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1968年のメキシコ五輪で得点王に輝き、“世界的ストライカー”として注目された、元サッカー日本代表の釜本邦茂さん。現在は日本サッカー協会の顧問をつとめるとともに、グランセナ新潟FCのスクールマスターとして、子どもたちへのサッカー教育にも情熱を注いでいます。
そしてこのたび、同スクールに所属する子どもたちをはじめとした小・中学生を対象に、釜本さん自身がおすすめ本を選書。サッカープレイヤーとしての成長にもつながる、“心を強くする本”が選ばれました。
今回ほんのひきだしでは、釜本さんご本人に「子ども時代と“読書”」についてお話を伺いました。なお今回釜本さんが選んだ本は、6月29日(土)~8月31日(土)、新潟エリアを中心とした蔦屋書店の店頭に並びます。お近くの方はぜひ足を運んで、実物を手に取ってみてください。
―― さっそくですが、釜本さんはどんな子ども時代を過ごされていたのでしょうか?
私が子どもの頃はテレビ放送も始まる前で、家のなかに娯楽はありませんでした。本が世の中にあふれていた時代でもなかったし、もっぱら友人たちと外で遊ぶことに熱中していましたね。自分自身でも、活発でヤンチャな、いわゆる“悪ガキ”だったと思います。その頃から負けず嫌いで、勝負ごとやケンカでは「絶対負けたくない」「勝つまでやる!」といつも思っていました。
はじめは野球が好きで、道具は買えなかったので、バットやグローブは自作が当たり前でした。しかしその後、サッカーに出会います。
きっかけは小学校の恩師でした。「野球と違って、サッカーならオリンピック競技になっており、世界中に行ける」と知ったのが、サッカーを始めた理由です。
―― ご自身の読書遍歴について教えてください。
5人兄妹の4番目だったため、子ども時代は自分のために本を買ってもらうようなことはなく、お下がりや、兄妹で上から順番に読み終わるのを待っていました。なので、この頃に印象に残っているような本はあまりないですね。
大人になってからは、一貫して時代小説(時代劇)が大好きで、今も時間を見つけて読み続けています。昔から日本史が好きで、特に軍記物や戦国時代が好き。吉川栄治、司馬遼太郎、浅田次郎、佐伯泰英など、多くのものを読んできました。新刊が出れば毎回購入していて、今も早く続きが出ないか待ちわびている作品も多いです。
「水戸黄門」のような勧善懲悪モノがスカッとして好きなのですが、これは子ども時代の体験が起因しているように思います。太秦に住んでいたので、時代劇の撮影所によく見学に行っていたんですよ。そこで見たチャンバラのようすなどには、興奮したものです。父親が剣道をしていたというのも、関係あるかもしれません。
主人公が一騎打ちで勝つ。悪者を懲らしめる。正義を為す。そういった部分に惹かれます。読み始めたら止まりません。もし自分がその時代に行けるなら、迷うことなく侍になりたいですね。
でも実は、人情モノや家族愛なんかにも心を動かされます。妻と一緒に時代劇を観ていると、涙ぐんだりしてよく馬鹿にされますが、ピッチの外では優しい人間なんですよ(笑)。時代ものにはさまざまなエンターテイメントが含まれていて、日本人特有の情愛や心の機微に心を動かされるときに、「日本人」であることを実感します。
―― 現役時代も、本を読んでいらっしゃったんですか?
