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  • 「カレーの玉ねぎを細かく切る必要はあるのか?問題」にひそむ、売れるカレー本のヒント―「curry book project」vol.2レポート(後編)

    2016年12月03日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 浅野
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    アスコムの柿内さんが「本」を作る時に考えていること

    水野:私は名言フェチなので、普段人と会う中で刺さった言葉をメモに残してるんです。吟味しているので年に5つくらいなんですが、2016年の僕の名言メモは今3つあって、そのうち一つが柿内さんの言葉なんですよ。「本は読者が出会った時が新刊だ」っていう言葉。あれは刺さりましたねえ。中華料理を食べて、飲んで、帰りに自転車こぎながら「そうかあ、出会った時が新刊かあ~」って反芻しながら帰ったんですよ。作る側はどうしても、出したときが新刊だから。

    柿内:本って、そういう可能性が結構あるところが良さですよね。

    水野:発売から年月が経っていても読者に選ばれるってことは、プラットフォームを見つけて出して作った本なんでしょうねえ。せっかくなので、柿内さんの名言集をどんどん出していってもいいですか? 「タイトルは吐くくらい考える」「プレゼントしたくなる本」……。

    柿内:実は売れている本って、人にプレゼントされていることが多いんですよ。読者はがきでも「10冊買って、周りの人にプレゼントしました」とかよく書いてあります。だから技術的な話になりますが、プレゼントしやすいように(たくさん買うと重いので)軽く作るというような工夫もしています。

    水野:続いて、これは先ほども紹介しましたが「実用にも感動は必要だ」。あとは「役に立つのはあたりまえ。おもしろくなってる?」。

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    柿内:バーンと背中を押してくれて、行動に結びつくような本になるようにといつも考えてますね。今『はじめての人のための3000円投資生活』っていう本が売れているんですけど、「この本に出会えて人生が変わりました」という読者はがきを送ってくださった方がいるんです。

    はじめての人のための3000円投資生活
    著者:横山光昭
    発売日:2016年07月
    発行所:アスコム
    価格:1,210円(税込)
    ISBNコード:9784776209119

    ほんのひきだしでもご紹介しています!
    初心者におすすめ!『3000円投資生活』人気の理由は「損の少なさ」と「分かりやすさ」にある

    柿内:すぐに儲かる方法を紹介する本ではないので「成功しました」という報告ではないんですが、それまで「お金がないからできない」「難しそうだからやめておこう」と思っていた人が、この方法なら自分にもできると思って一歩踏み出したところで、その人の人生は変わってるんですよね。実用書なのに、実用性を評価する前の時点ですでに価値がある。

    水野:著者からすると、カレーの本ってとにかく実用書が売れてきたから、「実用書を作るんだ」と思った時点で感動が頭から取っ払われて「とにかく役に立つものを作ろう」って思っちゃうんですよね。例えばすごくおいしいカレーを作るには7種類のスパイスが必要だけど、一般の家庭で7種類もスパイスを揃えるのは大変だから、3種類にしようとか。「7種類使ったらすごくおいしい」っていうことを、一回思考から外すんです。

    柿内:そうなんですか!!

    水野:もはや脅迫観念みたいなものになってます。あとは柿内さんの名言集に入っていますが、「ターゲットを絞らない」っていうのも大変ですよ。僕は本の中身を考える時、「今回の本はどんな人が読むだろう」っていうところから割と入ってます。

    柿内:もちろん想定ターゲットは考えたほうがいいんですけど、「都内に住む20代後半の会社員。趣味はサイクリング」というところまでターゲットを狭めてしまうと、大きくヒットする可能性は低くなると思います。あるテーマについてAという人も、Bという人もいる。Cという人にも届いてほしい。共通するところをうまくつなぐと……

    水野:プラットフォームになると。

    柿内:そうです。

    水野:これも気になりますね。「ビフォー・アフター・アフター」。

    柿内:「実用書にも感動は必要だ」にも繋がるんですけど、ビフォーがあって、アフターがあって、その結果何があったかも伝えるといいと思うんですよね。

    水野:例えばダイエットでも、「やせた後に何をしたいか」はきっと皆ありますよね。

    柿内:水野さんが皆にカレーを振る舞うのにも、したいことがあるんですよね?

