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  • 生きづらさは「悪」じゃない。発達障害と向き合う児童精神科医を描く『リエゾン』

    2020年08月22日
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    兎村彩野:講談社コミックプラス
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    リエゾン 1
    著者:竹村優作 ヨンチャン
    発売日:2020年06月
    発行所:講談社
    価格:704円(税込)
    ISBNコード:9784065199053

    集団の中でうまく暮らせない生きづらさ。自分の生きづらさだけではなく、友だちについても「あの子、生きづらそうだなぁ」と感じたことがある。

    生きづらさとはなんだろう。どうして生きにくいのだろう。自分が悪いのか、環境が悪いのか、誰かが悪いのか。小さな頃、教室の隅でいつもそんなことを考えていました。

    近年メディアで目にしない日はないくらい、度々話題に出る「発達障害」。統計的に日本国内でも診断されている人は48万に上るという。子どもの場合10人にひとりの割合なので、40名ほどいるクラスだと発達障害の子がうち2~3人いてもおかしくないそうです。

    エジソンやビル・ゲイツなど著名人にも発達障害の人は多く、何かに夢中になったり、好きなことにのめり込み過ぎたり。ひとりで黙々と打ち込める環境がある場合は、何かに秀でた人になる反面、集団でのコミュニケーションにおいては、意思疎通がうまくいかずにトラブルを起こすこともあります。

    「発達障害」と一口に言っても症状はさまざまで、いくつかのタイプに分類されます。「自閉症スペクトラム障害」「アスペルガー症候群」「注意欠如多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」などがあります。他にもたくさんの症状があり、どれも病気ではなく、その人の特性や気質のようなもので、個人差や環境の影響、年齢、コミュニティとの相性があります。「個性」に近いかもしれません。得意なことと苦手なことが個性として強く出ていることが多いです。

    テレビやラジオのニュース、インターネット、書籍などで、発達障害に関するたくさんの情報が出てきています。だから、「私はもしかしたら?」「自分の子どもは当てはまるかも」など、性格や個性と長年曖昧になっていた部分が、一般にも少しずつ認知されてきました。

    その「発達障害」をわかりやすく描いた漫画が、今作の『リエゾン こどものこころ診療所』です。児童精神科医が物語の軸になっています。

     

    生きづらさは「悪」じゃない

    主人公は遠野志保。小児科の研修医です。

    自分自身を「ドジ」と呼ぶほど、日々の中でミスを繰り返してしまう志保。研修中の病院でも薬の処方量を間違えるなど、自分のしくじりの多さに落ち込みます。

    志保は臨床研修に入ろうとしますが、どこの大学からも引き受けてもらえず、地方にある児童精神科の病院へ行くことになります。

    森の中の小さな病院。到着早々、病院の中では子どもがバタバタと逃げ回っています。そこには治療中の児童精神科医・佐山卓がいました。

    卓は志保にドジやミス、早とちりは性格ではないと告げます。志保自身が発達障害なのだと。突然のことに気持ちが乱れますが、少しずつ病院での生活や臨床研修に慣れていこうとします。

    全編にわたり、いろいろな環境や症状の子どもたちが登場します。そして、その子どもを育て、環境を大きく左右する家族・親の存在。人間個人が持つ個性なのか、特性なのか、もしくは環境を生き抜くための適応なのか。

    漫画の中で印象的なページがあります。

    すべての子どもが幸福に育つ環境は
    おそらく存在しない
    だけど 子ども時代の幸福な記憶は
    一生の宝物になる
    子ども達が そんな日々を 過ごせるよう
    切に願い 手を差し伸べる

    生きづらさは決して悪いことではない。生きづらいまま生きていていい。生きづらいまま幸福になっていい。このメッセージをそんな風に受け取りました。

     

    知らないことを知る優しさは、社会を照らす光になる

    もし生きづらい人がまわりにいたら、そっと寄り添う。無理をして甲斐甲斐しくお世話をするのではなく、自分が疲れない距離感と時間の範囲で。少し気にかけておく、このくらいのマイルドな距離感でそっと寄り添うだけでも、社会全体が少し明るくなるように思いました。

    漫画を通して多くの人が「発達障害というものがある」「こういう症状や環境だと発達障害かもしれない」と知識を持つこと。理解しようとすること。これが誰もが持てる最初の優しさなのではないかと感じました。絵柄も綺麗で、監修もしっかり入っている漫画だからこそ、すっと心に入ってきて知識と記憶が残ります。厳しい現実に対する漫画だからこそのやわらかい表現に、著者の問題と向き合う・寄り添う優しさが溢れています。

    本編では親の暴力による虐待を受けた子、学校にうまくなじめない子、ネグレストを受けた子が登場します。主人公の志保自身も患者のひとりです。自分の子どもの生きづらさを汲み取ったり、自身の過去の生きづらさに気づいたりするきっかけになったり。苦しさの理由がわかるだけでも、次にどうしたらいいかが風景として見えてきます。

    知ることの優しさを身につけると、まわりにいる人たちの生きづらさにも気づけるようになります。面倒だから排除するという端的なコミュニケーションではなく、ともに社会を作る仲間として生きていくヒントを探す、歩み寄れる方法を模索する。知識は視点を広げ、俯瞰で見たり感じたりする技術を育てます。

    子どもの精神科の存在や発達障害という知識を届けてくれる漫画。まだまだ認知されていない子どもたちの心の世界。ぜひ多くの方に手にとっていただきたい素晴らしい漫画です。そして、生きづらさに苦しんでいる方がひとりでも、光を感じるきっかけになりますように。そう願います。

    試し読みはこちら

    (レビュアー:兎村彩野)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2020年7月30日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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