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  • 『小説の神様 君としか描けない物語』原作者・相沢沙呼インタビュー:答えの出ない悩みと、考えていなかった“続編”の執筆

    2020年10月01日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    “ねえ。あなたはどうして、小説を書いているの”

    佐藤大樹さん(EXILE/FANTASTICS)・橋本環奈さんのダブル主演で映画化された『小説の神様』。〈小説家が小説家を描いた小説〉であるこの物語は、書き手と読み手にかかわらず、小説を愛する多くの人に衝撃を与えました。

    自身の苦悩をぶつけた作品が「映画」という新たな器に入り、さらに多くの人に届こうとしている今、作者の相沢沙呼さんにお話を伺いました。

    小説の神様
    著者:相沢沙呼
    発売日:2016年06月
    発行所:講談社
    価格:858円(税込)
    ISBNコード:9784062940344

    相沢沙呼(あいざわ・さこ)
    1983年生まれ、埼玉県出身。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2011年「原始人ランナウェイ」が第64回日本推理作家協会賞(短編部門)候補作、2018年『マツリカ・マトリョシカ』が第18回本格ミステリ大賞の候補作となる。
    2020年に発表した『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は『このミステリーがすごい!2020年版』(宝島社)、『2020本格ミステリ・ベスト10』(原書房)のダブル1位、「2019年ベストミステリー」(Apple Books)に選ばれ三冠を達成、また2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞の候補作に選ばれる。繊細な筆致で登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。

     

    「小説を書く時はアニメーションで想像する」 初の実写化をどう観た?

    ―― 初の映像化作品ですよね。撮影現場は見に行かれましたか?

    喫茶店でのシーンと下校途中のシーンの2度、お邪魔しました。喫茶店のシーンの時は、僕もお客さんの役で映ることになっていたので、それだけでもいっぱいいっぱいでした(苦笑)。佐藤大樹さんもいろいろ話しかけてくださったんですけど、僕はちゃんと答えられていたのだろうか……。

    ――「小説家そのものについてもいろいろ教えていただいた」とおっしゃっていましたよ(インタビューはこちら)。それではまず、映画化のオファーがあった時の心境をお聞かせください。

    (担当編集者の)河北くんとすごく喜んで、「やっとここまできたね」とお祝いムードだったんですが、その後でふと「どうやって映画にするんだろう……」と不安がよぎりました。『小説の神様』は、小説であることに意味がある、心理描写を重視したお話です。だから自分としては、映画向きではないなと思っていたんですよね。

    完成した映画を観て「なるほど、こういうふうに成立するのか」「僕が小説で書いた中核の部分を、こういうふうに汲み取って解釈してくれたのか」と思いました。題材は同じでも“小説”と“映画”は違うメディアなので、どうしてもまったく同じ内容にはなりませんからね。でも、ちょっとした安心感とともに、自分のものではないところへ行ってしまった寂しさもありました。

    それから、やっぱり「小説を書く」って、すごく孤独な作業なんですよ。一方で映画は、いろんな人たちが集まってチームになって、一つの作品を作り上げるでしょう。

    僕も「チームで何かを作ることに挑戦してみたいな」という気持ちが昔からあるんですが、それをできないでいます。なので、映画を作っている皆さんがキラキラと眩しく感じました。作中に出てくる“陽向への憧れ”に似ていますね。寂しさには、そういう気持ちも含まれているように思います。

    ―― 小説を書いている時、ビジュアルは想像されるほうですか?

    想像しますが、僕は実写ではなくてアニメーションで考えています。キャラクターの造形や表情も、風景もアニメーションですね。実際の声優さんに当てはめてはいないですけれど、キャラクターごとに“こういう感じの声”というのも音で入っています。

    僕自身がアニメを見て育ったのが大きいと思いますが、それを頭の中で見ながら書いている感じです。

    ―― なるほど。初めて実写映像になった『小説の神様』はいかがでしたか?

    モノクロの冒頭は印象的でしたね。「モノクロで始まる」とは聞いていましたが、あのシーンは映像としてとても美しくて、そこからの展開も鮮やかでした。あとは、千谷くん(佐藤大樹)と小余綾(橋本環奈)が初稿を上げて(編集者の)河埜さんに見せた時の、2人の表情。顔を見合わせて笑っているのがすごく自然で、目に残りました。

    一番好きなのは、打ち切りを告げられた千谷くんが、雨に打たれてずぶ濡れで家へ帰ってきたところですね。やるせなさ、情けなさ、いろんな感情が爆発していて、『小説の神様』を書いていた頃や、自分自身の辛かった時を思い出しました。

     

    小説家を志すきっかけの作品と、小説家としての苦悩

    ――『小説の神様』には「千谷くんには、自分がそれを読んで、小説家になろうって決意した物語って、ある?」というセリフが出てきます。相沢さんご自身の“きっかけになった物語”はありますか?

