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  • 川越宗一『熱源』インタビュー:夫婦旅行で訪れた北海道「なぜポーランド人の像が?」から着想

    2020年02月06日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    デビュー2作目にして、第10回山田風太郎賞候補、第9回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞、そして第162回直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』。

    受賞から約半月が経った今、川越さんに、ご自身のこと、『熱源』を執筆していたときのこと、今興味があることなどを教えていただきました。

    【あらすじ】主人公は、樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や友人を亡くした彼は、やがて「山辺安之助」と名を変え、ふたたび樺太へ戻ることを志す。一方、リトアニアに生まれたブロニスワフ・ピウスツキは、ロシアの強烈な同化政策により母語を奪われ、皇帝暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
    日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
    文明を押し付けられ、アイデンティティを揺るがされた2人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

     

    ―― このたびは直木賞受賞おめでとうございます。読者や書店員さんからも、受賞決定時に「本命だった」「選ばれてうれしい」と喜ぶ声を多く見ました。現在どのように過ごしていらっしゃるか、近況をお聞かせください。

    ただただありがたく、うれしいです。受賞にまつわるエッセイのご依頼をたくさんいただいたので、現在はひたすらそちらを書いています。また書店さん回りや受賞以前に決まっていた取材旅行も重なり、楽しくもなんだか忙しい気分です。勤めている会社ではいろんな人に祝ってもらえて、うれしかったです。

    ―― 小説を書くことについて、以前「新しい趣味をなにかやろうという、ジョギングを始めるようなふんわりした気持ちで始めた」と答えていらっしゃいました。これまでを振り返って(小説に限らず)書くことや、物語をつくること、読むことなどに対して、どのように接してきましたか?

    これまでの人生で、とくだん「物語を作ろう」と意識したことはなかったのですが、身にならないながらも長々とバンドを続けたり、小学校の文化祭で劇の脚本を書いたりしていたので、自分の創作物を人に見せて喜んでもらうことは好きだったように思います。小説執筆は自分の想像力とのせめぎあいでもありますが、ままならない現実と違って自分の好き勝手な世界を作れるので、小説という表現手法に出会えてよかったと心から感じています。

    原体験というにはおぼろげですが、吉川英治『三国志』、『銀河英雄伝説』、『機動警察パトレイバー』、『炎立つ』(小説もドラマも)、爆風スランプなどは、なにがどこに、という区別がつかないほど雑多かつ強く、ぼくの作品に影響していると思います。また『王立宇宙軍 オネアミスの翼』というアニメ映画があるのですが、まったくの空想でエキゾチックな異世界を作り出していてとても面白く、ぼくがこれまで書いた小説に共通する「異なる文化のあわい」というテーマ設定に直接影響しています。あと焼肉が好きです。

    ―― 今作『熱源』には、アイヌ、ポーランド人、日本人、ニヴフ(作中ではギリヤーク)などさまざまな“人間”が登場し、実在の人物も多いです。彼らを「樺太の地を軸にして繋ぐ」という構想に至った経緯について、お聞かせください。

    夫婦旅行で北海道に行ったおりに、アイヌ民族博物館に立ち寄りました。そこにブロニスワフ・ピウスツキの胸像があり、「なぜ遠くのポーランド人の像が北海道に?」と興味を持ったのが、着想のきっかけです。彼を調べるうちに、南極探検隊に参加したヤヨマネクフ(山辺安之助)とサハリンで出会っていたことを知り、その二人の壮大な人生が交錯する物語を書きたいと思うようになりました。

    「樺太」「アイヌ」が題材になったのは、すべてこの着想からの結果論で、わたしは選んでいません。つまり書きたかった人物が、たまたま樺太に住むアイヌであったということです。

    ―― 壮大なスケールと根源的で力強いメッセージに、一読者として心が揺さぶられました。うまく言えないのですが、「自分たちが今ここにいる」ということを命がけで証明しようとする“熱”が伝わって、自分の胸にも自分なりの“熱源”が確かに宿っているように感じました。

    いろいろ便利になった現代でも、生きづらさに直面することは往々にしてあると感じています。『熱源』を書いているときは、現代よりずっと困難な時代の人々は生きるモチベーションをどうやって保ち、また得ていたのかを考えていました。

    ―― 執筆時についてくわしく伺いたいのですが、どんなことが印象に残っていますか?

    資料探しと読み込みが大変でした。あと、タイトルが初校作業後くらいまで決まらなかったので書きぶりが定まっていない個所が多く、印刷所に出すギリギリまで改稿していました。

    楽しかったのは、執筆そのものです。それも9割9分9厘くらいはただただ辛いのですが、書く前には考えられなかった文章やセリフがズルリと出てくる時があり、これがとても楽しいのです。

    また執筆中、雪の雰囲気を知りたくて冬の北海道へ行ったのですが、強い寒波が来ていて、電車は止まるし見たかったところは雪に埋もれているしで、たっぷり雪の感触を知ることができました。

    ―― デビューされてからまだ2年足らず。これからどんな作品を書いていきたいか、いま興味をお持ちのことなどを教えてください。

    もともとの「自分が読みたいものを書く」というモチベーションを忘れず、これからも小説を書いていきたいです。また、読んでくださったかたに、この世は生きるに足る(ぼくの言葉ではないですが)と感じてもらえるようなものになれば、うれしいです。ほかに興味があることは、いまはないです。

    ―― ありがとうございました!

     

    著者プロフィール

    川越宗一(かわごえ・そういち)
    1978年生まれ。大阪府大阪市出身。2018年「天地に燦たり」で第25回松本清張賞を受賞しデビュー。

    熱源
    著者:川越宗一
    発売日:2019年08月
    発行所:文藝春秋
    価格:2,035円(税込)
    ISBNコード:9784163910413

    文藝春秋『熱源』特設サイトにて試し読み公開中!




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