• fluct

  • 藤井道人監督インタビュー:『新聞記者』と『宇宙でいちばんあかるい屋根』、未来のために「今」を描くこと

    2020年09月04日
    楽しむ
    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
    Pocket

    2019年公開の『新聞記者』で、世間に衝撃を与えた藤井道人監督。続いて手がけた『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、前作とは打って変わって、つばめという14歳の少女が謎の老女に出会うことから始まる、少し不思議でやわらかな、やさしい物語となっています。

    観る人それぞれの“あの頃の記憶”を呼び覚ますような、懐かしい空気の漂う本作。しかし当初は、映画化にあたって近未来に舞台を移す予定だったそうで……?

    脚本・監督:藤井道人(ふじい みちひと)
    1986年8月14日生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014)でデビュー。以降『青の帰り道』(2018)、『デイアンドナイト』(2019)など精力的に作品を発表。2019年に公開された『新聞記者』は、日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。2021年には『ヤクザと家族 The Family』の公開が控える。

    あらすじ
    主人公は、お隣の大学生・亨(伊藤健太郎)に恋する14歳の少女・つばめ(清原果耶)。優しい父(吉岡秀隆)と、明るく包み込んでくれる育ての母(坂井真紀)とともに暮らしているが、もうすぐ2人の間に赤ちゃんが生まれることで、幸せそうな両親の姿がつばめの心をチクチクと刺していた。しかも、学校は元カレの笹川(醍醐虎汰朗)との悪い噂でもちきりで、なんだか居心地が悪い。
    そんなつばめは、書道教室の屋上でひとり過ごす時間が好きだった。ところがある夜、唯一の憩いの場に闖入者が――。
    空を見上げたつばめの目に飛び込んできたのは、星空を舞う老婆の姿!? 派手な装いの老婆“星ばあ”(桃井かおり)は、キックボードを乗り回しながら「年くったらなんだってできるようになるんだ――」とはしゃいでいる。
    最初は自由気ままな星ばあが苦手だったのに、つばめはいつしか悩みを打ち明けるようになっていた。

     

    『新聞記者』を撮ったことで起きた変化

    ――『宇宙でいちばんあかるい屋根』がついに公開となります。撮影の現場はいかがでしたか?

    清原果耶さんとは『デイアンドナイト』以来2度目、約1年半ぶりにご一緒しましたが、「相変わらずすごい」と感じました。しっかり台本を読み込んで、噓のない表情を出してくれる、本当に素晴らしい女優さんです。

    『デイアンドナイト』の奈々役にはオーディションで決まったんですが、審査の時点から「奈々」そのまんまでいらっしゃったので、撮影でも特に演出はつけませんでした。役どころもあって撮影中は孤独でいてもらいたかったので、あまり会話もしなかったと思います。

    でも今回は、作品とキャラクターがまるっきり違うので、アプローチを変えました。つばめという女の子の世界を描くにあたり「一番近くで寄り添ってあげられる存在でいよう」と決めて、一つひとつのシーンをディスカッションしながら進めていきました。

    ――“星ばあ”役が桃井かおりさんだと発表されたときも、反響が大きかったですね。

    僕にとっても貴重な経験でした。スクリーンの中でしか見たことのないレジェンドにLAから来ていただけるなんて……お会いしたときも「本物だ」と圧倒されましたね。

    「監督、ここはこうじゃない?」「一度やってみよう」とやりとりしながら楽しく撮影が進んで、現場にいる皆がその空気に引っ張ってもらったと思っています。その日の撮影が終わるといつもハグして「また明日ね」って別れるんですけど、そのたびに「俺たち、いい映画を作ってるな」という気持ちになりました。まさに“星ばあ”でした。

    撮影中の様子をおさめたメイキング写真・映像はこちら

    ――『新聞記者』について、いくつかのインタビューで「かなり精神を消耗する作品だった」と製作当時を振り返っていらっしゃいました。同作を撮ったことは、『宇宙でいちばんあかるい屋根』にも影響を与えていますか?

