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    「何度機会を逃しても諦めきれなかった」本屋大賞 発掘部門に懸けた書店員の思い

    2019年04月12日
    本屋を歩く
    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    「2019年本屋大賞」の発表式が4月9日(火)に開催され、瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』が大賞を受賞しました。

    本屋大賞は、全国の書店員が投票によって「今一番売りたい本」を決める賞。当然大賞にもっとも注目が集まるのですが、今回は、書店員の投票から“実行委員の共感”を集めたものに与えられる「発掘部門/超発掘本!」推薦者のスピーチも、来場者の心を熱く震わせました。

    「超発掘本!」に選ばれたのは、神山裕右さんの『サスツルギの亡霊』。推薦したのは、長野県にある蔦屋書店諏訪中洲店の立木恵里奈さんです。

    スピーチは、以下のような内容でした。

    この『サスツルギの亡霊』は、江戸川乱歩賞を史上最年少で受賞し、いまだその記録が破られていない神山裕右先生の2作目です。

    神山先生の作品は、あまりなじみのない地を舞台にして、臨場感あふれる筆致で描かれているのがとても魅力的です。特にこの『サスツルギの亡霊』は、南極という広大な密室を舞台に、越冬隊員の間で起こる殺人事件を描いたもので、私はこの作品を、暖かくした部屋の、さらに電気毛布の温度を最大にした布団にもぐって読んでいましたが、どんどん温度が失われていき、手足の先まで冷たくなるほど寒くなり、震えながら読んでいたことが忘れられません。

    (主人公に)差し出される手が敵か味方かわからず、一気読みしたいのだけれども、あまりの寒さにページをめくる手が止まってしまうほどで、この作品を読んで以来、南極に関するワードを見聞きするたびに、この作品が思い浮かんで寒さに震えてみたり、殺人事件の報道を見るたびに結びつけてしまうほど、印象に残っています。「この作品がこのまま注目されないのは本当にもったいない」と思いながら、長年書店で働いてきました。

    これまで2度の書店閉店を経験しておりまして、閉店するたびに、どうしてもこの作品を売りたい、多くの人に読んでもらいたいという諦めきれない気持ちと、この作品を(売り場の)担当としておすすめできなかったのが本当にくやしくて、「書店で働いていればいつかは展開できるときが来るのではないか」という思いで、その時を待っていました。

    なかなか展開の機会には恵まれませんでしたが、2年前、(勤務先の書店)グループ全体の企画で「各店で1冊仕掛けて、一番売れた本を全店展開する」という発掘部門のような企画が行なわれることになり、社員さんから声をかけていただき、迷わずにこの作品を推薦しました。失礼ながらあまり知られていない作家さんだったので、「マニアックですね」なんて言われながらも、40冊くらい仕入れてくれたと思います。そのときに作ったPOPが、失敗作のこれと、POP自体に意味をもたせて、思いの丈をみっちり詰め込んだこのPOPです。

    レジに立っていてこの作品を購入されるお客様にはなかなか当たりませんでしたが、売り場を見るたびに確実に売れていて、これならと思っていたのですが、いよいよ最終候補に残りあと一歩というところで、ほかの作品に決まってしまいました。

    その後もしばらく売れていて、最終的に10冊くらいまで減っていたかと思います。このままいけば売り切ることもできるかなと思っていたのですが、気がついたら返品されていて、残念な思いもしました。

    しつこいとも思うのですが、「もっと多くの人に読んでもらいたい」「知ってもらいたい」という気持ちがあって、今回初めて本屋大賞にエントリーして、この本を「発掘部門」に推薦しました。

    選ばれる確率は低いと思いましたが、この発掘部門がだめだったらもう諦めようという気持ちで推薦したので、選ばれたときには叫ぶほど驚いて、嬉しくて泣いてしまいました。これでもう、マニアックとは言わせません。今回重版されたということなので、多くの人に楽しんでもらいたいです。

    登場人物は多いですが、だからこそ犯人も、事件の真相もまったく予想がつかないこの作品を、さらにおもしろく読むことができると思います。まるで映画を見ているかのようで、ミステリー初心者にもおすすめです。本当にすごい作品なので、とにかく読んでみてください。

    神山裕右先生は、今年デビュー15周年を迎えます。デビュー15周年の年に、この本屋大賞をきっかけに、また神山先生が作家として活躍してくれたら素敵だなと思います。

    本当に、本当に、おすすめです。

    小さな紙にめいっぱい思いを込めたPOPのように、「いくら言葉を尽くしても伝えきれない」といわんばかりのスピーチでした。

    ほとんど絶版に近い状態だったこの作品も、今回の「超発掘本!」受賞を受けて重版され、全国の書店店頭に並んでいます。

    また「発掘部門」にエントリーされた作品と書店員推薦コメントは、「本の雑誌増刊 本屋大賞2019」に全作掲載されています。

    サスツルギの亡霊
    著者:神山裕右
    発売日:2008年09月
    発行所:講談社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784062761444
    本屋大賞 2019
    著者:本の雑誌編集部
    発売日:2019年04月
    発行所:本の雑誌社
    価格:612円(税込)
    ISBNコード:9784860114282

    ※「2019年本屋大賞」発表会当日のスピーチを書き起こし、要旨を抜粋しました。

     

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