかなとも思います。人が作ることですから、逆にそれが見えてこないものは、本当に作り物に見えてしまうんですよね。

    桜木 いま気がつきましたが、自分の内側を覗かれるのがすごく恥ずかしいから、“自伝的”という言葉に抵抗があるのかもしれません。結局、経験が書かせる経験なき一行を書いているのでしょうね。エッチ屋さんとはそういう関係ではなかったけれど(笑)。

     その人から発信しているということは、その作り手の顔が見えてくる。僕も「全裸監督」で村西とおるという人を描いているつもりが、「あれ、お前だよ」と言われたことがあります。

    ――波瑠さん演じる雅代の風姿には、桜木さんを彷彿とさせられました。

    桜木 雅代に、眼鏡をかけて白いシャツを着せる意味はあったのでしょうか……?

     そこはやはり、桜木さんに近づけたかったのです(笑)。桜木さんの近影も、白いシャツを着ていらっしゃることが多いですよね。

    それに波瑠さんは眼鏡のCMもやっているくらい眼鏡が似合う人なので、これはいいなと。眼鏡は映画の中ではすごくいいアイテムで、雅代が「もうここしかないよね」というタイミングで眼鏡を外す瞬間が、ひとつ僕たちの勝負する場面でもありました。

    白はなんといってもシーツの色で、オレンジの部屋の中で、雅代が白いシーツの上にいるという対比もあります。彼女が絵を描くキャンパスでもあり、北海道を想起させる色でもある。そういうイメージが全部、雅代の中にはありました。

     

    “ホテル”を主人公に、全シーンを北海道で撮影

    ――撮影は全編、北海道で行われたそうですね。

     釧路に実際に足を運ぶことで、「よし、ここだ」と腑に落ちましたし、この場所で撮るのだというところから、この映画が始まった気がしています。東京でやっていたらといま考えるとゾッとしますけれど、北海道、そして釧路にこだわったのは大事なことだったと思います。

    スタッフは大変だったでしょうけれど、そこもこの映画をつくる上でのひとつのモチベーションになりました。

    ――原作は7編を収めた連作小説ですが、映画はひとつの物語として再構成されています。

     原作を読んだ時に、一編一編に引き込まれるのと同時に、その全部でひとつの物語になっているという話の並びも含めて、これをサラッと読んでしまうともったいないなと思いました。

    僕は本を読み慣れていないから細かく読んでいかないとわからないところもあるのですが、小説をバラバラに分解して書かれている一行一行からヒントを探っていくと、あるひとつの部屋がキーになっている。

    あれだけたくさんの人物が出てくるなかで、どうまとめていくかという難しさもあるけれど、そのキーとなる“203号室”をひとつの主人公に見立ててみたらどうだろうと。タイトルが「ホテルローヤル」なので、主人公の一人はホテルであるべきだという思いもありました。

    ただ、どうしても原作だけではシナリオを構成できないので、映画として付け足すことも必要になってくる。そこに原作者の桜木さんが自由を与えてくれました。それこそがこの映画を勝利に導いた最大のポイントで、僕らが羽を伸ばせて、発想がどんどん広がりました。

     

    ラストシーンでもっとも救われたのは原作者

    ――その構成の違いもあって、映画と小説ではラストに抱く印象も若干異なったものになっていると思います。武監督は、「雅代を救ってあげたかった」「しがらみから逃げてもいいと言ってあげたかった」と語られていますが、桜木さんはラストをどのようにご覧になりましたか?

    桜木 私は24歳で嫁に行っていなかったら、おそらく雅代のような人生を送っていたはずです。長女なので、ずっと「跡取り」と言われ続けていましたし。

    観客のみなさんには申し訳ないのですが、雅代が最後に見せた表情、あのシーンでもっとも救われたのは原作者だったと思います。私は自分で自由になったつもりでいたのですが、この映画を観たときに、「家を出たことをどこかで申し訳なく思っていたのかな」と感じました。

    それをまさか、こうやって映画という形で楽にしてもらえるとは思わなかったです。主人公が、映画の中でもちゃんと自由になってくれたこと、一歩を踏み出してくれたことがとてもうれしかったですね。

    雅代のように、図らずも親の仕事を継いで、どこか自分の人生を生きていないような気がしている人はたくさんいると思います。その人たちに、「そんなことはないよ」「きみもできるよ」と言ってくれる一本なのではないでしょうか。

    そして、主題歌の「白いページの中に」。私たちの時代の人間にはたまらない曲で、あれをラストシーンで流すというのは「本当にあざとい(笑)」と思いました。

     あの主題歌は、釧路でロケハンをしていて映画にも出てくる坂を見たときに、この曲を使いたいなと思いついたのです。ホテルで台本を読みながら聞き直して「よし、これは最後のシーンで使えるな」と思いました。

    桜木 「全裸監督」のときにも、すごく音楽が凝っていて、音楽の好きな人が作るドラマだなと思って見ていました。

     音楽はもともと好きなのですが、この「ホテルローヤル」では初めてタンゴを使いました。本を読んでいて、よく映像が思い浮かぶといいますが、僕はいつも音楽が先です。今回も、ラストシーンは特に「絶対にタンゴが合うな」と思っていて、富貴晴美さんという天才音楽家にお願いしています。

    ――武監督が本作に込めた思いについて、改めてお聞かせください。

     小説と映画は別物だとは思っていますが、この小説を大好きな人はいっぱいいると思うので、その世界観は壊したくないけれど、同じことはできないなと思っていました。

    自分も親に背を向け、故郷から逃げ出した人間です。でも「何かをやりたい」と行動を起こすためには、そういうことも人生の中では必要なのかもしれない。そう思って自分もやってきたつもりでしたが、『ホテルローヤル』で一番惹かれたのは、最終章の主人公の両親の話。自分自身も親に対する感謝を込めて映画を作っているところはあるのですけれど、そういう部分も伝わったらいいかなと思います。

    一方で、“積極的な逃避”もテーマにしていて、「もっとみんな逃げちまえばいいんじゃない」という気持ちもあります。特にこれからの時代は、数千年虐げられていた女性たちの逆襲が始まると思っていて、そういう新しい時代がやってきてほしいなという思いをこめて、最後の主人公のシーンを撮りました。

    そのためにも、主演の波瑠さんはもちろん、余貴美子さんや友近さんという女性たちのキャスティングがとても大事だったと思っています。

    ――女性たちがどうやって生きてきたか、さまざまな人生を見ることで生き方を考えさせられる。そんな作品にもなっていますね。

     そうですね。そういったことも含めて、上の世代の人間が作った映画ではありますが、これからの人たちに見てほしいと思っています。

     

    映画「ホテルローヤル」作品情報

    2020年11月13日(金)公開

    波瑠
    松山ケンイチ
    余貴美子 原扶貴子 伊藤沙莉 岡山天音
    正名僕蔵 内田慈 冨手麻妙 丞威 稲葉友
    斎藤歩 友近 / 夏川結衣
    安田顕

    原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫刊)
    監督:武正晴
    脚本:清水友佳子
    音楽:富貴晴美
    主題歌:Leola「白いページの中に」(Sony Music Labels Inc.)
    配給・宣伝:ファントム・フィルム

    https://www.phantom-film.com/hotelroyal/

    ©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

     

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