    3~4年前、『宇宙でいちばんあかるい屋根』映画化のオファーをいただいた当時は、近未来の物語にするつもりでした。新会社として立ち上げた「2045」が軌道に乗ってきたこともあって、「もっと未来のことを考えるような作品を作りたい」と考えていたんです。

    それが『青の帰り道』を撮り終わって翌年、次は『宇宙でいちばんあかるい屋根』がクランクインするというときに、撮影時期が1年延期になりました。その1年の空白が生まれたタイミングでお話をいただいたのが、『新聞記者』だったんです。

    先ほどお話ししたように、『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、近未来を舞台にして、社会が変化したなかでも失われない人間のあたたかさを表現できたらいいなと思っていました。それが変わったのは、『新聞記者』を撮ったからだと思います。

     

    自分も他者も、肯定して生きていける未来に

    ―― 実際には『宇宙でいちばんあかるい屋根』の舞台設定は、今から15年前、2005年となっています。

    『新聞記者』を撮った当時は32歳。新聞も取っていないし、選挙にだって数えるほどしか行ったことがない。「国や政治のことなんてまどろっこしくてよく分からない」「真面目に考えたって時代は変わらないんじゃないか」という状態から、あの映画に取り組みました。

    『新聞記者』は内容のほうに関心を持ってくださった方も多いと思うんですが、僕は、登場人物それぞれの「人間」に向き合ったことが、自分自身の人生を見直すきっかけになりました。それで「善も悪も見方によって変わる」「人それぞれの生き方・考え方がある」ということをあらためて強く感じて、「でも、それを多くの人が忘れてしまってるんじゃないか」という考えに至ったんです。

    ―― 奇しくもコロナ禍で、それは加速しているように思います。

    家族がバラバラに暮らしていて、隣人との関係も薄く、リアルなつながりにデジタルが侵食してきている。SNSでも、他者の人格を否定するような書き込みをよく見るようになって、人間の「悪意」の形が変わってきているのを日々感じていました。

    だったら未来の話をする前に、地続きにある「今」の物語として描いて、未来へ届けることをやるべきなんじゃないか。誰もが子どもだった頃、いろんな人の力を借りながら少しずつ大人になっていった経験を、この映画で表現したい。いろんな屋根の下でいろんな人が育って、暮らしていることを描いたとき、2020年という今、観た人にこの物語はどう反射するだろう。そういう思いから、より「自分ごと」にして脚本を書き直すことにしました。だから2005年という、自分がつばめと歳が近かった時代を舞台にしたんです。

    『宇宙でいちばんあかるい屋根』も『新聞記者』も、人間を描くという点では根本は同じです。色やつくりが異なる家々の屋根や、水槽で泳ぐ、大きさも動きもさまざまなくらげ。それらと同じように、自分も自分以外の人も肯定して生きていける未来がくるといいなという思いが、『新聞記者』を作ったことでより強くなりました。

     

    小説で描かれていない部分に、理由や背景を与える意味

    ―― コンセプトが決まった後、脚本執筆ではどんなことがポイントになりましたか。

    2時間という長さで、映画と小説をいかにパラレル化できるかですね。そのために、映画化するにあたっては、いくつか論理的に解決しておきたい点がありました。

    たとえば「なぜ星ばあは、バースデーカードを奪えたのか」「なぜ亨くんは、つばめの『一緒に屋根を探そう』という提案に乗ってくれたのか」。そういう一つひとつに理由を与えていくんです。それは、何度も読んで小説を自分のものにしていくのと、2時間通して1本の映画を観ることの違いからくるものだと思います。小説は自分の解釈で、自分の頭の中に浮かんだ画のなかで進んでいけますけど、映画は具体的な映像がまずそこにありますから。

    僕は今回の脚本を書くとき、小説で描かれたことを大切にまず書いて、次からは小説を読まずに脚本だけを読み直して改稿し、原作者の野中ともそさんやスタッフに見てもらうというのを繰り返しました。そうやって、一つひとつのシーンを映像としてなめらかにつなげていくのと同時に、少しずつ少しずつ、丁寧に原作小説から離していくんです。

