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  • カレーには「サイエンス」「カルチャー」「ノスタルジック」の3種類ある―「curry book project」vol.3レポート(後編)

    2017年04月06日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 浅野
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    水野:こんな素直な方もいるんですよ。

    会社をやめた後、原宿の占い師に相談した時に「カレーがいいんじゃない」と言われました。今までメカニカルな仕事をしていたので、まったくカレーには詳しくありません。とりあえず調理師免許を取るべく、動く予定です。

    浅井:すごい。大丈夫ですかね?

    水野:この占い師の「カレーがいいんじゃない」は、お母さんの「だいたいでいいんだよ」とは違いますね。だいぶ適当な感じがする(笑)。

    浅井:「カレーがいいんじゃない」って訳分かんないですね(笑)。

    水野:あ、これはあれですね、耳が痛い……。

    付き合う彼氏が変わると、カレーのうんちくも変わる。男のロマンは面倒臭いと思う。

    浅井:うわあ……。

    水野:これは共感呼びますかね。かなりの女性に。

    浅井:でも、じゃあ、カレーのうんちくを皆持ってるってことですね? 男性は。

    水野:カレーが特別に好きなわけじゃなくても、カレーについては言いたいことがあるんですよ。恐らく大抵はですね、男女が付き合った時に、女性が料理を作って男性と一緒に食べるみたいなシチュエーションがどこかであって、どこかでカレーが出てくるわけじゃないですか。

    で、これが一番面倒臭いんですけど、彼が自分の「ノスタルジックカレー」と彼女のカレーを照らし合わせたりして、その時にうんちくが語られたりとかすると、本当に面倒臭くなるわけですね。それが彼のおふくろカレーだったり、前の彼女のカレーだったりすると、本当にややこしい。きっとそういうことですよ。

    浅井:嫌ですね~~、それは。

    水野:では最後です。

    親戚一同が集まった席で、祖母が自慢のカレーを振る舞ってくれました。皆で楽しく談笑していたのですが、祖母が席を外した途端、叔母や母が「なんかこれ焦げてない?」と、祖母がカレーを焦がしてしまったことを一斉に指摘し始めました。当時6歳くらいだった私はそれを聞いて、何だか祖母がかわいそうになって、泣いてしまいました。しばらくして戻ってきた祖母は、私がカレーが辛くて泣いているんだと勘違いして、『ごめんね、ごめんね』とひたすら謝っていました。

    浅井:すごい、切ない……。

    水野:これも18歳の人だ。

    浅井:これも短編小説になりそうですね。

    水野:ということは、2本いけましたね。

    浅井:あれ、インドちゃんは……?

    水野:うーん……祖母とインドちゃんが関係してきたりとか、おばあさんがかわいそうで泣いてしまった子が、翌日うさぎにニンジンをあげてしまうとか……。

    浅井:カレーまみれ(笑)。

     

    編集者は文学作品にどう関わるのか

    水野:浅井さんが日常生活を送っていて「あ、こういうのは物語になりそうだ」と考えが浮かんだ時、「あの人に書いてもらいたい」というふうに繋がることはありますか?

    浅井:他の小説を読んでいて、「こういう設定で他の人に書いてもらいたい」と思うことはありますね。

    水野:それで実際にアプローチもします?

    浅井:現代の作品はないですけど、海外の作品とか、古典とかだとありますね。「読んでください」と言って、本を渡したり。

    水野:それは、作品がまだ何も書き進められていない時のことですか?

    浅井:そうですね。執筆途中だと、たとえば『コンビニ人間』の時は、「自分はコンビニに対してこう思っている」とか「何を買っている」とかは話しました。参考になっているかは分からないですけど、話しているうちに何か生まれたらいいなあと思います。

    水野:「こういうふうに書き換えてください」ってことはないですか。

    浅井:そういう言い方はしていないと思います。「この場面がちょっと分かりにくい」とか「この人がこういう行動をするのはなぜですか?」とか、具体的に話したりはします。「この登場人物は今後どうなるのか」とか。

    たぶん、書かれていないことの方が多いんですよね。頭の中にあるものを、圧縮したり間引いたりしたのが作品なので、書いている時は「そっちの世界も知りたいな」と思います。そこを引き出すのが、編集者の役割かなと思っています。

    水野:「頭の中にあって、まだ出てきてないもの」ですか。

    浅井:意外と、「あ、その後のことは考えてなかった」っていうことがあるんですよね。

     

    水野仁輔はすでに「カレー×文学」に関わっていた!

    浅井:実は今たまたま、カレーをモチーフにした小説を作ろうとしていまして。その作家さんが、水野さんにお話を伺いに行っていたということを聞いたんですよね。

    水野:それはね、思い出せないんですけど……5年くらい前だった気がする。5年かどうかはっきり分からないけど、だいぶ前だったような気がします。

    浅井:そうやって、長いスパンをかけて小説が作られることってよくあって。冲方丁さんの『十二人の死にたい子どもたち』って、構想に12年かかっているんです。12年前にお話とタイトルが生まれていたらしく、そこから12年かけてやっと作品になったという。

    十二人の死にたい子どもたち
    著者:冲方丁
    発売日:2016年10月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,674円(税込)
    ISBNコード:9784163905419

    水野:それは文藝春秋さんが、昔からアプローチをかけていたんですかね?

    浅井:初代担当が冲方さんに会いに行って話をしていて、でも異動があったりして、私は本を作るところだけに関わりました。

    水野:ということはその、カレーをモチーフにした小説も、引き継ぎで浅井さんがやる可能性もあるわけですよね。

    浅井:そうですね。たまたまその作家さんを私も担当することになったので、水野さんが関わってベストセラーになるかもしれません!

    水野:打ち合わせをしたことは、すごくよく覚えてるんですよね。どうなったんだろうなーとたまに思い返したりはしてたんですが……。

    浅井:これは出るとしたら、来年のよきところで刊行すると思いますね。カレーを作って対決するという話なので、皆さんぜひよろしくお願いします。

    水野:あらすじというか設定を聞いて、僕は面白いなと思って、惹かれてるんですよね。実際にあったことがちょっと関係しているので、余計に「どうなるんだろう」と興味がわいています。

    浅井:うんうん。

    水野:実は僕、来年すでに出ることが決まっていて動いているカレー本が、5冊あるんですよ。これはもう前代未聞の数で、どうなるんだろうと思ってるんですけど。その5冊のうちに小説はありませんが、今日の浅井さんとのお話を踏まえて、「分からないこと」を意識して、この5冊に少しずつ込めてみようかなと思っています。

    浅井:レシピ本だとさじ加減が難しいですよね(笑)。

    水野:ミステリアスなレシピ本。「これ、このまま作ってったらどうなるんだろう」みたいな……(笑)。でもエッセンスは、小説に限らずすごくあると思うんですよね。今日は良いヒントをいただけた気がします。引き続きよろしくお願いします。

    浅井:こちらこそ、よろしくお願いいたします。

    ***

    企画会議第3弾はここまで。なかなか筆が進まないとおっしゃっていた水野さんですが、よい小説のアイディアは思いついたのでしょうか? 水野さんが取材を受けたという本の刊行も楽しみですね!

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