'); }else{ document.write(''); } //-->
8月19・20日に行なわれた将棋の第61期王位戦七番勝負第4局で、藤井聡太棋聖が木村一基王位に勝利し、王位を奪取。すでに獲得していた棋聖の称号とあわせて二冠を達成、それにより八段への昇段をも果たしました。今回の二冠達成・八段昇段はいずれも最年少記録を塗り替える快挙で、そのことがいかに凄まじいかは、すでに多くのメディアが報じています。
9月3日発売の「Sports Graphic Number」第1010号では、スポーツ総合誌ながら将棋の特集が組まれ、藤井聡太二冠が表紙を飾るなど、もはや何度目とも知れない将棋ブームが巻き起こっています。
これを機に将棋に興味を持った人もいたことと思いますが、何の知識もない状況でゼロから勉強するのは、なかなか容易なことではありません。それでも少しでも将棋のことを知りたい、そんな人は、将棋がテーマの小説を読んでみることから始めてみてはいかがでしょうか? 将棋に魅入られた棋士たちの情熱、執念を小説を通して覗くことで、今までより将棋を身近に感じられるようになるかもしれません。
この記事では将棋小説を3作紹介しますが、伝記的な側面の強い作品はあえて除き、まずはエンターテインメントとして純粋に楽しめる、ミステリーやSFといったジャンルと融合しているものに絞っています。
山中で発見された身元不明の白骨死体。遺留品は、名匠の将棋駒。二人の刑事が駒の来歴を追う頃、将棋界では世紀のタイトル戦が始まろうとしていた。(中央公論新社公式サイトより)
「孤狼の血」シリーズなどで知られる柚月裕子さんによる、本格ミステリー。2018年本屋大賞で、あの『屍人荘の殺人』を抑えて堂々の2位となった将棋小説です。
刑事たちの捜査や過去の回想によって少しずつ謎の真相に接近していくスリルはもちろんのこと、天才棋士と真剣師(賭け将棋で生計を立てる者)を取り巻く強烈な人間の感情──怨嗟の迫力に驚かされます。将棋にくわしくなくとも、将棋が持つ魔力の一端を垣間見られるはず。
――負けました。これをいうのは人生で何度目だろう。将棋に魅入られ、頂点を目指し、深みへ潜った男は鳩森神社で不詰めの図式を拾って姿を消した。彼の行方を追う旅が始まったが……。北海道の廃坑、幻の「棋道会」、美しい女流二段、地下神殿の対局、盤上の磐、そして将棋指しの呪い。前代未聞の将棋エンタテインメント。(新潮社公式サイトより)
奥泉光さんは、第110回(1993年下半期)芥川龍之介賞を受賞しているベテラン作家です。ミステリーやSFの要素を取り入れた作品を多く執筆しており、本書も例に漏れずミステリーの構造を備えています。
しかし、それだけでは終わらないのが著者の小説の特徴。物語が進むにつれて、幻想・虚像が現実を侵食していくような感覚に襲われます。将棋小説やミステリーといった枠組みの中でのみ語るには、あまりに独創的で変幻自在な一編です。
彼女は四肢を失い、囲碁盤を感覚器とするようになった──。若き女流棋士の栄光をつづり、第1回創元SF短編賞で山田正紀賞を贈られた表題作にはじまり、同じジャーナリストを語り手にして紡がれる、盤上遊戯、卓上遊戯をめぐる6つの奇蹟。囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋……対局の果てに人知を超えたものが現出する。(東京創元社公式サイトより)
SFと純文学、両方のフィールドで活躍し評価を得ている宮内悠介さん。『盤上の夜』は、そんな著者のデビュー作にして、第147回直木三十五賞候補作、かつ第33回日本SF大賞受賞作です。
上記あらすじの通り、さまざまなボードゲームをテーマにした短編集で、将棋の話は5作目の「千年の虚空」のみ。ですが、「完全解が発見されたとき、それでも人が将棋を指す意味はどこにあるのか」という重要な主題を扱っているという意味でも、一読の価値ありです。