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全国の書店員さんが一押し本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第9回にご登場いただくのは、広島市にあるフタバ図書MEGA中筋店の中塚大樹さんです。
イチオシ本は、まど・みちおさんのインタビュー集『いわずにおれない』。まど・みちおさんは、「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」などの童謡でおなじみの詩人であり、“児童文学のノーベル賞”ともいわれる国際アンデルセン賞作家賞を日本人で初めて受賞した方です。2014年に104歳で亡くなりましたが、晩年に至るまで創作活動を続け、数多くの作品を残しています。
まど・みちおさんの「ぞうさん」は、口ずさんだことのない人はいないといっていいほど、多くの人に愛され続けている童謡である。しかし、幼い頃から聞いていたからこそ、その詩についてよくよく考えたことがある人は少ないのではないだろうか。少なくとも私は、今まで考えたことがなかった。
今回ご紹介する『いわずにおれない』は、数多くの名作を生み出してきた詩人、まど・みちおさんの、詩やいのちに対する謙虚さ、真摯な姿勢を伺い知ることの出来る1冊である。
本書は、基本的にはまどさんへのインタビュー形式で進められており、その詩がどういうふうに読まれたがっているか、について語られている。
この「どういうふうに読まれたがっているか」という考え方が、詩を敬遠していた私のハードルを大きく下げて、読んでみようと心を動かしてくれた。まどさんは「感じ方に正解はなく、詩がどう思われたがっているかだけがある」というのである。
そもそも詩自体に触れる機会は、学校の教科書ぐらいしかなく、卒業してから詩とはどんどん縁遠くなってしまっていた。むしろ詩と聞くと、どうしても勉強のイメージがあったので、あえてあまり触れてこなかったぐらいである。そんな私が、たまたまこの本を開いた瞬間に目にした「いわずに おれなくなる」という詩に一目ぼれして、夢中で読んでしまった。
どんな人でも、意識している・していないにかかわらず、何かを避けていることがあるだろう。私も、一度苦手に感じるとつい視界から遠ざけてしまうものがあるが、そんなことをすると、どうしても新たな発見は少なくなる。
まどさんは96年間(2005年当時)、新発見のない日がほとんどなかったという。それは、誰もが見えているはずなのに見ていない景色を、まどさんは見ていたということなのだろう。そして、その新発見の源である観察力は、尽きない遊び心やいきものへの尊敬からくるのではないだろうか。
当店ではこの『いわずにおれない』を、当店の店長・伊藤のおすすめ棚である遊び心満載の“伊藤商店”の一角に置いている。
まどさんの観察力は、日々の仕事に埋没しがちな人にとって、いつもと異なった視点を持つ良いきっかけを与えてくれるに違いない。
私自身、近くにあっても見ていなかった詩を手にとってみたことで、思いもよらぬ感情が芽生え、今までと違った自分を見つけられた気がして、わくわくした。
書店員としては、このような当たり前の日々の中に隠れている面白さや新しさを、お客様が発見できるような空間をつくっていきたい。
◆作り手からのメッセージ◆
ぞうさんの鼻やアリさんの詩で多くの人に愛されている詩人の素顔に触れたくて、当時96歳のまどさんを直撃しました。いのちあるものはみんな違うから素晴らしい、だから価値がある。そう繰り返し話すまどさんの世界をたっぷり1冊の本にしました。最初で最後のインタビュー集です。(集英社『いわずにおれない』編集担当 木造直美さんより)
フタバ図書MEGA中筋店(Tel.082-830-0600)
〒731-0122 広島県広島市安佐南区中筋4-11-7
※営業時間 10:00~24:00
(「日販通信」2017年12月号「わが店のイチオシ本」より転載)