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町の本屋としてすでに地域にすっかり溶け込んでいるようすがうかがえる。開店からまだ半年とは思えないくらいだ。
「ありがたいことに、最初からあたたかく受け入れてもらいました。地域に支えられている店だと思っています。だから地域の方との交流は大切にしていきたい。春には文京さくらまつりにあわせた商店会のスタンプラリーにも参加する予定です」
午前中から昼頃の時間帯に店を訪れるのは、主にベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さん。文教地区という地域性もあって、手遊びやお絵かき、音楽教室など未就学児向けの習い事の帰りに立ち寄る親子も多い。やがて午後の下校時間になると、小学生が次々に顔を出し、店は一気ににぎやかになる。
「この間、近所のお母さんに交番みたいだと言われました。学校の帰りに毎日寄ってくれる子たちがたくさんいて、『○○ちゃん見ませんでした?』『あっちに走って行きましたよ』『△△くんいませんか?』『ごはん食べに帰りましたよ』そんな会話を交わす場面がよくあるんです(笑)」
中藤さんの前職はフリーライター。書店開業を決心したのは、子どもと絵本が好きで、本の楽しさや素晴らしさを子どもに伝えたい、子どもに喜んでもらいたいとの思いが強かったからだという。
「新しいことを始めるのはやっぱり怖かったですよ。でも開店初日に、近所の子から『家の近くに本屋さんができてうれしいです』という手紙をもらったんです。この店を作ってよかったと思いました。それに、児童書出版社の方たちがすごく応援してくださるのを肌で感じています。その期待に応えられるよう頑張らないと。こういう場所はきっと求められていたんだろうなと思います」
てんしん書房は、中藤さんのふるさと神戸で長年愛された児童図書専門店「ひつじ書房」(2017年12月に閉店)の流れを受け継いだ店でもある。店主の平松二三代さんから贈られた色紙が、てんしん書房の毎日を店の一角で見守っている。
てんしん書房のホームページには、こんな言葉が記されている。
〈てんしん書房ができること〉
こどもたちにとって、読書は鮮烈な体験です。
物語の世界の体験が喜びをもたらし、希望、生命への親しみ、尊敬といった心を育てるものであってほしいと考えています。
てんしん書房は良書と出会う、こどもたちが素晴らしい体験をするお手伝いをさせていただきます。
良い本を読んだ深い満足感は読書習慣につながり、豊かな人生にもつながるのではないでしょうか。
ひとりでも多くのこどもたちが本を好きになりますよう、てんしん書房は日々努力いたします。
だから中藤さんは、子どもたちの「おもしろかった」という一言に、何よりもやりがいを感じるという。
「『おもしろいから読んでみて』と渡した本をその子が買ってくれて、次の日の学校帰りに走ってきて『すごくおもしろかった!』と言ってくれたら、本当に幸せ。実は店を開くまで、今の子どもたちは本に全然興味を持たないんじゃないかと悲観していたんです。でも、みんな本が好きですごくうれしい」
「最初は1日1冊売れればいいかなくらいに思っていたけど、やってみたら結構いけるなと欲が出てきました(笑)。品揃えもどんどん理想に近づいているし、開店した時より確実にいい形になってきたと思います」
ネット書店は大人が効率的に本を買いたいときに使う場所であり、子どもには絵本の実物に触れられるリアルな書店が必要。それが中藤さんの持論でもある。
「町の本屋がなくなって一番困るのは子どもだと思います。何でもそうだけど、最初に犠牲になるのは弱者。本屋が減って出版業界が小さくなっていったら、最初に影響を受けるのは一番の弱者である子どもです。だから、うちくらいは子どもに特化したお店でありたい。そんなふうに思っています」
(2018年2月28日取材)
●てんしん書房 店主・中藤智幹さんのイチオシ絵本
てんしん書房(Tel.03-3830-0467)
〒112-0002 東京都文京区小石川5-20-7 1F
※営業時間 10:00 ~暗くなるまで
http://tenshin-shobo.com/
https://twitter.com/kodomo_honya
※本記事は、「日販通信」2018年4月号に掲載された「特集 児童書販売2018」の転載(一部編集)です。