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10月1日(月)にスタートした、山口県の老舗書店「文榮堂」と山口大学の学生による「地方創生プロジェクト」。
「“本”や“書店”をキーに、地域活性のアイデアを実現させる」を目的に掲げたこのプロジェクトは、人口流出、過疎化、書店数減少といった多くの地域で問題になっている深刻な事態を背景に昨年立ち上がり、今年2期目を迎えました。
プロジェクトには、同校経済学部の松田温郎准教授と、彼のもとでマーケティングとまちづくりを学ぶ松田ゼミ生を中心とした学生が参加。第1期からチーム数は倍に増え、昨年同ゼミから参加した学生もアドバイザーとして協力しています。
このプロジェクトの成功は、きっと山口県に限らずさまざまな地域によい影響をもたらすはず。しかし、そうたやすいことではないでしょう。
ということで今回は、大学・学生たちが「文榮堂×山口大学 地方創生プロジェクト」をどう捉えているのか? 松田准教授に、率直なところを伺いました。
松田温郎(まつだ あつろう) 山口大学 経済学部准教授
愛媛県今治市出⾝、神戸大学大学院博士後期課程修了、博士(商学)。専門は商業論、マーケティング論。2014年度に山口大学経済学部講師に着任し、2015年度より現職。
――大学では普段、どのようなことを教えていらっしゃるんですか?
私の専門は「商業論」および「マーケティング論」と呼ばれている領域です。
小売業を研究対象としていまして、具体的には「参与観察」といって、ある個人商店で従業員として実際に働かせてもらいながら、地域商業者の知識や技術がどのように培われていくか、それをどのようにビジネスの文脈で発揮するかを学び、それを商業の理論やマーケティングの理論として構築することに挑戦しています。
大学での講義名は「流通論とマーケティング論」です。研究内容のすべてを大学の講義で扱えるわけではありませんが、流通論では「リテール・マネジメント」、マーケティング論では「価値共創」の考え方を、それぞれ理解してもらうよう設計しています。
ゼミの学生たちは、「商業論」「マーケティング論」の両方をより専門的に学んでいます。それに加えて、学内の売店と連携しながら、「POPが売上の増減や分散にどう影響するか」「SNS運営にはどんな効果があるか」など、店頭プロモーションの企画・実施、その成果に対する学術的な分析などをしています。
――プロジェクトのテーマは「産学連携による書店および地域の活性化」です。舞台となる山口市は、松田先生から見てどのような街ですか?
私は愛媛県今治市出身で、山口市に住み始めて今年で5年目になるのですが、山口市は“文化的な生活”が自然にできる街だと感じています。
県の規模、市の規模も今治市と大きくは変わらないはずなのですが、山口市で暮らしていると、知的な刺激を受けることが多いように感じますね。YCAM(山口情報芸術センター)があるからなのか、長州文化の名残なのか、温泉街があって、観光客との間で文化的な相互作用が起こりやすいからなのか、まだ突き詰めて考えたことはありませんが……。
おそらく大学生の生活に関しても、娯楽の多い都市部の大学生とは大きく異なるはずです。「やることがない」「暇な時間がある」ということが、ボランティアに参加したり、勉強したり、学内をうろついたりといった行動の原点にあるように思います。
そういう“特に目的なくウロウロしている”学生たちが、何かのきっかけで関わりを持って「創発」のようなものを引き起こし、そこから面白いことが始まる。昨年このプロジェクトで最優秀賞をとった「言っちょる本」(※後述)のチームが、その好例だと思います。
――では続いて、山口大学でこのプロジェクトが採択された経緯を教えてください。これまでに、同様のプロジェクトに参画されたことはあったんでしょうか。
実は本学部は、大学の責務である“地域貢献”をこれまで以上に果たすことを目的として、昨年度に「地域連携室」を立ち上げたばかりでした。しかし、具体的な連携企業や連携方法、貢献すべき目標が定まっていたわけではなく、どのように地域に貢献できるかを模索している段階でした。
その折に、日販さん※からこのプロジェクトをご提案いただいたんです。
※今回山口大学とコラボレーションした文榮堂は、日本出版販売(略称:日販)のグループ企業である「積文館書店」が経営する書店。
学部としての採択が決定した後、プロジェクトの担当者を決めることになったのですが、そこで私が強く志望して、務めさせていただくことになりました。もともと本が好きで、最高で5000冊ぐらい漫画を持っていましたし、小売業とマーケティングを専門としていたのでぜひやりたいと。
とはいえ、まだまだ教歴の短い私だけでは不安な面もありましたので、地域経済を専門としている斎藤英智先生にも副指導教員として参加してもらって、円滑に運営できる体制を整えました。
――ご自身が強く志望されたということですが、プロジェクトのどんなところに着目したのでしょうか。
本音をいうと、まだまだ山口の地元企業とのつながりが弱かったので、老舗のひとつである文榮堂さんと連携できることは非常に魅力的でした。また、私のゼミ生の中に産学連携に積極的な学生がいたことも、私の背中を押してくれました。
それで文榮堂さんと実際にお会いして、くわしくお話を聞くことになったのですが、そのときに私の心を動かしたことが2つあります。
1つ目は、まだ未確定事項が多い中でも、みんな本気だということが伝わってきたこと。2つ目は、このプロジェクトを担当している日販の平木さんがなんとなく気に入ったということです(笑)。
ふんわりした話だと思うかもしれませんが、実は後者はもっとも重要なポイントでした。後から聞いた話ですが、平木さんと、日販で文榮堂を担当している書店営業の方が、大学本部にお手紙を出してくれたことがそもそもの始まりだったそうで。顔合わせのときにも「よし、この人と頑張ってみよう」と思いましたが、それを聞いてますます「一緒に仕事がしたい」と思うようになりました。
――そういった経緯を経てプロジェクトが始動したわけですが、昨年1年間実施してみた感想はいかがですか?
