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11月29日(金)、2019年の年間ベストセラー(日販調べ)が発表されました。
単行本フィクション部門 トップ10の顔ぶれはこちら。これを見て「おや、アレは入っていないのか……」と思った方はいらっしゃいますか?
・第1位『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ/文藝春秋)
・第2位『すぐ死ぬんだから』(内館牧子/講談社)
・第3位『ノーサイド・ゲーム』(池井戸潤 /ダイヤモンド社)
・第4位『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
・第5位『M 愛すべき人がいて』(小松成美/幻冬舎)
・第6位『宝島』(真藤順丈/講談社)
・第7位『希望の糸』(東野圭吾/講談社)
・第8位『転生したらスライムだった件(14)』(伏瀬/マイクロマガジン社)
・第9位『転生したらスライムだった件(15)』(伏瀬/マイクロマガジン社)
・第10位『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ/斎藤真理子 訳/筑摩書房)
そう、今年7月に発売された中国発のSF小説『三体』です。
同作は、10月下旬時点で累計13万部。第10位の『82年生まれ、キム・ジヨン』が11月下旬に累計15万部突破と発表されているので、「惜しくもトップ10入りを逃した」と言っていいでしょう。
そんな『三体』は、全3部作。すでに第1部を読み終えた方は、早く続きを読みたくてうずうずしていることと思いますが、第2部は「2020年発売予定」ということしか分かっていません。
そこで今回は、続刊を待つ間におすすめの7作を、3つの切り口から紹介します。
※なお、記事には『三体』のネタバレが含まれています。未読の方はご注意ください!
・【1】訳者・大森望さんによるあとがきから
・【2】中国SFという視点で
・【3】おすすめの「ファーストコンタクトもの」
『三体』の巻末には、訳者の大森望さんによるあとがきが収録されています。あとがきで大森さんは、本作を次のように表現しています。
カール・セーガンの『コンタクト』とアーサー・C・クラーク『幼年期の終り』と小松左京『果しなき流れの果に』をいっしょにしたような、超弩級の本格SFである。
『三体』を因数分解した結果がこの3作ということは、逆に言えば、この3作を読めば『三体』の全体像をより明確に掴めるということかもしれません。どれも有名な小説ですが、あらためてどのような作品なのか、それぞれ簡単に解説します。
カール・セーガンの『コンタクト』は、タイトルが示す通り“ファーストコンタクトもの”です。ファーストコンタクトとは「人類が異星文明と初めて接触すること」を指し、SF作品において繰り返し扱われてきたテーマ。『三体』も人類と三体星人の遭遇がキーとなっているため、これに該当します。
『コンタクト』は、研究者である主人公が、26光年離れたヴェガ系惑星からの有意の電波信号をキャッチし、異星文明の意図を解明するために信号の解析を進めていくという内容。一見オーソドックスなストーリーですが、それだけでなく、ファーストコンタクトという事態に直面した人類の反応を、リアルかつ緻密に描いている点が特徴です。
科学・宗教・政治・経済といった幅広い観点での考察は、やがて「我々は何者か」という永遠の問いにまでたどり着きます。
宇宙進出を目前にした地球人類。だがある日、全世界の大都市上空に未知の大宇宙船団が降下してきた。〈上主〉と呼ばれる彼らは遠い星系から訪れた超知性体であり、人類とは比較にならない科学技術を備えた全能者だった。彼らは国連事務総長のみを交渉相手として人類を全面的に管理し、ついに地球に理想社会がもたらされたが。人類進化の一大ヴィジョンを描く、SF史上不朽の傑作!
