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  • 病を治し、患者を救いたい。若き蘭方医の時代小説シリーズ第12弾|小杉健治『蘭方医・宇津木新吾 奇病』

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    2020年11月06日
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    細谷正充:「小説推理」BOOK REVIEW
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    松江藩のお抱え医師に復帰した蘭方医・宇津木新吾は、側室の施療を命じられる。

    衰弱した側室の抱える秘密とは何か。小杉健治の好評シリーズ最新刊。


    若き蘭方医・宇津木新吾が、さまざまな事件に遭遇しながら、理想の医師を目指す。小杉健治の好評シリーズの、第12弾が刊行された。

    かつて松江藩のお抱え医師だったが、御家騒動に巻き込まれて辞めた新吾。だが近習番の高見左近の執拗な要請により、復帰することになった。しかも以前が平医師だったのに対して、今回はワンランク上の番医師である。とはいえ新吾のやることは同じだ。病人の命を救うために、全力を尽くすだけである。

    そんな新吾が、着任早々、下屋敷で暮らす側室の綾の施療を命じられる。3ヶ月前に胃に出来た潰瘍が潰れ出血。潰瘍は治療できたものの、以後も具合がよくない。食事もせず衰弱しているが、近習医の花村潤斎にも原因が分からないという。綾を診察し、心の病ではないかと思った新吾は、彼女の関係者を当たり、原因を突き止めようとする。そして清次という、綾の昔の恋人が浮かび上がってきた。だがここから事態は、予想外の方向に転がっていく。

    着任早々、難題を押しつけられた新吾だが、その裏には旧知の高野長英の推挙があった。そのときの言葉が、「長英はそなたの医者としての未熟さだと言った」「未熟ゆえ、患者に向き合う姿勢は半端ではない。その姿勢で、あの患者を治すことが出来るかもしれないと言った」である。これは主人公のキャラクターを、的確に表現している。

    長崎で蘭学を学び、貧富に関係なく治療をする村松幻宗を師とする新吾。自分も貧富や身分に関係なく、人々を救いたいという理想を抱いている。幾つもの事件や騒動を通じて、何度も現実に叩きのめされても、それは変わらない。本書でも、医師として領分を越えて奔走するのだ。人の命を割り切ることのできない新吾は、たしかに医師としては未熟者なのだろう。だが、それだからこそ彼は、ヒーローとしての立場を獲得しているのである。

    さらに、ミステリーとしての面白さも見逃せない。松江藩に忍び込んだという盗賊の件や、ふたつの殺人事件が、綾の秘密と結びつき、意外な真相が明らかになる。複雑なストーリーを捌いてサプライズに導く、作者の手腕が鮮やかなのだ。

    ところで、事件の決着のつけかたに納得したことや、ラストの描写を見ると、新吾も清濁併せ吞む器量を持つようになったようだ。理想はそのままに、人間としても成長した主人公が、これからどのように生きていくのか。シリーズの続きが、待たれてならない。

    奇病
    著者:小杉健治
    発売日:2020年10月
    発行所:双葉社
    価格:726円(税込)
    ISBNコード:9784575670226

    「小説推理」(双葉社)2020年12月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載




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