'); }else{ document.write(''); } //-->
累計250万部突破、待望のTVアニメも4月より放送が始まる異能バトルアクションコミック『文豪ストレイドッグス』。その原作者・朝霧カフカさんに〈書店との出合い〉の御題でエッセイをお寄せいただきました。とある書店研究レポートとでも申しましょうか……とにかくまずは最後までお読みください。
朝霧カフカ
あさぎり・かふか。シナリオライター。『文豪ストレイドッグス』『汐ノ宮綾音は間違えない。』『水瀬陽夢と本当はこわいクトゥルフ神話』(いずれも角川コミックス・エース)のコミックス原作を手がける。国内外の文豪たちが擬人化(キャラクター化)され、〈異能〉を用いて闘うバトルアクションコミック『文豪ストレイドッグス』はTVアニメ化も決定した人気作品。自ら手掛けたスピンオフ小説として『文豪ストレイドッグス 太宰治の入社試験』『文豪ストレイドッグス 太宰治と黒の時代』『文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話』(いずれも角川ビーンズ文庫)がある。
どうも皆さんこんばんは。在野の書店研究家・朝霧カフカです。
ご存じの通り書店、本屋さんという場所は今もなお不思議な、興味深い謎を残す人類のフロンティアです。そのおおいなる謎は、人類につねに興味と探求の対象となっております。
たとえば、新品の本には独特の匂いがあります。いい匂いかというとそういう訳でもないのだけれど何となくもう一回嗅いでしまう、例のあの匂いです。
一説にはインクと印刷過程の薬品、および長期輸送の場合の保管薬品によって発生する匂いと言われていますが、実はあの匂いが大好きな人間というのがこの世には相当数存在します。
嗅覚とは本来食品の安全・危険を判別するために発達した感覚ですから、食とまったく関係ないあの本の匂いにこれほど引きつけられるのは、大変奇妙な謎であると言うことができます。
たとえば友人A氏などは「たまらん、この匂い定期的に嗅ぎたくなる。この匂いだけが消えずに残り続ける本がほしい」などと言い、本に頭を突っ込んでスーハースーハーしています。その様子を目撃して以来、その友人とはちょっと距離を置くことになった経緯などがありますが、A氏によると本の匂いによって印刷所や書店、本のジャンルなどほぼ正確に判別できるそうです。すごいを通り越して引きます。
推測ですが、本の匂いがこれほどまでに人の心を引きつけるのは、脳の構造に大きな理由があるのではないかと思われます。嗅覚というのはもともと視覚や聴覚などという他の五感と比べて大脳辺縁系(記憶や情動をつかさどる脳の部位)に近い部位で処理される刺激です。脳というのは、近い領域が刺激を受けるとついでに隣接部位も惹起されやすいという性質があります(たとえば人類に脚フェチが多いのは脚と性器が脳地図で隣接しているためです)。つまり匂いは記憶の隣にある脳部位であるため、容易に過去の記憶に結びつき、楽しかったあの本やハラハラした記憶を呼び起し、本好きの人たちが本の匂い好きになるのでしょう。
このような現象をプルースト効果と呼びます(プルーストの『失われた時を求めて』で、マドレーヌの香りで幼少期を思い出すシーンがあることから命名されました)。
二番目の謎は、書店最大の謎。すなわち本屋に入るとなぜか便意をもよおす現象、青木まりこ現象です。私もこれに頻繁に困らされております。なぜあのような現象が起こるのかは、人類未到の謎とされています。なぜなんでしょう。なぜ人は本屋に入るとうんこがしたくなるのでしょう。謎です。うんこ関係の現象に名前を使われた青木まりこさん(雑誌に投書しただけの一般の方だそうです)も、大変なとばっちりです。プルーストとの差が大きすぎます。
仮説としては、たとえば七面鳥は他種の鳥が自分のテリトリーに侵入すると、なぜかその場で寝てしまうことが知られています。そんなことしてる場合じゃねえだろ、と思わずにはいられないのですが、さまざまな本能が連鎖的に反応した結果、行動がアサッテの方向まで飛んでいった結果の反応なのです。同様に、人間においても書店と便意のあいだに複雑な反応が起こっているのかもしれません。うんこの謎は実に深淵です。
このようにして、書店研究家である私は書店の謎を解明すべく日夜研究を行っております。本当です。おそらく明日頃には読者諸兄は私を「うんこと言いたいだけの人」としか記憶していないでしょうが、それでも私は研究を続けるのです。
こちらからは以上です。
著者の新刊
殺人探偵の異名をとる綾辻行人は、その危険な異能のために異能特務課の新人エージェント・辻村深月の監視を受けていた。綾辻はある殺人事件の解決を依頼されるが、その裏では宿敵・京極夏彦が糸を引いていて……!?
(「日販通信」2016年3月号「書店との出合い」より転載)