    僕の場合は、上遠野浩平さんの『ブギーポップは笑わない』です。

    初めて読んだのは中学生の頃で、まだ「ライトノベル」という言葉もあるかないかという時代でした。当時のライトノベルはファンタジーものが多かったなか、『ブギーポップ』では、日常の閉塞感とか、高校生たちが感じる将来への不安、友人たちに気持ちをうまく伝えられないもどかしさ……“現代の高校生”がすごくリアルに描かれていました。

    ファンタジーは、エンターテインメントとして楽しめても、自分とは違う遠い世界の出来事だと思ってしまう。大人たちの書いた一般文芸は、主人公が子どもでも“大人が書いた主人公”に感じられて共感できない。でも『ブギーポップ』を読んだ時は、“そこに自分がいる”と強く感じました。初めて「自分を肯定してもらった」という気持ちが湧き上がってきて、そのことにすごく感動して。最初は、単純な憧れとか軽い気持ちから小説を書き始めたんだと思います。「こういう気持ちの動きを自分も表現してみたい」「自分はここにいていいんだと感じてもらえるような話を作りたい」というのが、小説を書くようになった始まりでした。

    ブギーポップは笑わない 上 新装版
    著者:緒方剛志 上遠野浩平
    発売日:2018年12月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,430円(税込)
    ISBNコード:9784049122411

    ―― 主人公の千谷一也は、自分から生まれてくる物語と“皆が読みたいと思う物語”の間で苦悩して、自分自身をも見失っていますよね。「みんなが読みたいのは(つらい)現実から乖離した話だ」と自分に言い聞かせるようなシーンもありますが、『小説の神様』自体って、特に前半はかなり読者に負荷をかけるじゃないですか。でも私としては、『小説の神様』がこれだけ多くの読者の心を掴んだことで、その悩みは少しやわらいだのではないかと思っているのですが……。

    確かに、ここまで読者の方に受け入れてもらえたというのは自信になりました。でも、この話が暗いことは変わらないし、書き終わった今でも「もう少し重たくなかったら、もっと多くの人が読んでくれたかもしれない」と考えたりします。

    『小説の神様』については、「物語でまでつらい思いをする必要はないじゃないか」という気持ちがある一方で、「もっと重いままにしておきたかった」とも思うんです。前半は、当初はもっとすごかったんですよ。「読んだ人がつらくて読めなくなってしまうかもしれない」っていうくらい。本として出すにあたって削りに削って、これでもかなり軽くなりましたけど……。

    ――「ここまでえぐりとってぶつけたものを、減らしてしまってはリアルじゃない」と。

    そうですね、表現としては「ぬるくなった」と思います。100ページ分くらい削りましたから。

    やっぱり何がベストなのかは分からないです。単に自己表現するだけなら、読者のことは考えずに自分の書きたいものを書くのがベストでしょうけれど、それでは売れないだろうし、商売として成り立たなければ書き続けることもできなくなってしまう。しかも僕、こういう暗い話を書いた後で「エンタメに振り切ってみよう」と書いた本が、ありがたいことにものすごく多くの方に読んでもらえていて。そういう経験をしたばっかりなので、なおさら(苦笑)。

    ―― 千谷くん、小余綾さん、九ノ里くん(佐藤流司)、成瀬さん(杏花)と文芸部に4人いるなかで、九ノ里くんや成瀬さんにも相沢さんの一部は投影されていますか?

    むしろ、僕にない部分を担ってもらった感じですね。

    メインキャラクター2人は、僕の中の“小説を好きな心”と“嫌いな心”の分身です。一方、成瀬さんは「小説家になりたい」という気持ちを純粋に抱いている女の子で、九ノ里くんは純粋に「読者」として存在しています。この2人は、どちらも僕の中にはないんですよ。

    作家になると、純粋な読者としての目で作品を楽しむことはできなくなってしまう。何を読んでも「自分だったらこうするな」「ここ、すげえうまいな。やられた」とか、そういう視点ってどうしても入ってしまうんです。小説に限らず、漫画やアニメ、ドラマでもそうです。「小説家になりたい」という気持ちだって、今となっては「そもそも僕は、純粋な気持ちでそう思ったのだろうか……?」と疑ってしまうくらい、“今ここにあるもの”ではなくなっています。だから2人に関しては、かなり想像力をはたらかせました。

     

    『小説の神様』に“続編”は必要か?

    ――『小説の神様』では“続編”も重要なワードになっていますが、『小説の神様』自体にも続編がありますよね(『小説の神様 あなたを読む物語』)。

    僕自身は、「続編は必要ない」と思っていました。まず河北くんから提案があったんですが、何度も「一冊できちんと完結しているのに、それでも続編を書く意味ってなんだい」と返していました。

    ―― 河北さん、なんて答えたんですか?

