'); }else{ document.write(''); } //-->
全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。第14回にご登場いただくのは、北海道帯広市にあるザ・本屋さん コロニー店の副店長・岡澤牧子さんです。イチオシ本は、宮下奈都さんのエッセイ『神さまたちの遊ぶ庭』。帯広市がある十勝地方のご当地本です。
『神さまたちの遊ぶ庭』は、山﨑賢人さん主演で映画化(2018年6月8日公開)される『羊と鋼の森』と密接に関連する1冊でもあります。その理由とは?
北海道のちょうど真ん中、十勝・大雪山国立公園にあるトムラウシ。スーパーまで三十七キロという場所へ引っ越した宮下家。寒さや虫などに悩まされながら、壮大な大自然、そこで生きる人々の逞しさと優しさに触れ、さまざまな経験をすることになる。『スコーレNo.4』の宮下奈都が「山」での一年間を綴った感動エッセイを文庫化。巻末に、「それから」を特別収録。
2013年にお客様から、「十勝に移住した作家がいる。その体験を掲載している雑誌は何か」と、問い合わせを受けました。ネットで調べてもまったくわからなかったので、知名度がそれほど高くない作家だろうと思っていました。あとから、宮下奈都さんと知り驚きました。当時既に『スコーレNo.4』が書店員さんおすすめ本として話題になっていました。さらに『誰かが足りない』も本屋大賞にノミネートされるなど、よく知られた作家でした。
十勝は食料自給率1100%の農業、酪農業のまちです。小麦・豆・乳製品が特産物ですので、お菓子大国としても知られています。また、朝日に輝く氷「ジュエリーアイス」の豊頃町、日本一寒いまち陸別町など、自然が観光になっている場所も多くあります。
今回ご紹介する『神さまたちの遊ぶ庭』は、「北海道の雄大さを感じられる場所で暮らしたい」という夫の希望で、十勝のトムラウシに移住した宮下家の記録です。中3の長男、中2の次男、小4の長女の親子5人家族。外からの児童生徒を受け入れる山村留学制度を利用した1年間の生活。宮下さんも「遊びには行きたい。でも暮らすところではない」と、初めは思っていました。確かに、夏は虫が多く、冬は苛酷です。
でも、厳しいばかりではありません。家の裏手で遭遇したエゾシカ、凍った枝が朝日に輝く景色など、その場に居ないと体験できない絶景が、本を読んでいる私の目の前にひろがります。
この本の魅力は、宮下家がとにかく楽しいこと。子どもたちや時には夫が、突拍子もないことを言って、そこに鋭い突っ込みが入り、宮下家は驚きと大笑いの連続です。人間と野生動物が共生する大自然。そこで生活する人はたくましい。隣近所の人たち、先生方とのかかわりが濃密で優しい。笑えて、泣けて、読み終えてあたたかい気持ちになりました。
本書には、山を下りた町にある小さな本屋さんが出てきます。しかし販売されている単行本はたった1冊で、本屋大賞をとった本だけ。それを見て自分の本が売られているのを妄想するが、しみじみ無理だろうと思う宮下さん。
そんな北海道での出来事の3年後、宮下さんは『羊と鋼の森』で本屋大賞を受賞しました。その本の主人公の名前が外村(トムラ)くんです。トムラウシの生活をふまえて読むと、彼の心の内が一層理解できるのではないかと思います。
映画化、文庫化で話題の『羊と鋼の森』。是非、『神さまたちの遊ぶ庭』と合わせて読んでいただきたいので、当店では2作の関連性を説明したPOPをつけて、並べて置いています。
◆作り手からのメッセージ◆
北海道のトムラウシに移住した宮下家の一年間の記録をベースにしたエッセイです。宮下家の子どもたちの珍行動や迷言の数々は、のっけから抱腹絶倒! でも、トムラウシの人々の温かさと逞しさ、美しくも厳しい自然に触れた宮下さんの文章に、読んだ方は生きる元気をもらえるはずです。(光文社 文芸局 文庫編集部 松岡俊さんより)
ザ・本屋さん コロニー店(Tel.0155-33-5020)
〒080-0027 北海道帯広市西17条南3丁目
※営業時間 10:00~22:30
(「日販通信」2018年5月号「わが店のイチオシ本」より転載)
・山﨑賢人主演で映画化!『羊と鋼の森』で描かれる「調律師」とはどんな仕事なのか?