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  • 「カレーの玉ねぎを細かく切る必要はあるのか?問題」にひそむ、売れるカレー本のヒント―「curry book project」vol.2レポート(後編)

    2016年12月03日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 浅野
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    タイトルは本の「顔」。だから嫌になるほど考える

    水野:柿内さんがおっしゃってた言葉には、他に「タイトルは嫌になるほど考えろ」というのもあるんですが、やっぱりこれは、タイトルで欲しいと思わせないとだめだっていうことですか?

    柿内:本は一冊作るのに時間がかかりますし、できるだけ読者に価値を感じてもらえるように中身にかなり力を注ぐので、カバーやタイトルって最後に考えることになるケースがよくあるんですよ。スケジュールが詰まってくると、かけられる時間はさらに削られていきます。でもカバーとかタイトルって、本の「顔」になるところだから、本当は一番考えなきゃいけないんですよね。それこそ嫌になるくらい。

    僕たちがタイトルを考える時によくやるのが、世の中にある名言を集めてきて眺めること。名言って長い間愛されて色んな人に届いてきたものだから、言葉としての強さがあるんですよね。それをじーっと見て、著者のメッセージと結びつかないかなあと考えるんです。ちなみに『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』という本のタイトルは、スティーブ・ジョブズさんが母校で行った卒業スピーチの言葉を見て決めました(「今日が人生最後だとしたら、今日やることは本当にやりたいことだろうか」)。実際に読者はがきでも、「タイトルで買うのを決めた」と書いてくださってる方が多いんですよ。

    今日が人生最後の日だと思って生きなさい
    著者:小澤竹俊
    発売日:2016年02月
    発行所:アスコム
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784776208952

    水野:ちなみに僕、名言フェチというか、名言大好きなんですよ。その割には、良いタイトルの本出せてないですけど(笑)。伝えたいことがたくさんある中で、タイトル、サブタイトル、帯っていう本の「顔」のところに何をどう置くか、すごく悩むんですよね。

    柿内:帯のコピーも、すごく重要ですね。つい理屈で考えがちですけど、僕は感情面を重視しますね。

    水野:電車の車内広告で、読者の声がたくさん書いてあるものってよく見るじゃないですか。きっと作った側の思いをうまく文字にするより、実際に読んだ人の声の方が心に届くんでしょうね。

    柿内:「共感」は大切ですよね。説得力がありますし。

    水野:コピーライターだったら思いつかないような言葉が出てきたりもしますからね。「Air Spice」を販売しているサイトでお客さんからのレビューを募集していたことがあったんですが、「一回で天才になれた」と一言書いてくださった方がいて、「これはすごい、コピーにいただこうかしら」と思ったりしました(笑)。

    柿内:『「のび太」という生きかた』という本を出した時に似た経験がありましたね。もともとは20~30代くらいの男性をターゲットに想定して作った本だったんですが、ある時から子どもの書いた読者はがきが届くようになったんですよ。「僕ものび太みたいに生きていこうと思いました」というふうなことが書いてある。なんだろうと思って購入者層を調べてみたら、同じ頃から40代の女性が増えている。つまり、お母さんが子どもに買っていたんです。

    「この本は、子どもにも届くんだ」ということをそこで知って、それまでビジネス書売り場に置いてもらっていたのを子ども向けの本のところにも置いてもらうようにしました。夏休みの時期に書店さんで課題図書の隣に置いてもらうと、結構売れたりするんですよね。やっぱり自分の頭では思いつかないことを、読者の声は教えてくれます。

    「のび太」という生きかた ポケット版
    著者:横山泰行
    発売日:2014年11月
    発行所:アスコム
    価格:880円(税込)
    ISBNコード:9784776208501

    水野:とはいえ、やっぱり中身が伴っていないと上滑りしますよね。企画もよくないといけないし、それをタイトルでより良く見せなくてはいけない。

    柿内:ええ、そうですね。

     

    大反響を呼んだ「カレーの玉ねぎを細かく切る必要はあるのか? 問題」

    水野:タイトルに関しては訓練というか、どうキャッチーに見せるかっていうのを「note」の連載で試行錯誤してるんですよ。カレーを作る上での悩みや問題を一つずつ取り上げて、自分の見解を述べる連載なんですけど、「箱の裏に書かれたカレーのレシピは、正解なのか? 問題。」「そのルウカレー、うま味、足しすぎじゃないのか? 問題」「カレーをおいしくするのは生トマトかトマト缶か? 問題」っていうふうにタイトルのフォーマットは統一して、その問題が皆の興味を引くか、タイトルとして読んでみたいと思わせられるかっていうのをポイントに考えているんです。

    noteでの連載「ファイナルカレー」

    水野:そのうちの一つが、今回イベントのお知らせにも使った「カレーの玉ねぎを細かく切る必要はあるのか? 問題」なんですけど、これは他のテーマの10倍以上の反響があったんです。内容自体は他の問題とそう大差ないと僕は思っていて、なんだったら「カレーはふたをして煮込んだほうがうまくなるのか? 問題」の方が自信があったんですが。

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    柿内:これは僕の仮説ですけど、玉ねぎを細かく切ったりじっくり炒めたりするのって、必要な工程だと思われている反面、面倒くさいと思ってる人がかなり多いと思うんですよ。でも、実際に作って比べてみる人はほとんどいない。だから「目からウロコ」感があるんですよね。

    水野:多くの人が信じている常識がまずあって、それが覆る。しかもそれが「楽できる」とか「何かの手助けになる」というのがいいんですね。

    柿内:実用書の企画を作る時の、鉄板の考え方です。

    水野:これが「おいしいカレーをつくるのに玉ねぎは必要か?」っていうところまでいっちゃうと……。

    柿内:いっちゃうと、共感度が下がりますね。「玉ねぎが必要なのは分かってるけど、そこまでやる必要はあるの?」という塩梅がいいんですよ。僕たちも結構たくさん失敗はしていて、玉ねぎやショウガの健康本が売れたからと『1日1本で医者いらずになる 黒バナナ健康法』を出したんですが、これはベストセラーまではいかなかった。玉ねぎ、ショウガ、トマト、ニンジン、バナナって、健康食材としては王道だと思ったんですけどね。微妙なラインで結構差が出ます。

    水野:その差の理由が知りたいなあ。「カレーの玉ねぎを細かく切る必要はあるのか?」と「玉ねぎは飴色になるまで炒める必要があるのか?」だったら、どっちがいいんだろう。

    柿内:そういう時には、やっぱり人に聞いてみるのがいいんでしょうねえ。タイトルの選び方には、基準があるんですか?

    水野:できるだけシンプルにして伝わる速度を短くしようとは思っていますが、それ以外は感覚ですね。似たような切り口でもちょっと違うだけでコケてしまうというのが難しいです。

    柿内:本は出したらそれきりなので、出した後に「あっちのタイトルのほうがよかった気がする」と悔しい思いをすることがよくありますね。変えられる仕組みになってくれたら嬉しいんですけど(笑)。

    水野:しばらくしてから、まるで新刊かのようにカバーを変えて出し直すというのはできないんですか?

    柿内:できないですね(笑)。帯は変えられるので、印象を変えたい時は太い帯に変えたりしていますが。

    水野:タイトルはコケたけど、帯で挽回しようと(笑)。

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