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  • 行定勲、齋藤工など作り手たちがコロナ禍で生んだ“リモート映画”という新潮流

    2020年09月08日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    映画マニアから絶大な支持を得て、創刊25周年を迎えた「映画秘宝」。出版社の吸収合併に伴い、2020年3月号をもって休刊となりましたが、同年6月号より双葉社からスピード復刊され、大きな話題となりました。

    2012年から現在まで編集長を務める岩田和明さんによると、コロナ禍におけるこの数か月で、映画界には新しいムーブメントが登場しているとのこと。そんな「新潮流」について、岩田編集長にエッセイをお寄せいただきました。

    映画秘宝 2020年 10月号
    著者:
    発売日:2020年08月21日
    発行所:双葉社
    価格:1,320円(税込)
    JANコード:4910020211002

     

    コロナ禍で突如同時多発した【リモート映画】という映画ジャンルの新潮流

    コロナ禍中の2020年4月下旬、YouTube上の無料配信映画として、突如発生した映画フォーマットがリモート映画だ。

    リモート映画の定義は極めてシンプルで、作品製作にかかわる全員が在宅で映画を完成させるということ。つまり、全過程がキープ・オン・ソーシャルディスタンスで作られた映画なのである。

    リモート映画は、コロナ禍で企画や撮影が中断してしまった映画監督や俳優、スタッフといった映像の作り手たちの表現欲求の受け皿となっている。リモート映画の多くは、作り手たちが純粋に作りたくて作っている作品ばかりだからだ。

    彼らがコロナ禍をどう捉え、どんな角度の視点から切り込み、どう映画のなかに落とし込むか? といった作家性やステイトメントが、どの作品のなかにも刻み込まれていて、実に興味深い。

    日本初の本格リモート映画は、4月24日にYouTube上で無料配信された、行定勲監督の「きょうのできごと a day in the home」だったと記憶する。

    緊急事態宣言が出されている中、高校の同窓生同士がリモート飲み会を開いていると、外野から見れば実に些細な、しかし彼ら当事者にとっては極めて重大なある事件が勃発する……という物語を、柄本佑、高良健吾、永山絢人、有村架純らが、ZOOMの分割画面上で、ワンシーン・ワンカットによるアドリブ満載な白熱の演技合戦を披露するという40分の短編だ。

    これが好評を博した行定監督は、瞬く間に「A day in the home Series いまだったら言える気がする」という第2弾を発表。こちらも中井貴一、二階堂ふみという豪華キャストによる、ビターな恋愛ドラマが描かれた。現在もHuluで【特別編】と題して配信中だ。

    続いて4月末には、有料オンライン上映による、斎藤工主宰のリモート映画製作プロジェクト「TOKYO TELEWORK FILM」が発足した。#1「TELEWORK SESSION」から#6「でぃすたんす」まで、なんと現在までに6本もの新作リモート映画が製作された。

    しかも、斎藤工は今も自ら脚本を執筆し、第7弾を準備中というから恐れおののく。本プロジェクトの有料上映による収益を、経営危機に瀕している全国のミニシアターに分配するというシステムも構築した斎藤工は、和製リモート映画のキーパーソンである。

    そして5月1日、上田慎一郎監督の「カメラを止めるな! リモート大作戦」がYouTube上で無料配信された。あのメガヒット作「カメラを止めるな!」(2018年)の完全なる続編は、リモート映画として作られたのだ。

    うだつの上がらない主人公の映画監督・日暮が、今日も今日とてプロデューサーの無茶振りに七転八倒する、映像製作の舞台裏を描くドタバタ・コメディだ。

    「SHINPA在宅映画制作」というYouTube上のプラットフォームには、実に24作品ものリモート映画が現在もアーカイブされている。セルフドキュメンタリーから無声映画、音楽映画から人形アニメに至るまで、作品のジャンルは多様性を極める。

