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  • 「劇場」行定勲監督インタビュー:山﨑賢人と松岡茉優が対極の演技で魅せる男女のリアリティ

    2020年07月16日
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    ほんのひきだし編集部 猪越
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    一番会いたい人に会いに行く
    こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろう――

    又吉直樹さんが書いた初の恋愛小説を、山﨑賢人さん、松岡茉優さん出演で映画化した「劇場」。メガホンをとったのは、「世界の中心で、愛をさけぶ」「ナラタージュ」など数々の恋愛映画で知られる行定勲監督です。

    友人と立ち上げた劇団で、演出と脚本を手掛けるもうまくいかない永田(山﨑)と、彼を信じて支え続ける沙希(松岡)。東京・下北沢を舞台に、2人の7年間にわたる恋と葛藤の日々を描く物語を、行定監督はどのように捉え、映像化していったのでしょうか。

    コロナ禍で上映が延期されるも、いよいよ7月17日(金)に公開され、全世界動画配信も果たす本作。「劇場」という作品と映画への思いについて、行定監督にお話を伺いました。

    行定勲(ゆきさだ・いさお)
    2000年「ひまわり」で釜山国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、2001年「GO」で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞に輝く。ほかに「世界の中心で、愛をさけぶ」、「パレード」(第60回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)、「リバーズ・エッジ」(第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞)など。また「タンゴ・冬の終わりに」などの舞台演出も手掛け、2016年毎日芸術賞 演劇部門寄託賞の第18回千田是也賞を受賞。待機作に「窮鼠はチーズの夢を見る」(9月11日公開予定)がある。

     

    「劇場」にはわからない感情がひとつもなかった

    ――本作の監督を務められたきっかけについて教えてください。

    小説「劇場」が「新潮」(2017年4月号)に掲載されたときに、それを読んですぐにやりたいと思いました。その時すでに、映画化に関わっていたプロデューサーを知っていたので、「監督がまだ決まっていないなら立候補したい」とお願いしたのです。

    この作品は、小説と映画ではラストシーンの表現の仕方が違うのですが、読み終えたときにそのシーンがパッと頭に浮かびました。それがまさに映画的な仕掛けであり、かつ自分がこれまでやったことのない表現につながっていくような気がしました。

    そして、この「劇場」の主人公の心情は、僕にとってわからないことがひとつもなかった。それが大きな理由です。

    ――小説について、「あまりにも身に覚えがある場面ばかり」と語られていますね。

    作り手のエゴや理想、そこに届かない苦しみ、劣等感、虚栄心、アイデンティティのあり方。それらは明らかに、表現者の誰もが共通して持っているものだと思います。

    あとはそばにいてくれる理解者に対する甘え、これは大きいでしょうね。この映画の中心となる部分でもありますが、永田の目指すところに到達できない苛立ちや自意識が、隣にいてくれる、一番大事な人である沙希に当たったり、ぶちまけたりすることで露呈していく。

    この作品の根幹にある主人公の姿は、おそらく世界中の人に伝わるものではないでしょうか。それぞれの国の事情や伝統、生活習慣は多少違うとしても、物を作る心情は似ている気がします。

    ――本作は、劇場公開と同日からAmazon Prime Videoで全世界に配信されます。

    公開と同時に、240以上の国と地域で視聴可能になるというのは思いもしないことでした。通常であれば、自分たちが作った映画を世界に広めたいと思ったら、地道に映画祭に参加して、そこでまた別のディレクターに発見してもらうといったチャレンジを重ねていく。そのために映画祭というものがあります。

    それがこういう形で配信されると、一気に世界へと広がっていく。それも又吉さんによる下北沢の小さな部屋のラブストーリーが、世界に通じるものである、普遍性があると判断されたからだと思います。

    そういう意味では、新型コロナウイルスの影響で当初より劇場公開の規模は縮小となりましたが、別の形でのチャンスが広がって、今後どのようにこの映画を世界中の人が観てくれるのかなという可能性を感じています。

     

    2人が暮らした“劇場”を下北沢の空気の中で確立

    ――原作は一人称の小説なので、永田の心情や視線を通して描かれていきます。映画では登場人物や状況をいわば俯瞰して見ることになりますが、小説の世界観が見事に映像化されていると感じました。その世界観やキャラクターの造形はどのようにされたのでしょうか。

    舞台が慣れ親しんだ下北沢ですからね。それに、自分が過ごしてきた青春時代の中にも、恋をしたり人を傷つけたり、いくつかのポイントで去来する風景がある。

    永田と沙希にとっては、2人で暮らした下北沢の小さな部屋が、人生のその時期における“劇場”であったはず。なので、その“部屋”というものを重視して、下北沢の空気の中でちゃんと確立させたかった。そこで舞台となるアパート探しから始め、その外観や部屋の内部にいたるまでかなりこだわっています。

    それと一人称で書かれた小説は、映画になるとどうしても三人称に感じられます。一人称のほうが主人公の視点で語られていくので、多少つじつまが合わなくても成立するし、感情豊かではありますが、三人称のほうが客観的な分、物事が整理されて進んでいく。一人称の小説の映画化で違和感を感じるとしたら、そこの差が大きいような気がします。

    「劇場」も小説は一人称なので、永田という男のどうしようもなさが如実に描かれているのですが、映画だときっとそれが和らぐんでしょう。映画では、「嫌なやつかもしれないけれど、かわいいところもある」という救いのある描き方ができるかなと思いました。

