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世間に絵本好きな方々は数多くいますが、実態としてその多くは女性で、男性で絵本好きを公言する人は少数派であり、またその傾向として、オタクやマニアに近い人が多いように思います。私もそのうちの1人で、やはり趣味は「絶版絵本蒐集」というマニアックなものです。同じ趣味の人にオフラインで会ったのはこれまでに2回しかなく、いつか仲間をつくって「絶版絵本ネタ限定の飲み会」を開催したいと思っています。
その点、同じ(?)オタクやマニアのフィールドでも「鉄道ファン」は人数も多くて市場も大きく、世間的にも完全に認知されていて、有名な「乗り鉄」や「撮り鉄」という言葉だけでなく、最近は「ママ鉄」「子鉄」なんかもメジャーになってきました。鉄道ファンはすごいです。
唐突ですが、映画には「ロードムービー」というジャンルがあります。これは出発点から目的地へたどり着くまでに起こった数々のドラマを描いたものです。これに該当するものは絵本にもたくさんあり、私はそれを「ロードムービー絵本」と呼んでいます。そのロードムービー絵本の傑作が、林明子先生が27年前に描かれた『こんとあき』(福音館書店/1989年)という作品です。
林明子先生の作品群の中でも『こんとあき』をベスト1に選ぶ人は多く、発売以来ずっと人気の高い作品です。
▼本作の導入部分はこのようなものです。
女の子の「あき」と、あきが生まれる前からあきの隣にずっと居るきつねのぬいぐるみの「こん」。ある日、こんの腕がほどけてしまったので、あきはこんと2人で、こんを作ってくれたおばあちゃんが住む「さきゅうまち」へ向かうことにしました。
これから始まる冒険への期待感が膨らみます。私もこの絵本の大ファンなのですが、しかし読むたびにある疑問を抱くのでした。それは、「こんとあきはどこからどこへ向かったのか?」というものです。
▼まず分かりやすい部分から。目的地はどこだったのか?(本文p.23より引用)
こんがひどい目にあう砂丘です。
この規模の砂丘は国内有数で、32ページ目には砂丘の向こうの水平線に太陽が落ちる夕暮れのシーンが描かれています。このことから、ここは太平洋側ではなく日本海側であることが分かります。規模だけでいえば猿ヶ森砂丘(青森県)や中田島砂丘(静岡県)の可能性もありますが、日本海側であることからゴール地点が鳥取砂丘であることはほぼ間違いなしです。また鳥取駅から砂丘までは徒歩で2時間程度かかるので、(描かれてはいませんが)こんとあきはバスに乗ってここまで来たと推測されます。
▼次は、出発点がどこかです。表紙を見てみましょう。
画面右上から太陽光が当たっていますが、これだけでは西行きなのか東行きなのかは分かりません。でもそれ以前に、背景に巨大ビル群が描かれており、向こうのホームにオレンジ色の車両が停まっているのが確認できます。たぶんアレ、中央線です。ということは、ここはおそらく東京駅だと思われます。
しかし、さすがに東京~鳥取間を未就学児童ひとりで行かせるのは親としてはとても心配です……。というわけで、林先生は設定とは別に、東京駅をモデルに表紙を描かれたのではないかと思われます。
▼となると、こんとあきが載った電車はどのようなものだったのか?(本文p.13より引用)
「特急」とハッキリ書かれています。そして、9ページ目でこんが「そこがぼくたちのせきだ」と言っていることから、彼らは指定席に座ったことが伺えます。これらから、スタート地点は特急が停まるある程度の規模の街の駅であることがわかります。
▼ちなみに、鉄道ファンの友人に以下の画像を見せてみました。(本文p.20より引用)
「ああ、781系だねコレ」とのことです(一目で分かるのですね……)。
ここで、絵本評論の名著『絵本をよみつづけてみる』(五味太郎・小野明/平凡社ライブラリー/2000年)で五味先生が下記のように語っていたことを振り返ってみます。
林明子の絵って、ともかくうまいね。うますぎると言ってもいいくらい。(中略)でね、彼女は面白いことに、どんな題材だろうと好き嫌いを判断しないで写し取っちゃう、という感じがあるの。彼女は見た通りに描ける。
つまり、絵本の中にヒントがたくさん転がっているのです。いくつかのヒントをまとめます。
・ゴールは鳥取駅でほぼ間違いなし。
・特急が停まる始発駅、または途中駅から乗車。
・途中駅で下車。特急の終点は鳥取よりも先の駅。
・車両は781系。
・途中、駅弁を買うシーンがある。駅弁にはプリンが入っている。
・途中、進行方向の左手に海に浮かぶ島々を眺めるシーンがある。
鉄道ファンではない私ではここまでが限界です。お手すきの時でかまいませんので、これらの情報から出発駅を推理してもらえないでしょうか、鉄道ファンの皆さま。
左開きの絵本なので、おそらく西から東(=左から右)へ向かったのではないかと思うのですが……。
※読者が選んだ年齢別絵本ブックガイド「いくつのえほん」からの一冊です。