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  • 映画「ミッドサマー」にハマった人におすすめの小説3選

    2020年03月19日
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    2月21日(金)より公開中のアリ・アスター監督作「ミッドサマー」(R15+)が、いま話題を呼んでいます。

    「ミッドサマー」は、スウェーデン奥地の“ホルガ村”を訪れた大学生の男女が、その村で90年に一度行なわれる「夏至祭」に参加するうち悪夢のような出来事に見舞われていくさまを、色彩豊かな映像とともに描いた作品。

    「花々に囲まれた美しいビジュアル」と「不穏極まりないムード」の大きなギャップで注目を集め、3月13日(金)には未公開シーンを加えたディレクターズ・カット版(R18+)が公開。鑑賞者のレビューに考察・解説も加わり、話題性がますます増しています。

    今回は、そんな「ミッドサマー」を観てすっかりハマってしまった人たちにおすすめしたい「どこかミッドサマー的な怖い小説」を3つ、ご紹介します。

    ※「ミッドサマー」のネタバレが一部含まれていますので、未鑑賞の方はご注意を!

     

    1.石原慎太郎『秘祭』

    秘祭
    著者:石原慎太郎
    発売日:1988年07月
    発行所:新潮社
    価格:440円(税込)
    ISBNコード:9784101119083

    人口わずか17人という、沖縄県の八重山諸島のとある小島が舞台。観光会社に勤める主人公の青年・高峯敏夫は、そのわずかな島民と地権交渉し、リゾート開発を推進するため、その小島に赴任します。

    交渉は以前から続けられていたようですが、どうやら高峯の前任者は水難事故に遭い、遺体が見つからないまま死亡扱いとなっているようす。高峯は島民と交流を深めることに成功し、彼らからの信頼を得ていくのですが、そう思われたのは初めのうち。やがて「小屋で鎖に繋がれた知的障害者らしき男」や「器量よしで親切だが、妙に性に奔放な女」といった存在が、物語を怪しげな影で覆っていきます。

    そんななか、村では“年に一度の祭り”の時期がやってきます。よそ者は決して関わってはならないとされる、その祭り。今は島外で暮らす出身者たちも、続々と島へ帰ってきて……。

    【人里離れた土地】と、【古くから続く祭り】という共通点。しかしホルガ村の人々が信仰を心から是として幸福に暮らしているのに対し、『秘祭』の島民たちは、島の因習を半ば諦めるように受け入れているようです。

    その鬱屈とした感情によって物語は暗い雰囲気で、祭りの描写も、ある意味で「ミッドサマー」より恐ろしいものとなっています。

     

    2.クライヴ・バーカー「丘に、町が」(『ミッドナイト・ミートトレイン』所収)

    ミッドナイト・ミートトレイン
    著者:クライヴ・バーカー 宮脇孝雄
    発売日:1987年01月
    発行所:集英社
    価格:597円(税込)
    ISBNコード:9784087601251

    かのスティーヴン・キングが激賞したとされる、ホラー小説好きの間では有名なクライヴ・バーカーによる短編です。

    ゲイカップルの2人が車でユーゴスラビアを旅していると、遠くから〈ズズーン〉という大地が震動するような音と、続いて耳を聾するほどの人間の悲鳴が聞こえてきます。そして困惑する2人に、やがて大量の血の奔流と、死体の異臭が押し寄せて……。

    何が起きていたのかというと、彼らの近くで2つの町が「巨人を戦わせる儀式」を行なっており、その勝敗がついたところなのでした。悲惨なのは、巨人が【町の住民を総動員し、互いの体を繋ぎ合わせて作ったもの】だということ。儀式のなかで片方の巨人が崩壊し、それを形づくっていた何万もの住民が、同時に命を落としていたのです。

    あまりに凄惨な現場に遭遇してしまった2人。力強い文体と、もはや芸術的ともいえる描写をもって、その恐怖が読者にもありありと迫ります。

    (中略)弱い脇腹にはめこまれていた一人が、押しつぶされて死んだのである。それをきっかけにして、腐敗の連鎖反応が始まった。一人が死ぬと、今度は隣りあった者が死に、そのまた隣の者が死んで、癌のように混乱が町の全体に広がった。(中略)切り裂かれた動脈が血しぶきを上げるように、穴のあいた横腹から、住民たちが次々に振り落とされていった。

    (本文より引用)

     

    3.滝川さり『お孵り』

    お孵り
    著者:滝川さり
    発売日:2019年10月
    発行所:KADOKAWA
    価格:704円(税込)
    ISBNコード:9784041088265

    「ミッドサマー」のホルガ村には、「72歳を迎えた者は自ら命を絶ち、次に生まれてくる子どもがその名を継ぐ」という習わしがありましたね。これは東洋思想の輪廻転生に通ずるところがありますが、『お孵り』の舞台となる冨茄子(ふなし)村では、なんと生まれ変わりが実際に起きています。

    具体的に説明すると、冨茄子村では「死んだ村人の魂が、人格も記憶もそのまま、次に生まれる子どもの肉体に宿る」という現象が一定の確率で起こります。そして村人たちは、この現象を司るとされる「太歳様」を神と崇め、異様な儀式を行ないます。村長をはじめ、村運営を担う寄合の構成員は、その多くが生まれ変わりの経験者です。

    本作の主人公は、そんな冨茄子村出身の女と結婚した男。夫婦はめでたく子どもを授かるのですが、里帰り出産のため村へ戻ったところ、子どもに「太歳様」が宿っているとされ、母子ともども監禁されてしまいます。主人公は家族を取り戻すため、村人たちと対決するのですが……。

    「姿かたちは子どもなのに、中身は老人」というアンバランスさがかきたてる恐怖、生まれ変わりのシステムが作り出した村社会の歪み、犠牲者たちの存在。読者を待ち受けるやるせない悲しみ。

    タイトルは『お孵り』と書いて「おかえり」と読みます。「おかえり」という言葉が本来ならもっている温かさが、かえって背筋を凍らせます。


    いずれも「ミッドサマー」に勝るとも劣らない個性的な作品ばかり! あの衝撃が恋しくなったら、ぜひ小説にも手を伸ばしてみてくださいね。




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