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日曜日のフードコートで楽しげに笑い合うファミリーたちを見ると心底うんざりするあなたにぴったりな、「1番近い他人」を巡る物語。
家族。この言葉にポジティブな印象しかない人はきっと幸せ者だ。令和の今、表向きは家電のCM的「仲良し家族」像がスタンダードになってはいるが、現実はほとんどが愛憎半ば、どうかすると「家族と書いて面倒と読む」が相場だろう。そして、本作が描くのは「面倒と読む」タイプの家族である。
のっけから幼い頃父親に不倫のダシにされた末弟の回想が始まり、次の章ではその父親が老いて認知症を患った末、突然姿を消してしまったことが語られる。不慮の事故に遭ったのか、自発的に家出したのか。真相は不明ゆえ子供たちは警察に届けるべきかすら判断できず、途方に暮れる。子供、といっても全員歴とした成人なのだが。30半ばを過ぎた長兄はいまだ田舎のヤンキーライフを卒業できず、長姉は頼りない兄と弟に憤懣やる方ない。家を離れて久しい末弟はどうすればいいのかわからない。突発した「父の不在」があぶり出したのは、いい年になっても中身はまだ「子供」のままという3人の実態だった。
一人ひとり、章ごとにスポットを当て、内面を語らせる手法は演劇的である一方、全体には昭和の文芸系家族映画のような閉塞と葛藤の空気が漂う。本作が小説デビュー作となる著者の山田佳奈だが、演劇や映画に詳しい向きはこの名に見覚えがあるだろう。劇団「□字ック」主宰の演劇人であると同時に、昨年動画配信サービスのみのリリースだったにも関わらず大きな話題になったドラマ「全裸監督」の脚本家であり、また映画「タイトル、拒絶」や「今夜新宿で、彼女は」などを撮った映画監督でもある。表現に関わる多ジャンルで頭角を現しつつある気鋭だ。
平均からちょっと(時にはかなり)下方向に外れた人間たちの群像劇を得意とする著者。そんな人が書く「家族」だから、当然すべての出来事はまったく家電CM向きでない。愚かにも愛する人を裏切ったり、傷つけたりもする。だが、それでも憎めないのは、各々が自分なりに「父の不在」、そして眼前の相手と向き合おうと努めているからだ。
腰は引けていても、逃げはしない。そんな彼らはとてもいじらしい。タイトルの「だから家族は」の後にはどんな言葉が隠れているのか。読前読後では脳裏をよぎるセンテンスが変わるはずだ。家族に複雑な思いを抱えていればいるほど、この物語の結末には胸打たれることだろう。
「小説推理」(双葉社)2020年12月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載