現役時代は海外遠征のときなど、今よりも移動時間が長かったこともあって、必ず時代小説を持って行っていました。練習や試合を終えてホテルに戻ると、外に遊びに行くでもなく本を読んでいることが多かったですね。体を休めながら、本に没頭する。自分にとっては自然なことで、リラックスできる時間でした。当時のチームメイトからも、「本をよく読んでいたのが記憶に残っている」と言われたものです。
これは父親からの受け売りですが、「サッカーは11人対11人ではあるが、目の前の相手と対峙したときは一人一人の闘いである。そのときは必ず勝たねばならない。勝てばチームが有利になる。そのために絶対的な武器を見につけろ!」。ピッチに立つと気持ちが切り替わり、闘うモードになります。
そしてそういう、相手の選手と対峙するとき、時代劇の一騎打ちのシーンがオーバーラップするんです。日本人としての、侍としての魂が燃え上がる。自分の読書体験とサッカーが重なる瞬間です。
現在は電子書籍を読む人も多いと思いますが、本を読むことで学べるものは多いと思います。私は歴史モノが好きですが、そこから人としての在り方、人生観などたくさん学びました。読書を通して得たものは、サッカーにも影響しています。
また最近は、西洋史に興味を持ち始めました。これまでは苦手だったんですが、読んでいてわからない国・都市や人物が出てくると調べたりして、知識が増えていくのが嬉しいです。
―― それでは、今回のフェアの対象となる子どもたちとその保護者の方へ向けて、最後にメッセージをお願いします。
現代の日本には「ハングリーさ」が足りないと感じています。身体は鍛えれば強くなりますが、ハートはそうはいきません。自らそういった環境に身を置き続けることで強くなっていきます。
そしてそのためには、闘争心・ハングリーさが不可欠です。スポーツに勝敗はつきもので、結果はやってみなければわからないけれど、最初から負けるつもりで臨む選手はいません。
サッカー人口が増えたのは喜ばしいことですが、それだけでなく、そのなかから世界で活躍できる選手が増えていくことを望んでいます。そのために「勝ちたい」「もっと上手くなりたい」そういった気持ちを常に持って、「これなら誰にも負けない。絶対に勝てる!」といった自分だけの絶対的な武器を見つけてほしいと思います。「熱いハートを燃やせ」です。
「ハングリーさ」をなくした時に、人の成長は止まります。スポーツだけでなく人生においても、必ず必要なものです。
保護者の皆さんにも、子どもたちが“人生という闘い”に打ち克っていけるよう、応援してほしいと思います。
①『壬生義士伝(上・下)』(浅田次郎/文春文庫)
②『居眠り磐音』シリーズ(佐伯泰英/双葉文庫)
③『峠』(司馬遼太郎/新潮文庫)
④『それでも俺にパスを出せ』(釜本邦茂/講談社)
【推薦理由】主人公である吉村貫一郎の家族への想い、仲間への想い、生き様に涙した。
内容紹介(文藝春秋BOOKSより):
日本人の「義」とは何か。2003年初春映画化! ――「死にたぐねえから人を斬るのす」 新選組で、ただひとり庶民の心を失わなかった吉村貫一郎の非業の生涯を描く浅田次郎版「新選組」。
【推薦理由】かなりの長編だが、エンターテイメントが詰まっている! 息子が主人公の「空也十番勝負」も合わせて読んでほしい。
内容紹介(『居眠り磐音 江戸双紙』公式HPより):
「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズは、坂崎磐音(いわね)が主人公の長編時代小説である。 江戸下町の人々との心あたたまる交流、鮮やかに悪を斬り捨てる磐音の剣さばき、胸をしめつける男女の心の機微―― 時代小説のさまざまな楽しみを味わわせてくれる、痛快な物語でもある。明和9年(1772年)4月、藩内の改革を目指す青年武士、坂崎磐音は幼馴染みのふたりとともに、3年間の江戸勤番を終え九州の豊後関前に帰参した。 だが帰藩早々に起きた事件により、磐音は一夜にしてふたりの友を失い、祝言を間近に控えていた許婚の小林奈緒を残したまま関前を後にすることになる。
再び江戸へ出た磐音が住むことになったのは、江戸深川六間堀の金兵衛長屋。不慣れな浪人暮らしを送るなか、磐音は鰻割きと両替商今津屋の用心棒の仕事を始める。豊後関前藩内での暗闘や、許婚の奈緒との運命、今津屋奉公のおこんとの恋、時の老中・田沼意次一派との壮絶なる戦い…… 一度読みはじめたら止まらない、今世紀最高のエンターテイメント大作!
【推薦理由】時代を見据える先見性と、実効性を持った河合継之助から学ぶことは多い。長岡藩を守るために闘った英雄の最後は涙なしでは読めない。
内容紹介(新潮社公式HPより):
幕末、雪深い越後長岡藩から一人の藩士が江戸に出府した。藩の持て余し者でもあったこの男、河井継之助は、いくつかの塾に学びながら、詩文、洋学など単なる知識を得るための勉学は一切せず、歴史や世界の動きなど、ものごとの原理を知ろうと努めるのであった。さらに、江戸の学問にあきたらなくなった河井は、備中松山の藩財政を立て直した山田方谷のもとへ留学するため旅に出る。
【推薦理由】先のインタビューでも述べたが、サッカーが上達するためにはとにかく練習すること。それがいつか自分だけの武器になる。「熱いハートを燃やせ!」
内容紹介(講談社BOOK倶楽部より):
「点が取れない理由は至って単純だ。鍛錬不足、特にキックとヘディングの磨き込みが決定的に不足していると思う。決定的に足りないから決定力がつかないのである」日本経済新聞「私の履歴書」に大幅加筆。サッカー日本代表(男子)最多得点の筆者が語る、そのサッカー人生と信念。