    野中さんはどこか飄々としたところもあるとても穏やかな方で、特に何もおっしゃらず、そのままにさせてくださいました。

    宇宙でいちばんあかるい屋根
    著者:野中ともそ
    発売日:2020年04月
    発行所:光文社
    価格:660円(税込)
    ISBNコード:9784334790080

    ――『宇宙でいちばんあかるい屋根』の「あとがきのあとがき」に野中さんが書いていらっしゃった脚本推敲中のエピソードも、とても素敵でした。脚本を書くにあたって、登場人物のプロフィールはどんなふうに膨らませていきましたか?

    僕の場合は撮影に入る前に、細かいところまで人物設定を考えて、全員分のキャラクターシートを作りました。

    敏雄(つばめの父)と麻子さん(つばめの育ての母)がどうやって出会ったのか、お父さんは何の仕事をしているのか、なぜ麻子さんを再婚相手に選んだのか。お父さんはどんな音楽が好きで、どこの大学で何を勉強して、初体験はいつだったか……。そういうところまで考えていくと、自然と「こういう場面で彼ならどうするか」が浮かんでくるんです。

    ―― 印象的だったのが、麻子さんの出産予定日がいよいよ近づいてきたとき、幸せそうな父母に対して、つばめが一気に感情を爆発させたシーンです。あのときのお父さんの行動に、彼女に注がれている愛情のかたちがよく表れていて、胸がいっぱいになりました。

    セリフや大まかな仕草は台本の時点で決まっていたことですけど、あそこまですばらしいシーンになったのは、僕もとても嬉しかったです。原作小説から大きくふくらませたところでもあり、細かに設定を与えたことで、人物がより「生きている」と感じられた場面でもあると思います。

    ―― そうやってあらゆることに理由や背景が与えられていったなかで、一つ気になることがあるんです。物語の終盤でつばめは“星ばあ”の正体を知ることになりますが、“星ばあ”とつばめがああいう形でつながっていたことも、必然だったのでしょうか。

    あの設定は、「この物語に一つくらい偶然があってもいいんじゃないか」と思って、原作小説から残すことにした部分です。

    僕がつばめと同じ中学生くらいだった頃を今振り返ると、自分の感情なんて、きっと大人にはお見通しだったと思うんです。全部わかったうえで、僕が反発したりしても、知らんぷりしながら見守ってくれていたんだなと。僕、中学生のとき、本当に笹川くんみたいな奴だったんですよ(笑)。

    『宇宙でいちばんあかるい屋根』は、ご近所さんが皆同じ病院を利用しているような、すごく小さな町の話です。そういう環境でつばめは、両親や亨くんに見守られながら育っている。そんななかにも一つ、知りえない「偶然」があってもいいんじゃないかなと思って残しました。

     

    重要なのは「なぜ今、それを撮るのか」

    ―― つばめにとって“星ばあ”との出会いは、それからの人生で、お守りのようにどんな瞬間にも寄り添ってくれるものになると思います。藤井監督にとって、そんな存在はありますか?

    僕は両親がけっこう自由な人たちだったのと、小学生くらいまでにおじいちゃん・おばあちゃんが皆亡くなっていたんです。そんななかで僕を育ててくれた80歳くらいのお手伝いさんが、僕にとって“唯一のおばあちゃん”でした。学校から帰ってくるとおばあちゃんがいて、作ってくれたごはんを野球の試合中継を見ながら食べていた時間は、今も思い出します。思春期に一番近くにいてくれたのはそのおばあちゃんだったので、彼女が仕事を辞めて老人ホームに入った後も、一人で会いに行ったりしていました。

    それとは相反するようですけど、僕にとっては父親の存在も大きいです。父が自分の父じゃなかったら、たぶん僕は今とはまったく違う大人になっていたと思います。必要なときにちゃんと言葉をくれる人で、どんなにいい仕事をしようが、会って別れるときに「じゃあ、また。謙虚にね」って一言言うんです。

    そんな人たちがいつも周りにいるから、きっと僕は60歳になっても自分を誇張せずに生きていられるだろうなと思っています。

    ―― お話を伺うまではノワールな作品の印象が強かったんですが、監督自身はとてもニュートラルな方なんだなと思いました。次作は『ヤクザと家族 The Family』ということで、硬派な作品になるのではと思っているんですが、それ以降に考えていらっしゃることはありますか?