    又吉さんもこれを見て、「永田も案外、悪いやつじゃないかなと思えたのでホッとしました」とおっしゃっていて。おそらく自伝的要素のある、又吉さん自身が投影されている物語でしょうから、描かれている人間の狭さ、小ささみたいなものが際立っていたら嫌やなあと思っていたみたいです。

     

    山﨑賢人と松岡茉優、不器用な男と努力家の天才による恋愛リアリティ


    ――その「どうしようもない男」を演じた山﨑さんにとっては、いままでにない役柄となりましたね。

    僕は「山﨑はきっと不器用な男なのだろうな」と、これまでの作品を見て思っていました。不器用だから、演出家が言ったことを実直に叶えようとしている。そういう意味ではすごくいい俳優ではあるのですが、僕から見るともう少しネジを緩める作業が必要だと感じました。

    特に本作は不器用なところがそのまま出ていいし、自分で制御するんじゃなくて、思ったとおりにやっていいとずっと耳元でささやいていたら、僕が思う永田像に近いものがどんどん出てきた。それは、僕が指示したものではなくて、彼の中から生まれてきたもの。そこには彼という人間の本質にある何かが加わっているんだと思います。

    ――髭を生やしたのも人生初だそうですね。

    これは私見ですが、永田のようなキャラクターのキャスティングにおいては、イケメンじゃない、ちょっとクセのある性格俳優のほうがうまくハマるんじゃないかというイメージがある気がします。だけどあえて山﨑賢人でいこうと思ったのは、彼はいままでこういう役をやったことがないし、彼の演じる永田が想像つかなかったからです。

    僕はこれまで残念なイケメンをいっぱい見てきましたが、彼らは人が自分の美しさに惹かれることを嫌がります。だから髭を生やしたり、奇をてらった格好で見た目を崩したりする。その長所をうまく活かせば成長できるのに、自意識がそれを阻んでしまうという部分の説得力は、山﨑の美しさにあるんだろうと思います。

    ――ヒロインを演じた松岡さんも、さすがの演技で徐々に追いつめられていく沙希を体現しています。

    松岡茉優は天才であり努力家です。自分がこう演じたいというプランに向けて、きっちり準備をしてきて、そこに着地させようとする。

    沙希の前髪を触る癖も彼女が考えてきたもので、癖ひとつにしても整合性があって、あえて初志貫徹でやっています。それが場合によっては煩わしく見える瞬間があるかもしれないけれど、そこは演出家が全体の流れの中でいい塩梅にしてくれればいい。そのために演出家は見てくれているという考えのもとに、自分のやりたいことを思いきりやっているのだと思います。

    現場で見ていても、こちらが想像のつかないような性格描写をどんどん出してくるので最初は戸惑いますが、意図が見えてくると、それにハマっていく自分がわかる。普通はだいたいこちらの考えるOKラインに収まってくるのですが、本作では様子を見つつも、それとは違うOKを僕は出しています。

    最終的に理解したのが編集の段階で、もうため息しか出ないですね。松岡の中では、沙希という人物がトータルにわかっていて、それを見せていたんだなと。そんな経験はなかなかないです。

    その対極にあるのが山﨑で、むしろ彼は現場で出てきたもの、松岡が仕掛けてきたことに順応していく中で衝動が生まれる。たとえば沙希が、かいがいしく永田を世話することに対して苛立ちをかぶせてくるシーンがそうです。

    2人の息が合っているのではなくて、それぞれの性格描写を違うアプローチでぶつけているから、共鳴しあった瞬間にOKシーンが生まれてくる。小説から匂いたつものとはまた違う、その空気に恋愛のリアリティを感じていただけるのではないかと思います。

    ――いよいよ公開となりますが、いまのお気持ちは。

    今回は劇場公開と動画配信が同時というイレギュラーな形態になりますが、まだ新型コロナの感染が収束していない中、みなさんに一番届けやすい手段としてこの形を選択しました。

    僕はこれを劇場映画として作っているので、本作を配信でご覧になった方たちの中には、ラストシーンが訪れた時に「これを映画館で観たらどんなふうに感じたのだろう」と思ってくださる方もいるかもしれない。映画館の大きなスクリーンで、そこに集った人たちとともに観る空気は特別なものですから。

    その方たちにはぜひ映画館に足を運んでもう一度観ていただければと思いますし、一方で、配信でも同じように感動はちゃんと伝わるんだということが共有できるかもしれない。そんなチャンスだと僕は前向きに捉えていますので、ぜひともご自宅と映画館で、この「劇場」に触れていただければと思います。

     

    映画「劇場」作品情報

    高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。
    そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡)を見かけ声をかける。自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放っておけなく一緒に喫茶店に入る。女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。
    お金のない永田は沙希の部屋に転がり込み、ふたりは一緒に住み始める。
    沙希は自分の夢を重ねるように永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女を大切に思いつつも、理想と現実との間を埋めるようにますます演劇に没頭していき―。

    2020年7月17日(金)全国公開/配信

    出演:山﨑賢人 松岡茉優
    寛 一 郎 伊藤沙莉 上川周作 大友 律 / 井口 理(King Gnu) 三浦誠己 浅香航大

    原作:『劇場』又吉直樹 著(新潮文庫)
    監督:行定 勲
    脚本:蓬莱竜太
    音楽:曽我部恵一

    配給:吉本興業

    gekijyo-movie.com

    劇場
    著者:又吉直樹
    発売日:2019年09月
    発行所:新潮社
    価格:539円(税込)
    ISBNコード:9784101006512

    ©2020「劇場」製作委員会

     

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