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  • 本は「読む」から「使う」へ これからの本を介したコミュニケーションを考える

    2019年12月12日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 猪越
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    アプリ開発、企画、コンサルティングを通じて、セレンディピティ(=偶然の素敵なつながり)をプロデュースするZAS。「本に出会うための本屋」文喫でも、人を通じた本との出会いを演出するイベントを開催しています。

    その模様とともに、出会いのプロデュースやコミュニティの満足度を高める方法について、ZAS代表取締役の林勝明さんに、日販「YOURS BOOK STORE」ブックディレクターの有地和毅が聞きました。

    林 勝明 Katsuaki Hayashi
    ZAS代表取締役。2007年からGoogleでのビジネス開発職を経て2018年に創業。また2014年から六本木のイベントスペース/スタジオ Roppongi Dance Lab.を立ち上げて現在まで運営している。
    https://company.zas.dance/

     

    感情を媒介にユーザーとつながる

    有地 林さんは、ZASを立ち上げる前はGoogleにお勤めだったんですよね。

     日本支社で法人営業の仕事をしていたんです。アンドロイドやChromeのブラウザなどを広げていくための、広告営業企画やビジネス開発、アライアンス業務に携わっていました。興味を持っていたのは、いろんなプレイヤーと組みながら、自社と相手の製品をどのように合わせたら消費者に受け入れられるかということでした。

    有地 自社の製品と相手のリソースを組み合わせて、広げていくということですね。

     その仕事を10年くらいやって、自分の中でやりきった感があったので、自分の興味をもう少し深掘りしたいなと思って退社しました。

    法人の仕事でもそうだったんですけれど、もともと人を引き合わせることが好きで、つながりが生まれる場所になればと、ダンススタジオ兼イベントスペースの運営を副業でやってきました。そこで新しい友人関係が生まれましたし、去年は結婚したカップルが3組もいるんですよ。

    有地 それはすごいですね。

     そういう広い意味での出会いのきっかけになるような仕事を、得意分野であるインターネットの仕組みもうまく使いながらできたらと起業しました。

    会社名も、人をマッチングして「ありがとう」といわれるような仕事をしたい、でもあまり説教臭くならないように「あざっす」というノリで、それを縮めて「ザス(ZAS)」と付けました。

    有地 いい感じのカジュアル感がありますよね。

     そしてこれは後付けですけれど、いままではガスをはじめとするエネルギーが重要でしたよね。それが原因で戦争も起こってきた。でも自然エネルギーや関連技術の爆発的な進歩で、それがほぼ無料で生み出せるようになった後は、「感謝」が世の中を動かすエンジンになるといいなと。

    有地 ガスからザスへ、エネルギーからエモーションへ、ですね。

    いま小売店、飲食店などでもお客様と店という関係性を超えて、応援してくれる人、同じ側に立ってくれる人を巻き込むことが、満足度の高い体験をつくるために必要になってきていますよね。

     クラウドファンディングなどもそうですよね。

    有地 そういう中で、本屋はなかなか味方作りがしにくいなと感じています。感謝だったり、共感だったり、感情を媒介につながっていくあり方もあるなと思うのですが、いかんせん人が足りないという状況です。

    林さんの取り組みは、ユーザー発でいろいろなつながりができたり、それを円滑にする仕組みが常時走っていたりするので興味深いですし、そういう未来をいつも見せてもらっているなと思っています。

     

    口コミから差しコミへ

     「本でつながるナイト」というイベントを文喫でやったのは、有地さんとほかのイベントで偶然お会いして、「何かやりましょう」というところから始まりましたよね。文喫はその前から気にはなっていたのですが、まだ入ったことがなかった。有地さんに会ったことをきっかけに行ってみたら「めちゃめちゃいいじゃん」と。いまでは「定期券(※)」も持っています。
    ※「文喫定期券」: 月額1万円(税抜)で平日何度でも利用可能な定額制会員サービス  

