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  • 前科2犯、空き巣に入ったら初恋の人の家だった|藤崎翔『あなたに会えて困った』

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    2020年05月28日
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    細谷正充:「小説推理」BOOK REVIEW
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    刑務所から出所したばかりの空き巣は、初恋の人と再会して、懐かしい過去を思い出す。

    そこから始まるストーリーは、いったいどこに向かうのだろうか。


    藤崎翔の最新刊『あなたに会えて困った』の書評を依頼されて、どう書いたらいいのか困った。というのも物語の最大の魅力となる部分が、ミステリーのサプライズと密接な関係にあるので、詳しく述べるわけにいかないのだ。いやもう、本当に困った。だが愚痴をこぼしても始まらない。なんとか作品の魅力を伝えるべく頑張ってみよう。

    主人公の名は「善人」と書いてヨシトと読む。しかし彼は善人ではない。空き巣の罪で前科2犯。つい先ほど刑務所から出所したばかりの男である。

    空き巣の先輩であるスーさんを頼ったヨシト。スーさんから空き巣に最適の家があると教わり、さっそく忍び込む。だがそこは、彼の初恋の相手であるマリアの暮らす家のようだ。このことが気になったヨシトは、翌日も家の周りをうろつき、マリアと再会。マリアがヨシトの小学生時代の親友と結婚していることを知る。なぜかその後もヨシトと会いたがるマリアだが、どうやら夫との生活が上手くいっていないようだ。そして彼女の口から、不穏な言葉が漏れた……。

    という現代パートの合間に、彼らの小学5年生から高校3年生にかけての、過去の場面が挿入される。貧困家庭のヨッシーと、医者の息子のタケシ。ふたりは親友だが、微妙な関係でもある。そこに引っ越してきたマリアも加わり、3人で遊ぶようになった。さまざまな思春期のエピソードを経て、ヨッシーはマリアと恋人となり、医学部を目指す。だがそこに、家庭の事情が襲いかかるのだった。

    この過去のパートは、ノスタルジックである。1990年代後半の風俗やエンターテインメントが大量に取り上げられており、実に懐かしい。視聴者が光過敏性発作などの症状を引き起こした“ポケモンショック”事件などが、巧みにストーリーに組み込まれており、あの時代を知る人ならば、楽しく読むことができるだろう。また本書のタイトルは、小泉今日子の『あなたに会えてよかった』の捩りであり、この歌も効果的に使われている。

    一方、現代パートでは、しだいにマリアの置かれた不幸な境遇が見えてくる。それに従い、物語の不穏な空気が強まっていくのだ。はたしてマリアは、ヨシトの“運命の女”なのか。ドキドキしながら読んでいたら、まさかの展開が待ち構えていた。これにはビックリ仰天だ。そして本書が、どういう話であるか、深く理解したのである。ミステリーの仕掛けは上々、小説としての読み味も上々。この作品に会えてよかった。

    あなたに会えて困った
    著者:藤崎翔
    発売日:2020年05月
    発行所:双葉社
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784575242805

    「小説推理」(双葉社)2020年7月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載




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