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  • 本は「読む」から「使う」へ これからの本を介したコミュニケーションを考える

    2019年12月12日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 猪越
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    ツールとしての本

     文喫でもやった「ただ本をあげる会」も良かったですよね。貸し借りではなくて、「自分は読んで満足したし、消化しているから誰かにあげます」という人が30人くらい集まった。それぞれが10冊くらい持ってきたのに、誰一人として同じ本はないし、もらいたい本もほぼ被らない。人間の多様性の素晴らしさを見た気がします。

    僕はあまり使わなかった薬膳カレーの本をあげたんですけれど、「毎日作っています」というレポートがSNSにあがっていて。

    有地 もらった人の方が、あげた本人より役立てているんですね(笑)。

     他者の人生に貢献できた気持ちです(笑)。

    しかもそうやって持ってきた本は、「名刺代わり」にもなります。みんなそれなりに語れる本を持ってくると思うので、その10冊で自己表現ができるし、通り一遍の履歴書よりは、「最近読んだ本を10冊持ってきてください」というほうが話も盛り上がる。リアルをよりおもしろくできた、熱量の高いイベントになりました。

    そういう意味では、本屋さんももっと“顔”が見えたほうがいいのかなとは思いますね。POPだと、「これはあの人だな」と個性が見える場合もありますが、なかなか顔までは見えない。もったいないなというのは、自分でこういうイベントをしていて思います。

    有地 顔が見えるという意味では、10人集まったとして、1対1になって互いの話を聞いているのと、1人の話を9人が聞いているのと、どちらの状況がよりいいんでしょう。

     どっちもありなのかなと思います。書店員さんはいろんな本を読んでいて知識もあるでしょうけれど、忙しくてイベントにリソースは割けないという場合は、店内の会議を公開しちゃうという案もありますよね。

    有地 「こういう思いを持ってやっているんだ」という感情が見えるとおもしろいかもしれませんね。▲個性豊かな本が集まった「ただ本をあげる会」。欲しい本が被った場合は、「自分がその本をいかに読みたいか」をそれぞれアピールして、あげる人が選ぶという交流型の仕掛けも

     

    本も、本屋も共感をフックに

     最近、ビデオ会議システムのZoomを使った実験をしているんです。アプリをインストールするだけで千人までミーティングができるんですが、それで合コンや人狼ゲームをしたり、ただ本の話をしたり。

    一番おもしろかったのは、2分で最近心が動いた話をしてもらうという企画。いい話でも悪い話でも、それを聞きながら話し手の感情をみんなで想像してチャットするんです。意外とみんな感情を読み違えていて、悲しかったんだろうなと思ったら、その時緊張しているだけだったことも。感情を交換し合うと、お互いの好感度はすごく上がります。

    最近みんな、感情を無視しすぎているんじゃないかと感じることが多くて。この間ワイン会に行ったら、みんなワインの情報ばかり話しているんです。このワインを見つけてうれしいとか、みんなに会えて興奮しているとか、そういう話をしたほうが人間も関係ももっと豊かになるのに。

    自分の奥底にある感情を簡単にでもシェアすると、共感が生まれます。本屋さんからも店づくりに対する思いが伝わってくると、「今度行ってみようかな」「また来たいな」というきっかけになるのではないでしょうか。

    有地 確かにそうですね。普通だったら興味のない本でも、誰かの発見の喜びとかエピソードをもらったときに、共感がフックになって内容にも興味が湧くという感覚があります。

    本屋から発信することはたくさんあるんですけれど、その時にあらすじや情報じゃなくて、「すごい」「熱い」という感情を主体にしたほうが、リツイートやシェアされたときに伸びることがあります。それをお客様も巻き込んで、スムーズに交わせるようになったらおもしろいですよね。

     思いを発信するツールとして、TwitterやFacebookは文字だけの情報です。やっぱりリアルなイベントが一番強力なのですが、意外とZoomは進化していて、かなりリアル寄りなんです。顔が見えて声が聞こえるというのは相当強い。

    読書会だと「解釈が間違っていたら」「くだらない意見しか言えなかったら」どうしようと不安になりますよね。でも匿名で、ビデオオフなら顔も見えないし、馬鹿にされたところでまあいいかとハードルを下げて話ができるのではないでしょうか。

    有地 本を読んだ後のことは、出版社も本屋もあえて踏み込まない方がいいのでは、というスタンスもあると思うんですが、読んだ後や最中でも、その本の話をする機会があれば読み方がどんどん変わっていきますね。「千人Zoom読書会」みたいなのができたら、読み手が主役の、新しいアプローチができるかもしれない。

     そういうことが実現できたら、どんどん世の中が楽しくなると思うんですよね。

    有地 本屋主催で、「読んだあとまで私たちがフォローします」というのもおもしろいし、リアルな本屋に集まっているお客様なら距離も近いでしょうから、実際に顔を合わせることができるかもしれない。

     たとえば「分かりあえていない」というところから、人間関係や社内調整を考えるという視点で話題になっている、『他者と働く』(ニューズピックス)という本があります。この本の読書会に参加したら、そこで転職先が見つかるかもしれないですよね。本を介したリアルな場には、そういう人生を変えるような力があると思うんです。

    有地 本を起点にすれば、いろんなアクションを誘導していくことができそうです。

     同じテレビを見た人よりも、本を読んだ人とつながったほうが断然おもしろそうですしね。

    有地 そういう意味でも、一冊の本は経験としての影響が大きい気がしますね。そうした本の価値を生かした“場”を我々も提供していければと思います。

    有地和毅 Kazuki Aruchi
    日販「YOURS BOOK STORE」ブックディレクター。2018年より選書ディレクション、コンセプトメイキングに携わる。2018年、文喫の立ち上げに参画。

    文喫文喫_恋東京都港区六本木6-1-20
    六本木電気ビル1F
    営業時間:9:00~23:00(L.O.22:30)
    電話番号:03(6438)9120
    定休日:不定休
    席数:90席
    入場料:1,500円(税抜)
    公式サイト:https://bunkitsu.jp/


    (「日販通信」2019年11月号より転載)

     

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