昨年は3チーム参加しましたが(今年は6チーム)、プロジェクトの応え方はさまざまでしたね。
「本を読むとはどういうことか」について哲学的な問答を始めるチーム、「とりあえずお客さんの声を聞こう」と市場調査を始めるチーム、「何よりも現場だろう」と山口県内の本屋をまわりだすチームと、本当にそれぞれ個性的でした。
▼参加した学生たち(昨年の様子)
――昨年は「言っちょる本」「BookSelf」「山口風景画ブックカバーコンテスト」という3つの企画が各チームから生まれ、いずれも実現されましたね。
それぞれの趣旨である、「地域の人の思い出がゆるくつながる(言っちょる本)」「地域の人の興味や関心・知識が基になって本屋が作られていく(BookSelf)」「地域や世代を超えて、山口がどのように見えているかという視点を共有する(山口風景画ブックカバーコンテスト)」が、どこまで地域に通じ、広がったかというのは、やや難しい問題です。
重要なのは、それぞれが企画に込めた想いを一過性のものにしないために、たとえ企画内容は変わっても、プロジェクトに継続的に取り組み、学生たちが目指した地域貢献を少しずつ実現させていくことだと考えています。
一方で、実質的な地域への貢献度合いとしては「山口に一瞬さわやかな風が吹いた」という程度かもしれません。この点は今後の課題にしたいと思っています。
▼昨年度最優秀に選ばれた「言っちょる本」。地域の人から本にまつわる思い出や体験を募集し、表紙を隠した本とともに並べて販売する。
〉昨年実現された企画の紹介、書店店頭の様子はこちら
https://hon-hikidashi.jp/bookstore/45234/
――このプロジェクトは、日販(文榮堂)、大学どちらにとっても初めての産学連携でした。
そうですよね。初めてのことで、さらに時間とリソースが限られていたことを考慮すれば、ありうる可能性の中では良い結果を出すことができたのではないかと考えています。
経営成果という点では不十分だったかもしれませんが、非常に多くのメディアに取り上げていただいたことは、地域貢献の面では一定の成果の証だと思います。また教育効果という点では、非常に大きな成果をあげることができました。
欲を言えば、3つの企画それぞれが出した成果を、それを始点としてさらに飛躍させる方法があったと思います。「企画を実施する」ということをはっきり目的として位置づけてしまったために、「PDCAを回す」というところに至らなかった。これは運営側の問題だったと思うので、今年度は多少反映しています。
指導教員という立場から振り返ったときにも、「あの時点でできる限りのことはやった」という思いと、「たとえばもっと早い段階で強く私が関与していたら、より高い成果を出せたのではないか」という思いが両方ありますね。
――「学生と教員」という立場に限らず、そのバランスはプロジェクトの進行において難しいところだと思います。
ともあれ、日販の平木さんが何度も山口まで指導に来てくださったので、“実務家”と“教員”という2つの視点からプロジェクトを運営することができました。学生たちにとっても、いい刺激になったと思います。
――今年度の「文榮堂×山口大学 地方創生プロジェクト」に期待することは何ですか?
わくわく、したいです。昨年はどこか成果を出すことに対するプレッシャーがあったからなのか、学生の努力や想像力を尊重したつもりが、どこかで“ベタな何か”を求めていたような気がします。成果はもちろん大事ですが、学生たちが目を輝かせながら参加し、我々も胸のときめきが止まらない、というような展開を期待したいです。今回参加している学生もみなさん非常に個性的ですしね。
10月9日には、山口市中心市街地タウンマネージャーの弘中明彦さんに、まちづくりについての講演をしていただきました。そのなかでお伝えいただいた学生へのメッセージに、「何をやるかは〈自分のモノサシで、自分の意思で〉選んでほしい」「そして〈ドラマチック〉な道を歩んでほしい」というものがありました。私もその通りだと思います。すでに「もうしんどい」という声もあがっているようで、想定していた以上に学生たちは頑張ってくれているのかもしれませんが、夢や希望を持って語れる道の先に、思い描く地域とのつながりがあってほしいと願います。
・山口の老舗書店と地元大学生による地方創生プロジェクト 今年は6チームが参加
・地元の人々を〈本屋〉でつなぐ新しいコミュニティづくりへの挑戦――山口大学×文榮堂の「地方創生プロジェクト」3企画が実現