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全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第13回となる今回は、啓文社 岡山本店の副店長・長迫正敏さんに『キジムナーkids』という小説をご紹介いただきました。「キジムナー」というタイトルのとおり、本作の舞台は沖縄。しかしここ岡山県にも縁のある作品なのだそうです。
温暖な気候と晴天に恵まれて「晴れの国」と呼ばれている岡山県。
平成20年3月26日、岡山県岡山市にオープンした当店は、地域のお客様にご愛顧いただき、10周年を迎えることができました。開店以来、本好きな岡山のみなさんのお役に立ち、本という“モノ”と、本にまつわる“コト”を楽しんでいければと思い、地元の学校とコラボしたブックフェアやビブリオバトルなど、色々なイベントを行ってきました。
そんなわが店のイチオシ本は、もちろん岡山に縁のある作品です。
「大人も子どもも共有できる世界を描いたすぐれた作品」を対象とする、岡山市出身の文学者の名を冠した「坪田譲治文学賞」の第33回受賞作『キジムナーkids』です。全国のみなさんに「岡山の文学賞って知っとる?」と、ぜひおすすめしたくて選びました。
著者の上原正三さんは、1937年沖縄県生まれ。「帰ってきたウルトラマン」をはじめ、昭和の特撮番組の脚本を数多く書かれているシナリオライターです。
『キジムナーkids』は、太平洋戦争末期から終戦直後の沖縄を舞台にした自伝小説です。主人公は、怖がりで洟タレのため「ハナー」とあだ名をつけられた小学5年生の少年と、その仲間たち。配給所やアメリカ軍の倉庫から、食料やタバコなどの物資をかすめ盗ってくる悪ガキです。
しかし読み進めると、沖縄地上戦により身体と心に深い傷を負い、家族を喪った彼らの痛ましい過去が明かされます。それでも絶望せず、明日のために今日の空腹を満たすことだけを考えている彼らの姿に、生きるために必要な明るさとたくましさ、そして「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)という、人として最も大切なメッセージを感じます。
私は、著者が脚本を書かれていた「ウルトラマン」シリーズを、子どもの頃にリアルタイムで見ていた世代です。
本書を読んで思い出したことがあります。「ウルトラセブン」や「帰ってきたウルトラマン」では、ヒーローの活躍にワクワクすると同時に、何かもの悲しい気持ちにもなっていました。人間の愚かさ、大人といえども未熟で間違いを犯すこと、大人になるにつれて嫌な思いや虚しい出来事に出会うということを、『キジムナーkids』と同じく著者から教えられていたのではと感じます。
本を読むということ、物語に接するということは、色々な人生を疑似体験して、大人になった時の「気持ちの予行練習」をすると言えるのではないでしょうか。それは大人になってしまった私達にとっても……。
本書は、わが店のイチオシ本として、特設コーナーで展開しています。
また、過去の坪田譲治文学賞受賞作とともに、文芸書棚にもコーナーを作っています。
岡山に縁がある受賞作だからということだけでなく、より多くの方に手に取っていただきたい本です。
◆作り手からのメッセージ◆
著者の沖縄地上戦体験を子どもの視点で描いた「ウチナー版『スタンド・バイ・ミー』」。伝説の精霊キジムナーを拠りどころとし、傷つきながらも逞しく生きる少年たちの活写は、シナリオライターだからこそできる技。多くの痛みと豊かなウチナーグチ(沖縄ことば)を織り交ぜた、新しい沖縄文学の誕生です。(現代書館 編集部 山田亜紀子さんより)
啓文社 岡山本店(Tel.086-805-1123)
〒700-0973 岡山県岡山市北区下中野377-1
※営業時間 10:00~24:00
(「日販通信」2018年4月号「わが店のイチオシ本」より転載)