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  • 本と飲食のミックスで新たな“場づくり”に取り組む good mornings水代優インタビュー

    2019年12月13日
    本屋を歩く
    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    2017年にオープンしたブックカフェ「Hama House」など全国各地で新たな場づくりに取り組むgood mornings 代表取締役の水代優さん。

    場づくりをプロデュースするプロに、地域コミュニティにおける本の役割や人が集まる場づくりに必要なエッセンスなど手がけた事例を元にお話を聞きました。

    水代 優 Yu Mizushiro
    2002年より株式会社IDEEにて新規出店を手掛ける。2012年にgood mornings株式会社を設立。東京・丸の内や日本橋をはじめ、全国各地で「場づくり」を行い、地域の課題解決や付加価値を高めるプロジェクトを数多く手掛ける。

     

    場づくりとノンフィクションは相性がいい

    ――水代さんは本と飲食をミックスした新たな「場づくり」に取り組んでいると聞いています。

    東京・丸の内にあるパブリックカフェ・Marunouchi Happ.Stand&Gallery(18年5月オープン)や、東京・神田のコミュニティ施設・ワテラスコモン2階のギャラリー・ライブラリースペース「ワテラスコモンライブラリー」(13年4月オープン)のほか、東京・丸の内の「MARUNOUCHI CAFE 倶楽部21号館」(16年3月閉店)という銀行の金庫をリノベーションしたビジネスマンが交流する会員制ラウンジに設置した本棚などの選書をブックディレクターとして手がけてきました。

    まちづくりのためのコミュニティスペースに最終的に何があったらいいか、と突き詰めて考えた結果、本とコーヒーとビールという答えに辿り着きました。もちろん、現代アートの集いやワインの会、三陸復興イベントといった催しも重要ではあります。しかし、特にまちづくり、場づくり、コミュニティづくりにおいては、ノンフィクションの本がとても相性がいい。

    というのも、マンモスの再生の話や宇宙がどうして生まれたかという本の方が、人の好みが分かれやすい小説よりもコミュニケーションが生まれやすいからです。優先順位で言うと、1の1か1の2くらいに、「本」が大事です。内容ももちろんですが、そのタイトルや表紙などを見て触れるだけでも何かを得ることができるからです。

    ――「まちのリビング」をコンセプトにオープンしたハマハウスは約2年を経過しましたが、運営状況はいかがでしょうか。

    日々アップデートしているという感じでしょうか。本の陳列などはスタッフにお願いしていますが、それ以外の選書や本の並べ方などのすべての作業は私一人でこなしています。書店のようにスポーツコーナー、料理コーナーという棚はありません。

    例えば、ゴッホに関するさまざまなアートブックや直接的な関連書を並べている中で、オランダの旅行ガイドも置く。それはゴッホ美術館がオランダのアムステルダムにあるからで、そうしたことを理解している人が棚を見れば、「なるほど。おもしろいね」と思ってもらえるように並べています。出版業界で言う、「文脈棚」というものですね。

    ――棚の書籍はどのようにメンテナンスされているのでしょうか。

    商品入れ替えは2週間に1回程度です。また、イベントに合わせて一点の書籍だけを売る時もあります。話題となった『SHOE DOG(シュードッグ)』(東洋経済新報社)や『サードドア』(東洋経済新報社)で店内を一色にしたこともありました。

    『SHOE DOG』の時には、『SHOE DOG』好きならこの100冊として挙げた本も一緒に販売しました。この本は共同創業者のフィル・ナイト氏によるナイキの創業物語でしたので、イベントではクリエイティブな仕事に携わる人を招いてのトークショーや女子大生起業家バトルなどを実施しました。 ▲『シュードッグ』イベント開催時のようす

    SHOE DOG
    著者:フィル・ナイト 大田黒奉之
    発売日:2017年11月
    発行所:東洋経済新報社
    価格:1,980円(税込)
    ISBNコード:9784492046173
    The Third Door
    著者:アレックス・バナヤン 大田黒奉之
    発売日:2019年09月
    発行所:東洋経済新報社
    価格:1,980円(税込)
    ISBNコード:9784492046531

     

    本をベースにさまざまな場を編集

    ――イベントを開催して人と人をつなげていく場を設けるというのがハマハウスの役割ということでしょうか。

    本という素材をベースにさまざまな場を編集しているのがハマハウスと言えます。いわば、月刊誌をつくっているようなものですね。今は発酵をテーマに選書して、「人生こそ発酵させないといけない」といったメッセージを伝えていくためのイベントを考えています。

    こうしたイベントは年間50本くらい実施しています。本が売れるのはめっちゃうれしいですが、それ以上にうれしいのはハマハウスに集まった異なる人同士が化学反応を起こして、何か新しいプロジェクトが生まれていくことです。

    日本橋浜町には、日本橋の伝統・文化・風習すべてが残っており、新旧の住民もいて、カゴメやクレハという大手企業もあります。しかし、互いに関心はあまりありません。そこを本を通じて他者をまずは知ってもらいたいと考えています。