(東京創元社公式サイトより)
『コンタクト』同様ファーストコンタクトものではありますが、『幼年期の終わり』は内容も読後感もまったく異なります。
『コンタクト』では、異星の知的生命体が姿を見せないまま一方的に地球にメッセージを送ってくるのですが、『幼年期の終り』では知的生命体が冒頭から地球に現れ、〈上主〉と呼ばれるようになり、積極的に地球文明の改革を進めて、人類にとっても住みよい世界を創り上げていきます。
『三体』の三体星人は人類抹殺を目論んでいましたが、〈上主〉はどんな目的で、人類に親切を施してくれているのでしょうか? 初めて読んだ方は誰もがきっと、想像を超えた結末に驚愕してしまうでしょう。
N大学理論物理研究所助手の野々村は、ある日、研究所の大泉教授とその友人・番匠谷教授から一つの砂時計を見せられる。それは永遠に砂の落ち続ける砂時計だった! 白堊紀の地層から出土されたというその砂時計の謎を解明すべく発掘現場へと向かう一行だったが、彼らは知る由もなかった ──その背後で十億年もの時空を超えた壮大な戦いが展開されていようとは。「宇宙」とは、「時の流れ」とは何かを問うSFの傑作。
(角川春樹事務所公式サイトより)
「S-Fマガジン」(早川書房)が2014年に、700号を記念して発表した「オールタイム・ベストSF」。『果しなき流れの果に』はその国内長編部門で第2位となるなど、多くのSF読者から愛されている作品です。
「過剰なほどに情報が詰め込まれている」という意味でも、「時空を軽々と跳躍する異常なまでのスケールの大きさ」という意味でもとにかく密度が高く、読者にすさまじいエネルギーを要求する小説の筆頭。そのぶん、見返りとして与えられる面白さも破格です。
『三体』のヒットによって、中国でSF小説が勢いづいている現状が知られ、「中国SF」がひとつのジャンルとして耳目を集めました。リニューアル以降売上好調な文芸誌「文藝」(河出書房新社)においても、2020年春季号で「中国・SF・革命」特集が組まれます。
【2】では、そんな中国SFの現在地を知るのにうってつけな作品を2つご紹介します。
本作は、自身もSF作家であるケン・リュウさんが編んだ“中国SFアンソロジー”。
中国のSF作家7人による13作品が収録されており、粒ぞろいであるうえに多彩。ひと口に中国SFといっても、それぞれまったくタイプの異なる面白さを備えています。
電子ゴミまみれの中国南東部の島、シリコン島。ゴミから資源を探し出す“ゴミ人”の米米の運命は、環境調査のため島に上陸したブランドルと開宗、そして島を仕切る御三家を巻きこんで大きく狂っていく。『三体』劉慈欣激賞、中国SFの超新星が放つデビュー作!
(ハヤカワ・オンラインより)
2作目として紹介するのは、2020年1月発売予定の『荒潮』。『三体』の著者が激賞したという、折り紙付きの新たな中国SF小説です。
著者・陳楸帆さんの作品は『折りたたみ北京』にも3編収録されていますので、ぜひ2冊とも読んでみてください。
【1】ですでにファーストコンタクトものを取り上げていますが、このジャンルはかなり豊作。『三体』を楽しく読んだ方は、きっとファーストコンタクトという題材自体にもワクワクしたはずです。
ということで【3】では、さらに2作品を推薦します。
突如羽田空港に出現した巨大立方体「カド」。人類はそこから現れた謎の存在に接触を試みるが――アニメ『正解するカド』の脚本を手掛けた野﨑まどと、評論家・大森望が精選したファーストコンタクトSFアンソロジーをお届けする。筒井康隆が描く異星人との交渉役にされた男の物語、ディックのデビュー短篇、小川一水、野尻抱介が本領を発揮した宇宙SF、円城塔、飛浩隆が料理と意識を組み合わせた傑作など全10篇を収録。
(ハヤカワ・オンラインより)
ファーストコンタクト要素を含む、古今東西の短編を収めた本作。傑作選とうたっているだけあって、どの短編も、各作家の短編集を作った場合に表題の座を狙えるクオリティです。
1編1編は気軽に読めるボリュームのため、今回の紹介している本の中でおそらく最も取っつきやすい、SF初心者にもおすすめの一冊です。
こちらはミステリー色の強い異色作。地球にやってきた異星人「トソク族」と人類は、初めは友好的な関係を築くことに成功するも、ある日、トソク族の滞在施設で地球人が惨殺される事件が発生。トソク族が容疑者として逮捕され、前例のない裁判が始まる……というのが本作のあらすじです。
なぜこの作品を取り上げたかというと、トソク族の出身はアルファ・ケンタウリ星系。そう、三体星人の故郷と同じなのです。そのことが何を意味するのかは、物語の核心に迫るネタバレとなってしまうので述べられませんが、思いもよらない真実が読者を待っています。
今回紹介した7作をすべて読み終える頃には、もしかすると『三体』第2部の続報が出ているかもしれません。
SFの世界にどっぷり浸かりながら、気長にその日を待つのがよさそうです。