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  • AIに「人間らしさ」を組み込むため、天才研究者と特任助手は4つの「不可解な謎」を追う|喜多喜久『動機探偵』

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    2020年09月08日
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    細谷正充:「小説推理」BOOK REVIEW
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    人工知能の研究をする准教授が求める、不可解な行動の謎のため、特任助手の鈴代若葉が奔走する。

    喜多喜久の新刊は、ユニークな動機探求ミステリーだ。


    喜多喜久は、准教授がお好き。本当かどうかは分からないが、そういいたくなる。なぜなら、「化学探偵Mr.キュリー」「死香探偵」シリーズに続き、本書の名探偵役も准教授だからだ。令王大学で人工知能の研究をしている、若き天才研究家・名村詩朗である。

    新たな職を求めて令王大学の事務員に応募した鈴代若葉。先進人工知能研究室の名村准教授の、奇妙な試験に合格し、無事に採用される。しかし仕事の内容は変わったものであった。非論理性をあえて人工知能に組み込むことによって、人間らしさを獲得させようとしている名村。そのために、非論理性の解析の基礎データとなる具体例――『なぜ』とかんじるような謎を集めてほしいというのだ。

    かくして若葉は、奇妙な謎を探すことになる。本書には短篇4作が収録されている。第1話は、名村と若葉の紹介篇。扱う謎は、若葉の死んだ祖母が持っていた、5本の日本刀だ。ごく普通の人生を送ってきた祖母が、なぜ銘の入っていない5本の新刀を所持していたのか。若葉の調査と、名村の推理により、やがて真相が明らかになる。続く第2話は、令王大学の教授が、山で事故死した息子の件を名村たちに相談。息子が山に登った理由を調べる。

    第3話は、突然、婚約破棄を言い出した女性の謎を追ううちに、肝心の女性が失踪する。そして第4話は、13年前の殺人事件の犯人が捕まったとき、どうして幼い息子に罪を擦りつけようとしたのかという疑問を、追究していく。第1話の謎の真相は平凡であり、ちょっとガッカリした。だが読み進めるうちに、作者の狙いが分かってくる。1作ごとにミステリー味が強まっているのだ。それに併せて、描かれる人の心の謎が、奥深いものになっているのである。

    なかでも秀逸なのが第3話だ。意外なストーリー展開が、大いに楽しめた。また、名村の特異なキャラクター設定(読んでのお楽しみ)があるからこそ、失踪の真相が際立つ。これが本書のベストだ。一方、第4話では、殺人事件の真相に、工夫が凝らされている。大手製薬会社の研究員だったという作者の知識が、充分に活用されているのだ。まさに作者ならではの作品といえよう。

    さらに各話を通じて、しだいに若葉が名村に惹かれていくのも、注目ポイントになっている。これからふたりがどうなるのか知りたいので、是非ともシリーズ化してほしいのである。

    動機探偵
    著者:喜多喜久
    発売日:2020年08月
    発行所:双葉社
    価格:715円(税込)
    ISBNコード:9784575523836

    「小説推理」(双葉社)2020年10月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載




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