    ちょうどその時僕らが作っていたのが、匿名でもQRコードと質問だけで参加者をマッチングできるWEBアプリ「ZAS!」でした。小説好きな人とビジネス書好きな人は話が合わないし、そもそも人によって読みたい本は違う。興味にもとづいてグルーピングができたら盛り上がるんじゃないかなということで、イベントを3回ほどやらせていただきました。

    その中で見えてきたのは、こちらからお題を振るよりも、こんな本が読みたいというみなさんのざっくりしたテーマを事前に募集して、参加者に文喫の3万冊の中からそれに合うと思った本を選んでもらうほうが、意外な発見があるなということ。

    「そんな切り口があったのか」と驚きましたし、みんなの何かしらの才能やセンスを引き出せたのではないでしょうか。実際に、薦められた本を買った人も多かったですよね。▲「文喫」で開催された「本でつながるナイト」のようす▲ZAS!のアプリはグルーピングのほか、コミュニケーションを盛り上げるツールとして活躍

    有地 今までの書店になかったコミュニケーションだと思いました。「このテーマでこの本を推しています」というのは書店によくある形式ですけれど、ユーザーの「読みたい」に対してユーザーが答えるイベントになったので。

    店舗は単に場としてあって、本を介して人がコミュニケーションしている。それは、今後本屋で起きてほしい形だなと思ったんです。

     せっかく人がたくさん集まった中での集合知というかね。「欲しい」という欲求と、「貢献したい」という潜在的な思いが結びついた気がしました。薦められた本人ではなく、周りにいた人がその本を買っているケースもありましたし。

    有地 薦める現場がオープンだったからでしょうね。

     WEB本棚やブックレビューのサービスはありますが、それは顔の見えない人たちのお薦め。ネットには口コミがあふれていて、もはやグルメサイトもそんなに見なくなっています。それよりは、「有地さんが好きなご飯の店のほうが合いそうだな」という現象が起きていたと思うんです。

    有地 どこの誰が薦めているのかわからないレビューサイトだと、ユーザーが増えれば増えるほど逆に信頼が下がってしまう。

     しかも、その本を買ったところで人と話しても共有しにくいですよね。メジャーな本でも、テレビほどみんなが見ているわけではないので。一対一の関係で、「あの人と話したいからこの本を買う」というほうが、そこから何かが起きる気がします。

    僕はそれを、口コミならぬ「差しコミ」と言っているんです。1対1の“サシ”という意味もありますし、有地さんに対して「これ」と差し込むみたいなニュアンスもある。

    キングコングの西野亮廣さんも、ツイッターでは「拡散希望」ではなく個別にツイートして「刺しにいく」という表現を使っていたと思うんです。1対1のほうが、きちんと響く感じがしますよね。

    有地 言葉としていいですね、差しコミって。

     ネットショップだと、アルゴリズムで自分に最適化された商品を薦められますよね。それもありがたいけれど、どこか違うという思いがあって。

    有地 差しコミがおもしろいのは、薦めてくれる人の思いとか、発見も乗っかっているからでしょうね。

     その人と良い関係を築きたいという面もありますよね。そのツールとして本があって、「君が薦めてくれたからこの本を読んだ」というコミュニケーションが生まれる。それは本だけでなく、食べたり、映画を観たりということの動機でもありますよね。

    有地 そう考えると、本を「読む」から「使う」というふうに意識転換がされたときに、「読者からユーザー」へとお客様が広がるんじゃないかと思うんです。「読む」だけだとシチュエーションくらいしか広げられないけれど、「使う」と考えれば、いろんな方法やシーンが開けていく。

    文喫のエントランスで「積読展」をやったのも、積読ってわざわざ作るものではなくて、読みたくて置いておいたものが積み重なっている状態ですよね。それを、誰かの欲望が見える形で提示してみようという企画です。

    映画を見た後も、肩で風切って歩くみたいなモードになることがありますよね。積読に自分の欲求を埋め込んでいくと常にそれが目に入るから、そういう状態が作れるんじゃないかと。タイトルだけで意識が高まったり、いろんな感情が想起されたりする本の使い方もあるのでは、という提案になればいいなと思っています。▲誰かの「読みたい」を可視化する試みとして、10月に文喫で行われた「積読展」



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