    〈河北〉映画化も理由の一つでしたけれど、やっぱり『小説の神様』がこれだけ多くの方に評価されて、その中で「彼らのその後が知りたい」という声もたくさんいただいたんです。音楽でいう「アンサーソング」のように、待ってくれている読者の皆さんに、今度は「読者」をテーマにした物語を届けてはどうだろうと提案しました。もはや説得といったほうが正確かもしれませんが(笑)。

    ―― なるほど。それならば、ということで……?

    いえ、それでも「やっぱりわからないな」と思っていましたね。「恩返しをしようよ」という河北くんの意見には「なるほど」と思うんだけれど、それでも釈然としなくて。「続編を書く理由ってなんだろう」という疑問と、「蛇足にならないだろうか」という不安でずっとモヤモヤしていました。

    でも「このモヤモヤを解決しなければ書けない」と考えているうち、「そもそもこれが続編のテーマなんじゃないか?」「千谷くんと小余綾も、きっと同じことを考えるだろう」「彼らに、僕が直面しているこの疑問を解決してもらおう」と思い至ったんです。

    その間に届いたお手紙も、続編を書く後押しになりました。読者の方からはもちろんですが、「学校図書館の司書をしていて、図書室で生徒たちがよく相沢さんの本の話をしています」と書いてくださった方もいて。僕の物語にはそういう“読者”の立場が足りなかったなと、皆さんからのお手紙を読んではっとしたんです。それで「続編の意義」と「読者」という2つのテーマがうまくカチッとはまって、そこから構想を膨らませて、もしかしたらいけるかもしれないと書き始めました。

    ちょっと膨らみすぎて、「続編はいらない」と言っていたわりに上下巻になってしまいましたけど(笑)。

    小説の神様 あなたを読む物語 上
    著者:相沢沙呼
    発売日:2018年08月
    発行所:講談社
    価格:759円(税込)
    ISBNコード:9784065125540

    ―― これは読者としてですが、私は「小余綾詩凪をまだ読み切っていない」という気持ちがありました。

    そうですね。確かに1冊目で書ききれてない部分はわりとあります。僕にも“キャラクターを書きたい欲”はありますが、キャラを書きたいだけでは「シリーズとして続けていくための展開」になってしまうかもしれない。それはどうなんだろうという迷いも、なかなか続編に踏み切れなかった理由の一つです。

    今は「読者さんが喜んでくれるなら、あれこれ深く考えずに書くのもありかもしれないな」とも思うようになりました。

    ―― そんなふうに小説にまっすぐ向き合う姿に、読者から支持されている理由を垣間見たように思います。

    小説を書くのって、苦しいこと続きでもありますけれどね。手品が好きなので、マジックの勉強と練習でストレス発散したり、ボードゲームで遊んだりしながらやっています。前職がプログラマだったので、勉強がてらプログラムを組んで何か作ってみることも多いです。

    いったん物語から離れて手を動かすと、時を忘れて集中できて、気分転換になるんです。小説を書いているときも、同じくらいあっという間に時間が経ってくれたらいいんですけど……。

    ―― 苦しみながらもやっぱり書き続けていらっしゃるのは、「業」というほかないのかもしれませんね……。これからも、相沢さんの物語を読めることを楽しみにしています!

    シリーズ最新刊は、8人の作家が“小説への愛”を綴ったアンソロジー『小説の神様 わたしたちの物語』。相沢さんによる「神様の探索」も収録されています。

    小説の神様わたしたちの物語
    著者:相沢沙呼 降田天 櫻いいよ 芹沢政信 手名町紗帆
    発売日:2020年04月
    発行所:講談社
    価格:880円(税込)
    ISBNコード:9784065192641

     

    映画『小説の神様 君としか描けない物語』作品情報

    ストーリー
    「僕は小説の主人公になり得ない人間だ」
    中学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……自分を見失い思い悩むナイーブな売れない高校生小説家・千谷一也。一方、同じクラスの人気者でドSな性格でヒット作を連発する高校生小説家・小余綾詩凪。性格、クラスでの立ち位置、売れている、売れていない……すべてが真逆の男女2人に、編集者から下されたミッション――それは、2人で協力し、1つの物語を作り、世の中の人の心を大きく動かす大ベストセラーを生み出すことだった!
    凸凹な全く真逆の2人が反発しあいながらも物語を一緒に作っていくうちに、やがて彼は彼女の抱える大きな秘密を知ってしまう……。
    友情を超えて近づく2人の距離。悩み傷つきながらも、好きなことをあきらめずに挑戦し続けた先で、2人が生み出す〈物語〉の行方は――?

    佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS) 橋本環奈 佐藤流司 杏花 莉子 坂口涼太郎
    山本未來 片岡愛之助 和久井映見

    原作:相沢沙呼『小説の神様』(講談社タイガ刊)
    主題歌:「Call Me Sick」伶(Sony Music Labels Inc.)

    監督:久保茂昭
    脚本:鎌田哲生
    配給:HIGH BROW CINEMA

    10月2日(金)公開

    shokami-movie

    ©2020 映画「小説の神様」製作委員会




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