    まちづくりには、メーカーから小売りまでの縦の連携による従来のものに加えて、人や企業などが横連携してつながっていくことも重要です。生産者から消費者へという縦の連携はよく見られますが、まちづくりをキーワードにライバル企業同士を結び付ける人があまりいません。

    私はその縦の信頼関係を前提に、ライバル同士の横連携もしっかり作っていきたい。そこから、今後出てくるであろう斜めの軸を楽しみにしています。ですので、ハマハウスはブックカフェというよりも、そうした機能・要素の方が強いですね。その上で、面で皆がつながる浜町という街に関心のある人がそうした本をここで購入していただければと。

    ――年間50本におよぶ企画のテーマはどのように選んでいますか。

    漠然としていますが、ワクワクドキドキするものというのが大前提です。楽しいが真っ先に来るものを選んでいます。この仕事は調整と我慢のコストが異常にかかりますので、「どうしたらできるか」「何とかしてできないか」と考えるような企画は結局、実現しません。皆がこうしたら喜ぶというのがあるから、最終的に企画は実現します。でなければ、この仕事は続けられません。

    ――ハマハウスで初めて本の販売にチャレンジされましたが。

    初めから分かっていたことですが、本の売上だけではアルバイト一人雇えないのが現状です。ただ、『シュードッグ』の時には、大阪・梅田の紀伊國屋書店さんを倒すと宣言して販売に臨みましたが、80冊超しか売れず、ぼろ負けでした。なかなか難しいですが、まだまだ発展途上のところがおもしろいと思っています。

     

    本屋は絶対に必要

    ――本屋がどんどんなくなっており、本とのタッチポイントの減少を出版界は憂慮しています。

    本屋は絶対に必要です。特に小さな街の本屋と超大型店には絶対になくなってほしくない。ブックディレクターの仕事はアマゾンがあればできると思っている人もいるかもしれませんが、絶対に無理です。

    例えば、あるテーマで2,000冊を選書してほしいと頼まれた時に、アマゾンのアルゴリズムで関連本を選んでいっても、最大7冊くらいが限度です。すると、2,000冊を選書するには、検索窓に300個のキーワードが最低でも必要になります。はっきりいってそれは机上の空論。それを解決してくれるのが超大型総合書店で、書店がなくなればブックディレクターという仕事自体が成立しません。

    よく行くのは丸善丸の内本店と丸善日本橋店で、丸の内本店はポジティブでいけいけなイメージ。日本橋店はレイドバック(のんびりとした)的な本が似合う店だと思っています。紀伊國屋書店新宿本店も好きですが、売場がオープン過ぎて、メモをとりづらいところもあって。

    小さい街の本屋は、店の品揃えが楽しみですし、そこで買い物をするのも好きです。ただ、よく通っていた書店がリニューアルで半分が文房具売場になってしまったのは残念でした。

    ――選書の際には具体的にどのように。

    ハマハウスをつくる時はリブロ浅草店とパルコブックセンターを訪れ、店の了解を得て、棚の写真を撮らせていただきながら選書しました。もちろん、売れる売れないではなく、中身ですべてを決めています。

    HONZの成毛眞さんの影響ですが、10冊同時読みを10年以上続けています。ただ、それでも追い付かない。そういう時は、例えば翻訳者や編集者など作者以外で選ぶ手立て・切り口はいくつもあります。

    ――最後にまちづくり・場づくりに必要なことを教えてください。

    まちづくりの重要度で言えば、ハード7、交通2、ソフト1という割合です。ソフト面を担う我々は5くらいのイメージで仕事をしていますが、デベロッパーと二人三脚となって、まちへの愛着を生み出していくことが私たちの仕事です。

    ハードをつくる人に、年間100本の日本酒や落語の企画ができないのも事実で、それで私たちがいます。そこで必要となってくるのが、エリアマネジメントという組織です。最も有名なのが、大丸有エリアマネジメントですが、一方でその組織を立ち上げることが昨今、 まちおこしのブームにもなっています。

    しかし、組織だけあっても一点突破でリノベーションする人がいないと、意味がない。それが私の仕事でもあります。一点突破のリノべというのは、とにかくこのエリア全部を歩行者天国にしてパン祭りをやりたいと言って実行する人です。

    組織が行政と折衝し、レギュレーションを決めることができても、結局、何かおもしろいことをしようとしている人がいない限り、そこは発動しない。

    ――出版業界がなかなか上向かないのも、こうした一点突破のリノベをやる人が少ないからかもしれませんね。

    業界自体はシュリンクしているかもしれませんが、編集というスキルの価値はこれからどんどん上がっていきます。編集できるまちや空間はたくさんあります。そこに寄り添うのが紙の本であることは間違いありません。本にはまだまだ可能性があるのですから、それを生業とする書店にも可能性はあると思っています。

    (聞き手・構成=新聞之新聞社 諸山 誠)

    Hama House
    東京都中央区日本橋浜町3-10-6
    営業時間:平日8:00~21:00、土日祝日10:30~18:00
    定休日: 不定休


    (「日販通信」2019年11月号より転載)



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