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歌手の大塚愛さんが、「小説現代」2020年9月号(講談社)に自身初の小説となる『開けちゃいけないんだよ』を寄稿し、小説家デビューを果たしました。ジャンルはなんとホラー。彼女のパブリックイメージとのギャップで、注目を集めました。
このように、もともと別の領域で活躍していた人物が小説を執筆して話題を呼んだ例は、これまでにも数多くあります。
『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』が2006年本屋大賞を受賞し、映画やドラマにもなったリリー・フランキーさん、『KAGEROU』が第5回ポプラ社小説大賞を受賞した水嶋ヒロさん(齋藤智裕名義)、『火花』が第153回芥川龍之介賞を受賞した又吉直樹さんなど、話題になっただけでなく、文学作品として高く評価されているケースも。そのほかにも、ビートたけしさん(ビートたけし名義・北野武名義の両方が存在)、乃木坂46の高山一実さん、NEWSの加藤シゲアキさん、SEKAI NO OWARIのSaoriさん(藤崎彩織名義)、劇団ひとりさん、クリープハイプの尾崎世界観さん、紗倉まなさんなど、枚挙にいとまがありません。
ここまではすべて日本国内の話ですが、日本特有の現象なのかというと、決してそういうわけではありません。海外にも、ほかの分野で名声を得ているあんな人やこんな人が小説を執筆しています。この記事では、3人をその著作とともに紹介します。
トム・ハンクスさんは、言わずと知れたアメリカの国民的俳優にして、アカデミー主演男優賞を2度受賞している世界的名優。本書は、その彼の手による17編(!)が収録されたデビュー短編集です。
俳優として多忙極まりない日々を送っているに違いない彼の、一体どこに小説を執筆する時間があるのか不思議で仕方ありませんが、それ以上に不思議なのは、デビュー作にしてすでにストーリーテラーとして円熟の域に達しているということ。
トム・ハンクスさんは、2014年に初めての短編が「ザ・ニューヨーカー」に掲載される以前にも、映画の監督や脚本をつとめた経験があり、「物語を創り出す」という点においては素人ではありませんでした。人々に寄り添う温かな眼差しやウィットに富み洗練された文章、悲喜こもごもの人生の中で輝くドラマティックな一瞬を描き出す手並みは、ベテラン作家にも引けを取りません。
“俳優トム・ハンクス”のファンであれば、彼の趣味の一つがタイプライター収集であることはきっとご存じでしょう。実は本書のタイトルにある「タイプ」は「タイプライター」と掛けられており、17編のほとんどに、何らかの形でタイプライターが登場します。
そんな遊び心も含め、小説を読むこと、その世界に浸ることの喜びを味わわせてくれる一冊です。
「アニー・ホール」「ミッドナイト・イン・パリ」など、数々の名作映画を生み出してきたウディ・アレン監督が、小説家の一面も持っていることはあまり知られていないかもしれません。しかし、映画監督としても小説家としても、キャリアの始まりは同じ1966年。それ以前にはギャグ・ライターや放送作家として活動していた経歴も持っており、「書く」ことのプロであることは間違いありません。
そのため、先に挙げた日本の著者たちやトム・ハンクスさんとは少々事情が異なり、結果的に「小説を書くことが本業ではなくなっただけ」ともいえるかもしれませんが、ここでは、映画監督・脚本家として名声を獲得した後、2008年(本国では2007年)に刊行された本を紹介します。
『ただひたすらのアナーキー』に収録されている18編は、どれもウディ・アレンさんならではといった趣。ユーモラスでありながら時に鋭い風刺が挿入されるのも、迂遠な言い回しが多用される饒舌さも、彼の映画が好きな人(とりわけ、彼の映画に多いロマンティック・コメディのうち「コメディ」の要素の方に惹かれる人)にはきっとたまらないはずです。
本書を象徴する一編として、かのミッキーマウスが、実在する人物(ネズミ)としてウォルト・ディズニー社の株主代表訴訟において法廷で証言を行う「ディズニー裁判」が挙げられます。
プロコフィエフは20世紀初めから半ばにかけて活躍した作曲家で、代表作に「古典交響曲」(交響曲第1番)やバレエ音楽「ロメオとジュリエット」などがあります。
特に「ロメオとジュリエット」の第2組曲に含まれる「モンタギュー家とキャピュレット家」は、聞き覚えのある人も多いはず。プロコフィエフの楽曲は、『のだめカンタービレ』や、直木賞・本屋大賞をダブル受賞した『蜜蜂と遠雷』にも登場します。
▲有名なフレーズは1:54あたりから
そんな彼が書き上げる物語は、エッフェル塔が突然歩き始めたり、毒キノコはびこる地下の王国に迷い込んだりとかなりシュールな一方、どこか寓話的な様相も。民話をもとにした子どものための音楽作品「ピーターと狼」をご存じの方なら、彼がそんな小説を書いていたことにも、きっと納得がいくでしょう。やや癖は強めですが、音楽だけでなく文筆の才をも持ち合わせていたことがよく分かる仕上がりになっています。
▲「ピーターと狼」では随所に語りが挿入されます
・[担当編集者による作品ガイド]トム・ハンクスが小説家デビュー!読書好きでタイプライター偏愛家……“変わったタイプ”な名優の意外な才能