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  • 脈・呼吸なし、意識あり!“生”同一性障害の少女×女子高生探偵が未知の事件に迫る

    2019年12月28日
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    花森リド:講談社コミックプラス
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    四ノ宮小唄はまだ死ねないーBORDER OF THE DEADー 1
    著者:大槻涼樹 りいちゅ モンスターラウンジ
    発売日:2019年11月
    発行所:講談社
    価格:693円(税込)
    ISBNコード:9784065175811

     

    「まだ死ねない」の「まだ」って?

    あちこち「よくできてるわ」と思いながら読んだ。『四ノ宮小唄はまだ死ねない』は、言葉どおり「死んでない“四ノ宮小唄”ちゃん」が大活躍するポップな探偵モノなのだけど、それってどういう状況なのかというと、大変複雑で、少し物悲しくて、でも楽しい。そして国語のテストで使えそうな題名だ。

    「まだ死ねない」とは四ノ宮小唄にとってどういう意味なのか?

    「このまま死んでたまるかい!」という執念により四ノ宮小唄はダイハードと化している? それとも? 1巻を読めば答えはすぐわかる……と思ったし、答えはほぼ出ているのだけど、それでも胸のどこかが曖昧だ。読み終わったあとも私はまだゆらゆらと考えている。

     

    脈なし・呼吸なし・意識あり!

    主人公の“四ノ宮小唄”は探偵助手をしている女の子。好きなゲームは「スカイキッド」。クラシカル。

    彼女のボスがこちら。

    “有坂エル”。鼻炎持ちの犯罪コンサルタントでちょっぴり社会性低め。好きなゲームは「アサシン クリード」という攻め攻めなセンス。

    仕事めっちゃできる系の探偵とほんわか系の助手という安心感のある組み合わせだけど、この美少女コンビが取り扱う案件は非常にめんどくさい。まず、彼女たちが担当したとある殺人事件での1コマ。

    被害者の“遺体”が喋ってる。つまり死んでないんじゃないの?

    法的には死んでいるらしい。本作の世界には『“生”同一性障害(通称:ボーダー)』と呼ばれる病気があり、これが「主観では自分は生きているが、医学的には死んでいる」という厄介な状態を引き起こしているらしいのだ。患者数は世界で7.6%。まあまあ多い。この疾患を持つ人が殺された場合、殺人事件もこんな感じに。

    「死人に口なし」とか絶対言えない。犯人よ震えて眠れ! と、話は単純には進まない。そもそも、ボーダーの人々は「ゾンビ」ではなく「私は生きている」と自覚していて、お悔やみ申し上げられても自分では死んでないのだから、喋るし考えるしお腹も空くしウロウロする。怪我をすれば痛いし。「自分は何を損なってしまったのか? そもそも何かを失ったのか?」がすごく曖昧なのだ。本作はそんなモヤモヤを優しくポップに描いている。

    社会の受け入れ態勢も曖昧かつ世知辛い。

    被害者本人が自分を殺した犯人と対面してしまうことも。「怒りが沸き起こる」って実はとても難しい行為なんじゃないかと本作を読んで思った。

    薬物ね、あるよね、こんなことになっちゃったら。ということで、こんな厄介な事件を「ボーダー専門の探偵」としてエル様と四ノ宮小唄たちは日夜追いかけているのだ。ここで四ノ宮小唄の助手としての意味がわかってくる。

    実は、四ノ宮小唄も“生”同一性障害を抱えている。だから彼女はボーダーたちに理解や共感を強く示すことができる。普段は「たはは」と笑って元気よく死んでいるけれど、彼女は「何をやっても死ねない自分の死」をハッキリさせたいのだ。

    夜の新宿にポツンと立っている場面。このページがとても綺麗で忘れられない。「わたしたちが死ぬ方法を探している」と繰り返しつぶやく彼女は、だからボーダーの事件を追い続けている。「死んでほしくないよ」とうっかり言いそうになるけれど、この四ノ宮小唄の姿を見て言葉を飲み込んでしまった。そういう綺麗で不思議な瞬間が沢山ある。ぜひ読んで探してほしい。ポップな美少女探偵モノを楽しみつつ、この透明な読後感に胸がざわつく。ああ、「まだ死ねない」ってなんて曖昧なんだろう。

    試し読みはこちら

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2019年12月15日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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