    水野:カレーでコミュニケーションしたいっていう、もう十数年にもなる目的があります。最終目的はコミュニケーションであってカレーではないので、手段は別にカレーじゃなくてもいいんですけど。

    柿内:えっ!? いいんですか。

    水野:いいんです。でもラーメンやハンバーグよりも、カレーのほうがコミュニケーションできると思っているから、やってるんです。

     

    環境に流されずに、まっすぐ読者を見る

    水野:これもいいですね、「自分ごと・他人ごと・社会ごと」。僕はカレーの本を出し始めて長いですが、ようやく最近、他人ごと・社会ごとにも目が向くようになりました。さっきタイトル付けの話をした時にも話しましたが、本なんてなかなか出せるもんじゃないから、いざ作るとなったら自分の言いたいことを一生懸命詰め込むわけです。それでも伝わらない。そう思っていたんですけど、5~6年前から「誰かのためになる本を書こう」という方向にスイッチしたら、売れるようになったんですよ。相当時間がかかりましたね。著者ってエゴがすごいんだなって思いました(笑)。

    柿内:「オリンピックで海外の人が日本に来た時に、カレーがどんな存在であったらいいか」というお話は、まさに社会ごとですよね。でも、水野さんみたいに言いたいことがたくさんある人が、著者になるんですよ。

    水野:海外から来た人に、僕が作ったカレーを食べてほしいわけじゃないんですよね。カレーというものに触れてくれればいい。

    柿内:昔の水野さんだったらお店を出して、「俺のカレーを食べてくれ!」とおっしゃっていたかもしれないと。

    水野:この「柳の下より柳の隣」っていうのは、どういうことですか?

    柿内:あるものが売れたら、それにわーっと追従するというのがよくありますよね。それが「柳の下のどじょう」。でも実際は、今は柳の下にどじょうなんかいないんです。ふくらはぎブームの時には結構類書が出ましたが、そんなにヒットはしなかったはずです。量産型のものなら安価に、それこそインターネットで対価を支払わずに手に入れることもできるんですよ。だから似たような企画をやってもヒット作は作れません。それよりも「これを買った人は、次に何を欲しいと思うだろう」と、買った人の潜在意識に目を向けたほうがいいと思います。

    水野:「売れているものを見るんじゃなく、お客さんを見る」ですね。

    柿内:まさにそれです。

    水野:「幻想を抱かない」というのは?

    柿内:本を作ってる時に「これヒットしちゃうんじゃないかな~」とか思うことがあっても、ほぼそういうことはないという意味です。幻想を抱くのではなくて、その本をどう届けていくかに頭を使いましょうと、社内ではいつも言っています。

    水野:これもいいですね、「出版不況のせいにしない」。こういうことも社内の編集者たちにおっしゃってるわけですね。

    柿内:「だったらそもそも、本作らないほうがいいじゃない」っていう話になっちゃいますからね。自分たちにどうにもできないことのせいにするんじゃなくて、できるだけ多くの人に読んでもらえる本づくりをしましょうと。

    水野:冒頭で柿内さんがおっしゃっていた「100万部売れるジャンルは限られている」「その中にカレー本はない」というのも、自分ではどうにもできないことですよね。それでもやっぱり僕はカレーの世界にいるので、カレーの世界で頭をひねらなくてはならんなと思います。今日はありがとうございました。

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    ***

    普遍的な土台の上に、トッピングの自由さをもたせた「プラットフォーム」的な本。手に取った人の役に立つだけでなく、感動を与えて人生を動かしてしまうような本。柿内さんとの対談で、水野さんはどんな最後にどんなカレー本を思い描いたのでしょうか。

    「curry book project」第3弾は12月7日開催です。こちらもお楽しみに!!

    作家・又吉直樹を生んだ文芸編集者と「究極のカレー本」を考える!「Curry book project」第3弾開催【12/7・東京】

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