    実は、2023年くらいまではもう予定が決まっています。そのうえでお話すると、恋愛映画とか、サイコスリラーとか、そういうまだ挑戦したことのないジャンルを撮ってみたいですね。もちろん、冒頭でお話ししたようなSFも。

    「映画人としてこれが撮りたい」という意識はあまりなくて、僕は、たとえば「30歳である感情を撮って、一度やりきったなら、同じようなものはもう撮る必要がない」と考えているんです。“その監督らしさ”を追求するよりも、いろんな世界を通じて、いろんな題材やアプローチで社会や未来を考えられるような作品を撮りたいなと思っています。そのアプローチの仕方を、どんどん増やしていきたいという意識が強いです。

    もちろん「こういう話はどうかな」というアイデアはたくさんありますよ。会社名に「2045」とつけたように、AIによるシンギュラリティには特に興味があります。それ以外にもたくさんあるけど、それは内緒です(笑)。

    『宇宙でいちばんあかるい屋根』でも描いたように、いろんな生き方があって、映画にもいろんなジャンルがあります。何事も、まずやってみないことにはわからない。今は、自分が何をやりたいかで撮る映画を決めるのじゃなくて、時代精神=「今の時代に何を撮るべきか、撮りたいか」にきちんと向き合うこと。これだけを守って、食わず嫌いせずにいろんなことに挑戦したいと思っています。

     

    番外編:藤井道人監督の「大切な本」

    本はたくさん読むほうだという藤井監督。今回「大切にしている本はありますか?」と伺ったところ、2つ紹介してくださいました。

    一つ目は、伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』。岡田将生さん主演で2014年に映画化された本作。藤井監督は、本作で長編映画監督デビューを飾りました。「自分の映画人生を始めさせてくれた小説で、今でも大事なところに飾ってあります」。

    オー!ファーザー
    著者:伊坂幸太郎
    発売日:2013年07月
    発行所:新潮社
    価格:869円(税込)
    ISBNコード:9784101250274

    もう一つは、吉村和敏さんの美しい写真と、谷川俊太郎さんの透明な詩が味わえる『あさ』と『ゆう』。右から読むと詩集、左から読むと絵本になるビジュアルブックです。

    「『あさ』と『ゆう』は、清原果耶さんからアカデミー賞受賞のお祝いにいただいたものです。18歳の若さでこの一冊を選んでくれるなんて、と驚きました。『あさ』『ゆう』を読むと、心のトゲトゲしたものがすごくなだらかになるんです。感覚を平らにしてくれる本ですね。清原さんにいただいたということも含めて、繰り返し大切に読んで、すぐ手に取れるところに置いてあります」。

    あさ/朝
    著者:谷川俊太郎 吉村和敏
    発売日:2004年07月
    発行所:アリス館
    価格:1,430円(税込)
    ISBNコード:9784752002772
    ゆう/夕
    著者:谷川俊太郎 吉村和敏
    発売日:2004年11月
    発行所:アリス館
    価格:1,430円(税込)
    ISBNコード:9784752002901

     

    映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』作品情報

    清原果耶
    伊藤健太郎 水野美紀 山中崇 醍醐虎汰朗 坂井真紀 吉岡秀隆
    桃井かおり

    主題歌:清原果耶「今とあの頃の僕ら」(カラフルレコーズ/ビクター)
    作詞・作曲・プロデュース:Cocco

    脚本・監督:藤井道人

    原作:野中ともそ『宇宙でいちばんあかるい屋根』(光文社文庫刊)
    配給:KADOKAWA

    https://uchu-ichi.jp/

    © 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会




    タグ
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下

  • GoogleAd:007

  • ページの先頭に戻る