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全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第32回は、東京都渋谷区の代官山 蔦屋書店の文学コンシェルジュ・間室道子さんにご登場いただきました。
間室さんが紹介してくれたのは、道尾秀介さんの『スタフ staph』。移動デリで生計を立てるアラサー女性が、思わぬ事件に巻き込まれていく心に沁みるミステリーです。
私がいる1号館1階には「マムロコーナー」と呼ばれるスペースがある。長いこと書店員をやっているうち、テレビや雑誌ほかマスコミに出演することが多くなり、露出が増えると「おたくの文学担当の人が先週ラジオで言ってた本、何でしたっけ?」など、問い合わせも増える。当店は営業時間が長いので、私がいない時間帯にもスタッフがご案内できるよう、かかわった雑誌や本を集めたコーナーをつくることにしたのだ。
現在、雑誌では「婦人画報」に隔月で連載をしている。ほんらいこの雑誌は暮らしや旅の書籍がある3号館で売っているのだけど、連載掲載月には1号館のマムロコーナーにも置き、周りに紹介した本を置くことで、本も雑誌も売れる、という効果を狙っている。
文庫の巻末解説の仕事も増えた。山田詠美さんの文春文庫『タイニーストーリーズ』、湊かなえさんの新潮文庫『母性』など今まで5作を手掛け、この9月に6冊目が出た。道尾秀介さんの文春文庫『スタフ staph』。ワゴン車でランチを売って生計を立てているアラサー女性が主人公のミステリーだ。
ハードカバーの表紙は、いろんな食材がつやつやしたタッチで描かれているけど、よく見るとどんどん変質していってるような不穏な絵だった。文庫では一変。明るめのグレーの地に、黄色の綿毛めいた模様が形を変えながら散りばめられ、中心を小さなワゴン車が走っている。編集さんが「道尾さんの初の女性主人公の文庫化作品なので、より多くの女性に手に取ってほしくてポップにしてみました」とおっしゃっていた。
そう、書店はプライベートで、仕事で、イベントで、編集者や作家の方々がよく訪れる場所だ。文庫解説は、書評家、作家の方々、本好きのタレントさんなど、さまざまな人が手掛けているが、私は書店員ならではの裏話や目撃談を意識している。山田詠美さんのときは、サイン会のエピソードをたくさん入れた。
今回の『スタフ staph』では、2016年の単行本刊行当時に道尾さんから直接聞いた「この見慣れぬカタカタ語をタイトルにした理由」や、解説を引き受けた直後に当店で開催した柚木麻子さんの『マジカルグランマ』刊行イベントで、柚木さんと公開対談をしながら「これは道尾さんの解説に使える!」と思ったことを盛り込んだ。
書店好き、読書好きにはお楽しみいただける内容になったと思う。皆様、『スタフ staph』をどうぞよろしくお願いいたします。
◆作り手からのメッセージ◆
道尾秀介さん初の女性主人公となる本作。アラサー崖っぷちの主人公の心の裡を、スピーディーなドライブ感がありながらも、読者を振り落とさない細やかな描写で綴っています。息詰まる展開と、胸に響くラストは、道尾さんならでは。初めての道尾作品としてもおすすめです。(文藝春秋 文春文庫部 山下奈緒子さんより)
代官山 蔦屋書店(Tel.03-3770-2525)
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5
※営業時間 1階書店エリア 7:00~26:00
(「日販通信」2019年11月号「わが店のイチオシ本」より転載)