    なかでも、岩切一空監督の「第七銀河交流」は、異色のリモート・ホラー映画である。心理的恐怖と、ビジュアル・ショックという2大恐怖要素をバランス良く配分した、今の猛暑の季節に観るのにピッタリな、ゾクッと怖いフェイク・ドキュメンタリー風ホラー映画にして、なんと音楽映画(!)でもある。

    生まれたてのフォーマットであるにもかかわらず、誕生からわずか4か月あまりで、ここまで多岐にわたる豊かなアーカイブを保有するに至ったリモート映画は、いまこの瞬間も世界中で作られ、現在進行形でさらなる進化を遂げ続けている。何しろ、映画館で劇場公開を果たしたリモート映画すら誕生したのだから。

    7月31日に公開された岩井俊二監督、斎藤工、のん主演による「8日で死んだ怪獣の12日の物語」がそれである。斎藤工がカプセル怪獣を育てる過程を描くという、ドキュメンタリー風SFファンタジー映画だ。

    もともとは、樋口真嗣監督の「カプセル怪獣計画」という連作YouTube動画企画の派生作品であり、やはりYouTube上での無料配信作品としての企画。しかし、製作中に岩井俊二監督のなかで作品のスケールがどんどん膨らみ、結果的に劇場公開版の長編映画が出来上がってしまった。「続きはWEBで」ならぬ、「続きは映画館で」という、うっちゃりリモート映画だ。

    遂には、有料動画配信サブスクリプション内で公開されるリモート映画も誕生した。8月28日に「緊急事態宣言」と題して、Amazon Prime Videoで配信された、5本のオムニバス短編映画集がそれである。

    真利子哲也監督による、コロナ禍中の全世界14か国21都市を繋いで撮影した、63分の壮大なリモート・ドキュメンタリー映画「MAYDAY」や、中野量太監督、渡辺真起子&岸井ゆきの&青木柚主演による、コロナの犠牲になったごく普通の家族の、どこにでもある記念日を切り取った25分のリモート・ヒューマンドラマ「デリバリー2020」。

    さらには三木聡監督、夏帆&麻生久美子出演による、リモート映画を作っている風景を描く、リモート映画についての劇映画「ボトルメール」(31分のコメディ)など、合計5作品である。

    リモート映画は、撮影現場から鑑賞環境に至るまで、すべてが「密回避」を前提に発生した映画フォーマットのため、「自撮りの原則」がある。

    それゆえ当然、「人物の心情の変化」こそ表現できても、「状況の変化」を表現しづらいというウィークポイントがある。その制約を劇映画のなかにどのように落とし込むのかは、今後のリモート映画の課題といえるだろう。

    だが、編集、照明、カメラアングルなど、さまざまな創意工夫を施す演出上のアイデアの発見によって、「状況の変化の表現」も豊かになりつつある。その意味では、「すべてのリモート映画は実験映画である」とも言えると思う。

    リモート映画の進化の過程を目にしている感覚は、まるで今から100年以上前の1900年代初頭の映画黎明期、つまり無声映画や実験映画の発祥段階から進化の過程を目撃しているような、今まさに映画史の転換期にリアルタイムで立ち会っているかのような、新鮮な驚きと感動がある。

    このまったく新しいキープ・オン・ソーシャルディスタンス映画の潮流は、今後も定点観測していきたい。映画史的に無視できない、体系的にキュレーションし、後世に伝えるべき映画ムーブメントだと考えるからである。


    双葉社「映画秘宝」編集長
    岩田和明 IWATA Kazuaki
    1979年千葉県生まれ。舞台スタッフなどを経て2006年より「映画秘宝」編集部に所属。2012年より編集長。企画・編集した本に、別冊映画秘宝シリーズ「ロード・オブ・ザ・リング&ホビット 中つ国サーガ読本」「ブレードランナー究極読本&近未来SF映画の世界」『塚本晋也「野火」全記録』(すべて洋泉社)など多数。


    (「日販通信」2020年9月号「編集長雑記」より転載)




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