• fluct

  • 劣等感に押し潰されそうなとき、この物語がきっと救いをくれる:わが店のイチオシ本(vol.22 ヤマテル柴田店)

    2019年01月18日
    本屋を歩く
    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
    Pocket

    全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。

    第22回にご登場いただくのは、宮城県柴田町にあるヤマテル柴田店の店長・渡辺啓市さんです。天井から下がる「イチ押し文庫はこれだ」の超巨大POPで、渡辺店長が熱烈にプッシュしているのは『向日葵のかっちゃん』

    今回は、この本を語るにつけ思い出す「ある中学生の女の子のエピソード」を綴っていただきました。

    向日葵のかっちゃん
    著者:西川つかさ
    発売日:2015年02月
    発行所:講談社
    価格:713円(税込)
    ISBNコード:9784062930451

     

    欅坂46似の不機嫌そうな女子中学生に薦めてみた

    あれは数年前の夏の日のこと。

    売場奥の作業机で、私が仕事そっちのけで業界紙の依頼原稿を書いていたとき、不意に声をかけられた。顔を上げると、そこにはミステリアスな雰囲気を漂わせた、そう、欅坂46の不動のセンターに似た女子中学生が立っていた。

    聞けば、読書感想文用の本を探しているとのこと。課題図書売場に案内すると、不機嫌そうに皆が読むような本はダメだと言う。そこで夏の100冊文庫の中から何点か薦めてみたが、驚くことに全部読んでいるらしい。

    それならと教えたのが今回の一冊だ。

    この本は、脚本家である著者の幼少期を描いた自伝小説。発達障害のかっちゃんは、成績優秀な兄と比較され、親からは嘆かれ、親戚からは疎んじられているが、明るさを失わず、養護教室のひまわり学級で、勉強そっちのけで遊んでばかりいる(あれ?)。

    そんなかっちゃんが五年生になった転校先で、担任の森田先生と出会ってから、眼前の霧が晴れたようにぐんぐん才能が開花していく様子がまぶしい。前半の情けないほど周囲からバカにされていた姿が残っているから、森田先生に自分を丸ごと受け入れてもらえたかっちゃんの喜びが伝わってきて、こっちまでうるうるですわ。

    ラスト、成績優秀者としてかっちゃんが卒業式で答辞を読む場面は、何回読んでも涙が浮かんでくる。

    誰の心の中にも「かっちゃん」はいる。劣等感に押し潰され、それでも負けまいと心が揺れているとき、この本がきっと自分にとっての森田先生になってくれるはずだ。

     

    しぶしぶ読み始めた彼女はやがて……

    熱く語る私に、引き気味の彼女。しぶしぶ読み始めると、数分後には彫像のように動かなくなり、傍を離れて仕事に、おっと、原稿書きに戻った私がうかがっていると、やがて人形のように硬質な彼女の表情に変化が見え、何度も天井を見上げ、涙をこらえているのが分かった。

    ふっふ、若い頃から散々女性を泣かしてきた罪作りな男である。そう言えば、自分がこの本を読んだのは病院の待合室だったが、泣いている私を見て、隣に座った小さな女の子が「注射怖いの?」と心配してくれたっけ。

    1時間ほど過ぎ、彼女は本を読み終えたと思ったら平台に戻し(えっ、立ち読みだけ?)、次の瞬間、平台の一番上にあった私製帯と手書きPOPのついた本を手に取り、まっすぐレジへと向かっていった。

    その後、彼女と会うことはない。もう一度店に来たら、帯とPOPを返して、と言いたいんだけど、そうしたら欅坂46のように「僕は嫌だ!」と叫ばれるかな(笑)。

    まあ、それはそれでちょっとうれしいんだけど。

    ◆作り手からのメッセージ◆
    著者自身の経験が元になった本作は、当初子ども向けの本として刊行されました。ですが、「かっちゃん」を熱心に指導し応援してくれた森田先生との日々は、大人にさまざまな気付きを与えてくれます。感動の輪がじわじわと広がり、文庫版がロングセラーになっていることが何よりうれしいです!(講談社 文庫出版部 斎藤梓さんより)

    試し読みはこちらから

     

    店舗紹介

    ヤマテル柴田店(Tel.0224-87-8162)
    〒989-1611 宮城県柴田郡柴田町上名生字新大原194-1 イオンタウン柴田内
    ※営業時間 10:00~21:00


    (「日販通信」2019年1月号「わが店のイチオシ本」より転載)




    タグ
    Pocket

  • GoogleAd:SP記事下

  • GoogleAd:007

  • ページの先頭に戻る