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全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第26回は、兵庫県尼崎市のショッピングセンター「つかしんにしまち」にあるふたば書房つかしん店の執行役員・中西正治さんにご登場いただきました。
中西さんが紹介してくれたのは、ミステリをはじめとする幅広い作風で知られる貫井徳郎さんの作品。昨年9月に妻夫木聡さん・井上真央さん主演でドラマ化された社会派ミステリ『乱反射』です。
「これは、あるひとりの幼児の死を巡る物語である。たった二歳での夭折は痛ましく、その死にはある特異な点があった。しかし、『不運』のひと言で片づけられ、忘れられた。」でこの本は始まる。
数年前、私は帯に惹かれてこの本を手に取った。そこには“登場人物全てが犯人である”という何とも言い様のない、まさにミステリアスなキャッチコピーがあった。アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』や綾辻行人『十角館の殺人』を逆説的に思い浮かべさせるコピー。
貫井徳郎は、それまで一冊も読んだことがない作家であった。不思議な思いをしながら、レジへと向かった。
当店は「本当に住みやすい街大賞 2018 in 関西」でランキング1位になった、JR尼崎駅から北へ2駅に位置する商業施設内にある。昔ながらの工場や、工場跡地に立ち並ぶマンションといった新旧の住宅地が控えており、この物語に出てくるような街路樹や公園なども散在している。
おりしも、世をあげてのペットブーム。飼い主のマナーの悪さがこの事件の根底にある。私も犬を2匹飼っていたが、何とまあマナーの悪い飼い主の多いこと。町中では犬の糞がやたら目につく。ゴミ屋敷の問題も然り。
単行本発売時の10年前にも、既に社会問題化していたのであろう。また、緑化政策の一環である街路樹の落葉・倒木問題、救急病院の急患受け入れタライ回し、救急外来の専門外のアルバイト医の問題。
根本にあるのは、仕事に対する考え方である。誠実に行う仕事、やっつけ仕事、理由を見つけて仕事を放棄する、などといった姿から考えさせられる、生きがいややりがいのある仕事とは?
やがて、被害者の父である新聞記者の手・足によって、すべての登場人物たちが「幼児の死」の加害者といえる事柄が、次々と明らかにされていくが、父自身もいわば同じような事をしていたのだ。「おれだったのか。おれが息子を殺したのか」と、何とも切ない。ふつふつと悲しみがあふれてくる。
しかし、会社に届いた読者からの一通の絵葉書に励まされ、夫婦は旅行に出る。絵葉書の風景、岬を探し求める旅に。
そして、その地が与那国島であることを突き止め―。
その眺めに、夫婦は蘇生する。息子とともに。
この素晴らしい物語を、多くの人に読んでもらいたい。
◆作り手からのメッセージ◆
昨秋には妻夫木聡さん、井上真央さんのW主演でスペシャルドラマが放送になり、発売以来、話題が尽きず、文庫判は現在21刷17万部を突破しています。『乱反射』をお読みいただいたあとには、同じく社会派ミステリである貫井さんの『私に似た人』(弊社刊)も、ぜひ手に取っていただきたいです。(朝日新聞出版 書籍編集部 四本倫子さんより)
ふたば書房つかしん店(Tel.06-6422-0905)
〒661-0001 兵庫県尼崎市塚口本町4-8-1 つかしんにしまち2F
※営業時間 10:00~21:00
(「日販通信」2019年5月号「わが店のイチオシ本」より転載)