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今年、創刊35周年を迎えた月刊誌「公募ガイド」。その雑誌名にまつわるエピソードから“公募”の奥深い魅力まで、15年にわたって編集に関わっている澤田香織編集長に綴っていただきました。
自宅でリモートワークをしていると、ふと、「公募って何?」と息子が聞いてきました。
「“ガイド”は案内するってことでしょ? “公募”ってどういうこと?」
ネット漬けの小学4年生でも、さすがに耳慣れないかあ。いや、大人だって意味はわかるけど、感覚として入ってこない。だからって、「コンテストガイド」も芸がないし……。
このタイトル問題は、私が入社するずっと前からたびたび取り上げられてきました。わかりにくい、ダサい、古臭い、そのまますぎる、だから売れないんだ、などなど。
読者からも指摘があるほど問題は明白なのだが、大昔にタイトルを変えて大コケし、即行、元に戻した、という伝説もあって(そのときのタイトルは「koubo」。余計わからんぞ)、「公募ガイド」はこのタイトルのまま、今年、創刊35周年を迎えました。
ただ、表紙のハードルが高いせいか、ページをめくってくれた方は皆さん、公募の魅力にハマります。子どもの頃の「何か作りたい!」という、ふいに湧き上がる衝動を徐々に取り戻していくようです。
それは、年齢を問いません。10代も90代もいっしょになって挑戦し、受賞に喜び、落選に泣く。公募はそんな世界なのです。
私はこの世界に住む創作者たちに惹かれ、15年以上、公募ガイドを作ってきました。
彼らの目的はさまざまです。お小遣いを稼ぎたい、世の中と繋がりたい、自分の力を試したい、プロになりたい……。興味のあるジャンルも、川柳、エッセイ、小説、デザイン、写真、動画、料理とさまざま。レベルだって、公募の猛者! 輝く受賞歴! という人から、公募って初めて聞きました、という人までさまざまです。
どうやったってひとくくりにできない住人たちですが、皆さんに共通していえるのは、人生を謳歌しているということ。忙しい合間を縫ってコツコツ作品を作り、生みの苦しみを越え、締切に間に合うように徹夜し、そうしてようやくできた我が子同然の作品を評価という深い谷に突き落とす……。
なんだか地獄のような世界ですが、一方で、悔しがったり喜んだりしながら、自分の可能性を広げています。嫌なことがあっても、作品のネタにしてやろうと前向きにとらえたり、日々の生活に目を向け、ささやかな発見を作品に昇華したり。
なんて素敵な住人たち。私(そして編集部)の使命は、彼らが抱える悩みを解決し、公募にまつわるたくさんの楽しさを提供していくことです。
当然、公募情報や作り方を雑誌で紹介するだけでは足りません。ときに、作品を添削し、ときに公開講座を開催する。自分の本を出したい人を集めて作品集を作ることもあれば、半年間かけて賞金獲得レースを開くこともあります。
読者を一番に考え、雑誌の枠を超えることを恐れない、というのが大事かなと思っています。
ところで、コロナの自粛期間中、息子がしきりに「あ~、何か作りたい!」と叫んでいました。疲れとかイライラとか、少しずつ心に溜まってきたものを吐き出したかったのかもしれません。あるいは、作ることに没頭すればストレスが発散できることを本能的に理解していたのかも。
創作することで心が軽くなります。達成感も得られます。公募に応募すれば、外の世界と繋がることだってできます。こんなときだからこそ、たくさんの人に公募の魅力を知ってもらいたい。その活動もまた、私たちの使命だと思っています。
公募ガイド社「公募ガイド」編集長
澤田香織 SAWADA Kaori
1979年、富山県出身。2002年、公募ガイド社に入社し、懸賞雑誌を担当。2年後「公募ガイド」編集部に異動し、2014年より編集長。
(「日販通信」2020年7月号「編集長雑記」より転載)