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  • 不良少年の左手に宿る天才少女!コンビでピアノの頂点を目指す

    2020年06月13日
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    花森リド:講談社コミックプラス
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    左手のための二重奏 1
    著者:松岡健太
    発売日:2020年04月
    発行所:講談社
    価格:693円(税込)
    ISBNコード:9784065188934

     

    俺の左手にいる“あの子”

    手は不思議なパーツだ。鏡に頼らずとも視界に入ってくるし(今もキーボードを叩いているのが見える)、思いのままに動かせているようで、たまに隠したい本音なんかを漏らしてしまう。まるで私から切り離された自治区のようだ。だから「クッ、静まれ……!」と自分の手を押さえつける中学生男子の気持ちはわかる。私だってやりたかったもん。

    「私の手に“誰か”が宿っていたら」という想像は、すごく楽しいのだ。そんな願望を心のどこかで思い出しつつ『左手のための二重奏』を読んだ。あーワクワクする!

    主人公の“的場周介(まとばしゅうすけ)”の左手に宿っているのは「天使の左手」と呼ばれた天才ピアニストの“弓月灯(ゆづきあかり)”。父親は一流ピアニストで、自身も大きなピアノコンペで優勝するような少女だ。

    この朗らかな表情そのままの優しく楽しい演奏ができる子だけど、とある不幸な事故により突然亡くなってしまう。周介の目の前で、周介が一生苦しむような形で。でも生前の彼女は周介の広くて大きな左手に触れてこう言うのだ。

    「私がつかめない音もシュウくんなら……」と。ピアノを貪欲に追い求める女の子の本音。そして彼女は周介の左手に宿る。そう、このマンガでの彼女の「死」は悲しいのに、かわいそうではなくて、ほの明るくて優しい気持ちにさせる。

    日々グーで殴り合うような不良だった周介の左手を使って、灯は元気よくピアノを弾く。

    ピアノも手と同じくらい不思議な楽器だ。鍵盤を押せば誰だって音を出すことができるのに、演奏する人によって同じ曲でも質がまるで違う。つまり、周介の左手の演奏を聴けばそれが灯であることがわかるのだ。天使が宿った不良の左手。

    そんな左手を周介はどうする? ピアノなんて未経験だし、もう中学生だし、そもそもそんなキャラじゃないし。でも、周介はどうしたい?

    ……それがこのマンガの熱い部分だ。

     

    きっかけは「灯の夢を手伝う」だった

    周介は灯の死に責任を感じて自分を責めて責めて、いっそ死にたいくらい辛い。だから灯が自分にだけは見えて、さらに左手に宿っていると気づいたあと、灯が生前に望んでいたことを叶えたいと奔走する。

    娘の死後「音楽をやめる」と決めた灯の父親に会いに行き……、

    今も灯が「いる」ことを伝える。ここから始まる連弾のシーンがすごく好きだ。切ないのに鮮やかで強い。

    そして周介は灯の「ピアノが好き。ピアノを弾いて世界中を笑顔にしたい」という願いを手伝うと決める。

    冒頭でも紹介したが周介はピアノ未経験なので、まずは灯の父親に師事することに。ピアノで大きな舞台へ羽ばたくためには、コンクールに出て勝つことがメインのルートだ。彼らもコンクールを目指す。

    で、ここまでだけでもアツいのだけど、周介の「左手以外の人生」はどうなるんだ? という点も紹介したい。ここに触れないと題名の「二重奏」の意味がわからないからだ。

    まず周介がピアノ奏者としてどういう状態かというと、大きな手を持ち、体力と根性もハンパない。そして、左手が「天才」で、右手は「初心者」。楽曲にもよるがピアノの左手はバンドでいうとベースの役割に近い気がする。リズムを刻み、ハーモニーの根幹を支える。

    だからベースが良いと音楽はグッとしまる。そして、右手はヴォーカルのような存在だと思う。メロディを歌う。つまり、初心者である以前の課題として、ただ単に「左手みたいに弾きます!」じゃダメで、ピアノ演奏として成立しない。

    周介と灯は練習も休憩も一緒。演奏が上手くいかない理由を話し合ったり、お互いがどういう人生だったか、何が悩みだったかも伝えあう。最後のコマで灯がいう「左手は私の音を弾くから」がヒントだ。右手は? そう、周介の音だ。

    体は1つだけど、大切な左手のために音は2つ必要で、周介にはそれができる。1巻を読んで「あ、できるなこれは」と思った。ピアノは灯の夢だったけれど、やがて周介の夢にもなるのだ。

    ピアノはメロディとハーモニーを1人で演奏できる不思議な楽器だ。ピアノ1台だけで楽団がいるように音が無限に広がる。だからピアノは周介と灯にとって最適な楽器だし、2人じゃなきゃ演奏できない音楽が聴けるはずだ。

    試し読みはこちら

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2020年5月27日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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