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  • 「日本刀の未来を切り拓く」空前の日本刀ブームの先へ、現役刀匠の熱い想い|川﨑晶平『テノウチ、ムネノウチ』

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    2020年09月30日
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    門賀美央子:「小説推理」BOOK REVIEW
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    クールな男が胸に宿す刀への熱い想い。

    現代刀の頂点、そして千年残る名刀を目指す刀工が、タイトル通り手の内胸の内を赤裸々に明かす異色のエッセイ集


    本書は「現役刀鍛冶のエッセイ集」である。史上初、なのではないだろうか。

    著者の川﨑晶平さんは、美術館で見た日本刀の美しさに心奪われ、25歳で刀匠になろうと決意。1994年に宮入小左衛門行平氏に入門して5年後に作刀承認を受け、初出品した新作刀展覧会で早くも優秀賞・新人賞を受賞。以降も各コンクールで受賞を重ね、2013年に第4回新作日本刀・刀職技術展覧会で特賞第一席・経済産業大臣賞を獲得してからは、審査する側にも立つようになった。

    その時、齢45。古老が幅を利かせる伝統工芸の世界では異例だろう。順調な受賞歴といい、きっと修行僧の如くストイックな人生を送ってきたに違いない。これは姿勢を正して読まなければならない類の本か……と思いきや、冒頭はいきなり「入門してたった3ヶ月で破門された話」だった。拍子抜けである。

    続く内弟子時代には、真剣に修業しつつ、ちゃっかりしたところも発揮する。ほぼ衝動で刀鍛冶になった割には、現実を見据えた合理的な将来設計を怠らない。のんきでこだわらない性格に見えて、業界内の理不尽や旧弊には敢然と物申す。伝統を尊びながらも、「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」なんていう前代未聞の展覧会をプロデュースする。とにかく、語られるエピソードごとに異なる顔が現れる。万華鏡のような人なのだ。

    実は、著者には2度ほどお目にかかったことがあるのだが、その時にもやはり多面性を感じた。1度目、取材で「晶平鍛刀道場」にお邪魔した際は、一見野武士のような人だと思った。だが、話し始めるとよい意味で現代的だった。そして何より、鍛錬場の火の前に片膝立ちで座る姿は一幅の絵のように美しかった。2度目は、本書でも触れられている、靖國神社での刀剣鑑賞会でお会いした。現代刀の魅力を伝えたい、刀匠たちの技を知らしめたいという静かな熱意がひしひしと伝わってきた。同時に主催者の1人として忙しく動き回る実務家の姿も印象に残った。

    正統にして異端、複雑にカットされたダイヤモンドの魅力を持つ刀匠が、思いの丈を飾らず素直に綴った本書。刀剣に興味がなくとも、同世代なら何処も変わらぬ中堅の悲哀に共感しきりだと思うし、縛りの多い世界に風穴を開けようと仲間と共に奮闘する姿にはグッとくるものがあるはずだ。なにより、心底惚れた日本刀の世界を次世代に繫げようとする気概には、誰もが心打たれるはず。閉塞感に満ちた今だからこそ読んでほしい一冊だ。

    テノウチ、ムネノウチ
    著者:川﨑晶平
    発売日:2020年09月
    発行所:双葉社
    価格:1,980円(税込)
    ISBNコード:9784575315752

    「小説推理」(双葉社)2020年11月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載




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